熱中症対策の水分補給が逆効果に? 「ペットボトル症候群」とは? 医師に聞く
全国各地から熱中症のニュースが耳に入るようになった、この頃。熱中症対策として水分補給が大切ですが、スポーツドリンクなど糖分を含む清涼飲料水を飲み過ぎると、「ペットボトル症候群」と呼ばれる症状が出て、意識障害が起きることもあるそうです。では、無糖や微糖の清涼飲料水なら大丈夫なのでしょうか。さまざまな疑問について、糖尿病専門医の市原由美江さんに聞きました。
水分補給を清涼飲料水のペットボトルで賄う人は危険
Q.ペットボトル症候群とは、どのような症状なのですか。
市原さん「スポーツドリンクなどの清涼飲料水には多くの糖質が含まれており、大量に飲むと血糖値が上がります。血糖値がだいたい180ミリグラム/デシリットルを超えると、尿の中にブドウ糖(尿糖)が出るようになり、尿量が増えます。体内から水分が多く出るため喉が渇き、清涼飲料水を日常的に飲む人はその渇きを解消するために、さらに清涼飲料水を飲むという悪循環に陥ることがあります。
通常は大量の糖質に対して、インスリンが分泌されて血糖値を下げようとしますが、急激で過剰な糖質の負荷にインスリンの分泌が追いつかなければ、さらに血糖値が上がっていき、糖尿病になってしまいます。これが『ペットボトル症候群』です」
Q.ペットボトル症候群はどのような症状が出るのでしょうか。また、どのような人に症状が出やすいのでしょうか。
市原さん「吐き気や倦怠(けんたい)感、意識障害が起きることがあります。症状が出やすいのは、2型糖尿病の家族歴がある人、境界型糖尿病、いわゆる糖尿病予備軍など血糖値が少し高めの人です。
また、普段から清涼飲料水を習慣的に飲んでいる若い人は、暑い時に水分補給でさらに多く飲むと思います。血糖値が高いかどうか、若い人は自分自身であまり意識をしていないこともあると思うので、突然発症することがあり得ます。
Q.清涼飲料水を1日にどれくらい飲むと、症状が出やすくなると言われていますか。
市原さん「清涼飲料水500ミリリットルのペットボトル1本に含まれる糖質は、スポーツドリンクで約30グラム、コーラやサイダーで約50グラムと大量です。摂取した糖質を体内で正常に処理できるかどうかは個人差が大きいので一概には言えませんが、このようなペットボトルを1日に1〜2本飲む程度であれば、問題ないことが多いと思います。
しかし、水分補給をお茶や水ではなく、清涼飲料水のペットボトルで全てを賄う人は危険性が高まります。ペットボトル症候群で病院の外来を受診する患者さんでいうと、1日に2リットル以上の清涼飲料水を飲んでいる人が多い印象です」
Q.無糖や微糖の清涼飲料水もいろいろと販売されています。こうした糖分が少ない、あるいは糖分が含まれていないとされている清涼飲料水であれば、ペットボトル症候群の心配はないのでしょうか。
市原さん「清涼飲料水の中でも、無糖のものは全く問題ありません。微糖のものは、100ミリリットル当たり2〜3グラムの糖類が含まれていることが多いのですが、これは通常の清涼飲料水に含まれる糖質の半分以下なので、よほど大量に飲まない限りは心配ありません。
夏に水分補給をするときには、喉の渇きで想像以上に、一気に飲み物を飲んでしまうことがあります。暑さ対策のために水分補給を清涼飲料水でする場合、可能な限り、無糖や微糖を選んだ方が安心でしょう。糖質の少ないスポーツドリンクも今は手軽に購入できます」
Q.ずばり、ペットボトル症候群の防止策を教えてください。
市原さん「糖質たっぷりの清涼飲料水で水分補給することはそもそも控えるべきです。糖尿病や肥満を誘発します」
Q.清涼飲料水以外では、どのような飲み物が水分補給として最適でしょうか。
市原さん「水分補給には、お茶や水が適しています。熱中症予防のためには、カフェインをあまり含まないものが理想的なので、麦茶やルイボスティーがお勧めです。その他のお茶でも、カフェインによる利尿作用は過度に心配する必要はないので、お茶の種類を気にし過ぎずに積極的に水分補給をするようにしましょう」
Q.水分の補給は、どれくらいのペースがよいのでしょうか。
市原さん「起床後、食事中、入浴前後、就寝前の1回に約200ミリリットルの水分補給は意識するべきタイミングです。特に暑い夏場は、食事と食事の間の時間帯にもこまめに摂取すると良いと思います」