高速バスの運転士に「サービスエリア(SA)でカレーライスを食べている」とクレーム

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「中部地区の高速バス運転士」を名乗る人が6月3日、「バスの運転手さんがサービスエリア(SA)でカレーライスを食べている」という内容のクレームを受けたことをツイッター上で公表し、「正当な食事休憩だろう」「クレームをつける意味が分からない」「悲しい」など、クレームに対して批判の声が殺到しました。

 過去には、警察官や救急隊員が制服姿でコンビニエンスストアなどに立ち寄った際に、「警察官が買い物をしている」「サボっているのでは?」といった内容のクレームが寄せられたケースがありましたが、なぜ運転士や公務員が店で食事をしたり、買い物をしたりするだけでクレームを入れる人がいるのでしょうか。ハラスメント問題に詳しい、特定社会保険労務士の鈴木教大さんが分析します。

「相手は言い返してこない」という思い込み

 昨今、カスタマーハラスメント(以下カスハラ)が社会問題となっています。これは、売る側と買う側の上下関係から、客が「お客さまは神さま」という理論を振りかざして店員に理不尽なクレームを入れたり、理不尽な要求をしたりして、相手を困らせる行為です。電話など顔が見えない場合は、行為がさらにエスカレートする傾向にあります。

 私は、パワハラやカスハラなど、さまざまなハラスメント問題の相談に応じていますが、近年、企業からのカスハラの相談は、かなり増えています。以前はセクハラに関する相談が多かったのですが、その後、「パワハラ→カスハラ」といった形で、ハラスメント問題の主流がカスハラに移っている印象があります。

 カスハラの被害は深刻です。例えば、仕事を定年退職した人が暇を持て余して自身の価値観で相手を傷つける言動を取り、その結果、対応する従業員が苦しみ、うつ病や適応障害、退職などに至ったケースがあります。一方、加害者は、相手を傷つけている認識がないため、非常に問題です。

 ところで、今回、発生したバスの運転士に対するクレームのほか、過去に発生した警察官や救急隊員へのクレームは、カスハラの延長線上の行為だと思います。

 こうした特定の職業の人の行動にクレームを入れる人の心理として、社会や仕事、交友関係に対する不満など、自分自身では変えることができない不満に対して鬱憤(うっぷん)がたまっていると考えられます。そのはけ口として、たまたま見掛けた運転士や警察官などにクレームを入れているのではないでしょうか。

 クレームを入れる人は、「サービス業の人や公務員は言い返してこないだろう」という思い込みから、サービス業に携わる人や公務員をストレス発散の相手として認識しており、企業や自治体が格好の餌食となっています。クレームを入れる人は、絶対に反論してこない相手を見つけて謝らせたり、だましたりすることで自分の存在を確認し、快感を得ているのでしょう。

 本来、運転士や警察官も休憩時間がありますし、昼食用に飲食物を買うこともあります。トイレにも行きたくなるでしょう。彼らの休憩を邪魔する権利は誰にもありません。

 なお、「警察官がコンビニエンスストアを積極的に利用する」と公表する自治体も登場しています。事前に公表することで、無駄なクレーム対応が減ることでしょう。警察官がコンビニエンスストアを利用することで、犯罪抑止の効果も考えられます。

 自分自身を守る上でも、業務時間中に相手から理不尽なクレームなどを受けた人は、それが侮辱罪や暴行罪、業務妨害罪、強要罪などの犯罪に該当するようであれば、ちゅうちょすることなく警察に通報すべきです。

 今後、企業や自治体は、理不尽なクレームを入れてくる相手に対しては、毅然(きぜん)とした対応を心掛ける必要があります。従業員や自治体職員のメンタル疾患予防として、職場の上司などによるフォローも欠かせないでしょう。理不尽なクレーマーに対しては、職場全体で対応していきましょう。