“たん”が絡むのはなぜ? 色で体の状態が分かる? 原因&対処法を医師が解説
風邪をひいたときなどに、「たんが絡む」と感じた経験がある人は多いのではないでしょうか。なぜたんが絡むのでしょうか。たんの色で病気を判別することは可能なのでしょうか。医療法人社団三橋医院理事長で、医師の藤井崇博さんに聞きました。
ウイルス感染、喫煙などが原因
Q.そもそも、なぜたんが出るのでしょうか。また、たんが絡むときは、どのような病気の可能性がありますか。
藤井さん「たんは、気管にある細菌やウイルスなどの異物を排出するために気道から出される粘液です。つまり、たんが出されるということは、細菌やウイルスに対する体の防御反応が正常に機能していると言えるでしょう。たんの量が多い場合は、体が細菌やウイルスを体外に排出している状態だと考えられます。
細菌やウイルスを追い出すために重要なのが、気道の表面にある線毛です。線毛は細かい毛のような形をしており、粘液がキャッチした異物を押し出しています。その際にせきが出るのです。また、細菌やウイルスなどの異物以外にも、煙やほこりを吸い込めば、せきやたんが出ます。そのため、必ずしも『たんが出る=病気』というわけではありません。
たんが絡むのは、細菌やウイルスに感染したり、汚れた空気やほこりを吸い込んだりしたのが原因です。健康な状態でもたんは分泌されますが、通常は粘度が低く、サラサラしています。しかし、体に異物が侵入すると、それを押し出そうとするため粘り気が増して喉に絡むようになるのです。
また、線毛の運動機能が低下して、たんを押し出しにくくなることも原因です。たんの粘り気が強くなればなるほど、排出できずに気道にたまってしまうため、喉にたんがへばりついて絡む状態になってしまうこともあるでしょう。喫煙している人も、たばこに含まれる有害物質を体外に出そうとするため、たんが多くなり、絡まりやすくなってしまう傾向にあります」
Q.たんが絡む症状が長期間続く場合、どのような病気の可能性が考えられるのでしょうか。
藤井さん「たんが絡む原因の多くは、細菌やウイルスによる感染症が原因です。しかし、長期間にわたりその症状が続く場合は、以下のような病気の可能性が考えられます」
■急性咽頭炎
細菌やウイルスに感染することで発症します。
■気管支ぜんそく
気管や気管支に炎症が生じる病気です。呼吸がしにくくなったり、たんやせきが長引いたりします。
■誤嚥(ごえん)性肺炎
唾液や食べ物が食道ではなく、気道に入ってしまうことで起きる肺炎です。
■慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)
主に喫煙によって発症する疾患です。気管支に炎症が起き、せきやたんの症状が数週間から数年以上続きます。
■気管支拡張症
気管支が拡張したまま戻らない病気です。拡張した部分は、細菌やウイルスに感染しやすい状態となっており、感染すると炎症を起こします。
■肺結核
結核菌の感染により、たんや発熱、せきなどの症状が出る病気です。
■肺がん
肺に発生するがんです。
Q.たんの色が変化することがありますが、どのような原因が考えられますか。
藤井さん「健康であれば、たんの色は無色透明でサラサラしています。しかし、細菌やウイルスに感染すると、たんは黄色や緑色などに変わります。たんの色と病気の関係は、以下の通りです」
■濁った白色
気管支炎、気管支ぜんそく、ウイルス感染症
■黄色
細菌やウイルスなどの感染症
■緑色、黄緑色
緑膿菌による感染、蓄膿(ちくのう)症
■黒っぽい茶色、赤褐色
肺炎、肺結核、肺がん
■鮮やかな血が混ざった色
肺出血、強い炎症、歯茎や口腔(こうくう)内の出血
黄色や緑色のたんが出るときは、細菌に感染している可能性が考えられます。症状が長引く場合は、抗生物質での治療が必要になるため、医療機関を受診しましょう。また赤色や茶色のたんが出るときも要注意です。この場合は単なる風邪ではなく、何かしらの病気が潜んでいる可能性が高いと考えられます。できるだけ早めに医療機関を受診して、治療を始めることが大切です。
中高年の男性はたんが絡みやすい?
Q.中高年の男性は、たんが絡みやすい印象がありますが、実際にそういった傾向にあるのでしょうか。一方、女性の場合、たんが絡むケースはあまりないように感じます。
藤井さん「医学的な観点では、基本的にたんの分泌に男女差はないと考えます。しかし、中高年の男性の場合、たんが絡むケースは確かに多い印象があります。それは、中高年男性の喫煙率と関係していると考えられます。中高年世代は若年世代と比較して喫煙率が高く、先述の通り、喫煙するとたんの量が増えますが、それが長期間に及ぶと慢性閉塞性肺疾患を発症しやすくなり、せきやたんが長期間にわたって出ることがあります。
また、高齢になれば咽頭機能が衰えるため、たんを出しにくくなるほか、誤嚥性肺炎や細菌性の肺炎、ウイルス性の肺炎の罹患率も上昇します。そういう意味で、たんが絡む症状は加齢とともに多くなると言えると思います」
Q.たんが絡むときは、どのように対処すればよいのでしょうか。効果的な対処法について、教えてください。
藤井さん「たんやせきが長期間続いた場合、体力を消耗するほか、喉だけでなく体全体が痛くなることがあります。特にせきがひどい場合は肋骨を骨折したり、睡眠不足になったりするなど、日常生活にも支障をきたすことがあります。
そこで、基本的に禁煙をしたり、たんやせきを引き起こしている病気の治療をしたりするのはもちろんですが、下記の方法で症状を和らげることが可能です」
■横向きで寝る
横向きで寝ると、うつぶせで寝た場合やあおむけで寝た場合よりも気道を確保できるため、たんの不快な症状を和らげることができます。また、横向きで寝るときに枕で上半身側を少し高くすると、鼻水やたんが喉に流れにくくなります。
■ぬれマスクを着用する
水でぬらしたマスクを着用すると、喉や鼻の粘膜を潤す効果が非常に高く、鼻呼吸を促すため、気道の刺激となる乾燥や異物の侵入を防ぎ、たんの量が多くなるのを抑えることができます。
■小まめな水分摂取
水分を多く取るとたんの粘度が低くなり、体外に排出しやすくなります。
Q.たんが絡むときに、せき払いを繰り返す人がいます。この場合、体にどのような影響を与えるのでしょうか。
藤井さん「たんを出さずに気道にためていると、呼吸困難や息切れ、細菌やウイルスの感染による肺炎などのリスクが高まるため、たんは出した方が良いでしょう。ただ、たんを出すために強くせきをすると、喉が切れることもあるので注意が必要です。
無理にせきをして固いたんを出すより、まずは水分を十分に取りましょう。先述のように、水分でたんの粘度が低くなるため、たんを出しやすくなります。また、空気が乾燥しているとたんが硬くなるため、加湿器を使用して部屋の湿度を上げたり、マスクを着用して口や喉の乾燥を防いだりすることも、たんのコントロールには大切です」