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2019年暮れの初リリースから3年半、ついにカメレオン・ライム・ウーピーパイのファースト・フルアルバム『Orange』が出た。鮮やかなオレンジの髪がトレードマークのボーカル・Chi-(ちー)が、トラックメイクや映像制作を務めるWhoopies1号・2号と共に作り上げた、それはポップでダンスでロックでキッチュなミラクルワールド。早耳音楽好きを狂喜させたその魅力が、いよいよ日本中に知れ渡る時が来た。90年代オルタナティブ、ダンスとロック、ミクスチャーのエッセンスを盛り込んだキャッチーなサウンドと、その裏に隠したリアルなメッセージとは? ボーカルのChi-が語る、SPICE初登場インタビュー。

――音源を作ること、ライブパフォーマンスをすること、ミュージックビデオを作ること。現代のアーティストにとっては絶対に必要な3つのことを、すべてセルフプロデュースで、自分たちのDIYでやっている。そこがカメレオン・ライム・ウーピーパイの大きな特徴だと思うんですけど、それって最初から意識していたことですか。

それは自然になっていった気がしますね。曲はできたけど、お金がないからミュージックビデオは自分たちで作るみたいな。

――コンセプトと言うよりは、しょうがなくてやったみたいな。

そうです、全部しょうがなくです(笑)。Whoopiesが一緒にライブに出るようになったのも、バックDJだった方が、クラブイベントの前日に急に連絡が取れなくなって、急遽3人でライブすることになったからなので。もともとやろうと思っていたというよりも、全部が流れでできていった感じがします。

――その3つで言うと、どういう順番で考えていくんですか。優先順位というか。

やっぱり曲が一番で、映像があって…いや、曲の次はライブかな。ライブがすごく好きで、ライブがないと伝えれないと思っているので。

――ライブに関して言うと、影響を受けたアーティストとか、ルーツになるものはあったりしますか。

どうだろう? ライブで影響を受けてる人はあんまりいないかもしれない。私自身がもともと、めちゃくちゃテンションが上がったり下がったりするタイプで、ライブをやる時にも「感情の起伏が激しいね」ってよく言われるんですけど。そうやって自然に出ている形が、今のライブの流れになっているのかなと思います。

――そこもまた、流れのままに。

そうです。「ここで上げてここで下げよう」とか全然思っていないんですけど。たぶん私の性格的にそういうのが気持ちいいから、それがそのまま出ているのかなと思います。

――僕が最初にライブを見せてもらったのは、2021年の9月だったんですけど、中盤の「scrap」でずーんとヘヴィに落ちて、最後に「Love You!!!!!!」でめちゃくちゃ上がるという、感情のジェットコースターみたいな展開がすごく印象に残っています。

ああー、確かに「scrap」とか、急に落ちる感じはありますね。

――落ちるというか、突然みんな聴き入る感じになって。

どっちも好きなんですよね。「scrap」みたいな曲も、「Love You!!!!!!」みたいに上がる曲も、両方同じぐらい好きなので。どっちも私というか、どっちが無理しているわけでもなく、両方自然にやっていることではありますね。

カメレオン・ライム・ウーピーパイ

――ミュージックビデオについてはどうですか。最初に作ったのが「Dear Idiot」でしたっけ。

そうです。ミュージックビデオはやっぱり、曲をわかってもらいやすいというか、目で見たほうが伝えたいことをもっと伝えられると思うので。曲があって、プラスでもうちょっと伝わればいいということを、ミュージックビデオで表せればいいなと思っているんですけど。

――MVを作る時は、誰がリーダー格ですか。3人の中では。

毎回違うんですけど、基本的にWhoopies2号がカメラマンで、1号が監督的なことをやってて、私もちょいちょい口出ししながら「こういうふうに撮ってほしい」とか、いろいろ話し合いながらやってます。私の頭の中にイメージはあるんですけど、それを絵コンテにする技術はないので。でも話すだけでわかるというか、その場で考えつくことも多いので、いろいろ言い合ってやってますね。それで全然思ってもいなかった作品ができたりするので、やってて面白いです。

――映像やビジュアルに関して、何かルーツはあるんですか。

それも特にないんですけど。でも絵本が好きだったりするので、唯一影響を受けているとしたら、今まで読んできた絵本かなって思います。本は読まないんですけど、絵本だけは今でも読みます。

――たとえば?

たとえば、『いたずらハーブ えほんのなかにおっこちる』という海外の絵本があって。小学校の頃から唯一ずっと持っている絵本なんですけど、上京してくる時もその一冊だけ持って出てきたぐらい大事な本で、そこに自分の中での考え方みたいなものが詰まっている気がします。主人公が絵本を読んでいて、その中に入っちゃうお話なんですけど、その本をまた私たちが読んでいるみたいな、不思議な感覚なんですよ。主人公が私たちが読む文字の上を走ったり、主人公がひっくり返ったら文字もひっくり返ったり。

――それは面白そう。

本当に面白い絵本なんです。絵本という概念をくつがえすような、ちっちゃい時はそこまで考えていなかったですけど、今読んでも「ここまでやっていいんだ」みたいな、全部がひっくり返るような感覚があって、その絵本にはめちゃくちゃ影響を受けています。音楽もそうですけど、私が好きで見ていたものの中でも、その絵本には相当影響を受けているなと思います。

――それはきっと、Chi-さんのアーティスティックな発想の根本にある気がします。今回のファースト・フルアルバム『Orange』は、そんなカメレオン・ライム・ウーピーパイのこれまでの活動の集大成と言っていいですかね。今までやってきたことが全部入っていて。

ほぼほぼ入っているアルバムですね。

――2019年暮れの初リリースから、3年半の集大成。過去に配信リリースしたシングル曲もほぼ網羅している。

今までずっとデジタルで出していたので、初めてCDという形になるのが自分の中ですごく大きくて。それ自体もうれしいですし、自分たちの周りの環境として、CD盤が作れるようになったんだなということもうれしいです。今までずっと3人でやってきたので、そこも変わってきたなって思います。

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――この『Orange』はChi-さんにとって、どんなアルバムですか。

最初の曲から現在の曲まで、いつも「こだわらない」ということを意識していたんですね。こだわると凝り固まっちゃうから、「自分たちが今かっこいいと思うことをやろう」と思ってやってきたので、曲ごとにジャンルも全然バラバラなんですけど。あらためてアルバムを通して聴くと、1曲目から最後の曲まで全部、カメレオン・ライム・ウーピーパイっぽさを自分たちの中で感じれたので、一貫しているものがあったんだなと思います。カメレオン・ライム・ウーピーパイっぽさみたいなものが、すごくわかるアルバムになったなと思います。

――その「ぽさ」を、あえて言語化すると、どういうふうになりますか。カメレオン・ライム・ウーピーパイっぽさとは?

それは私たちでもわからないというか、私たち的には一番かっこいいもの、一番好みのものを作っていて、3人の中で「これが一番かっこいい」というものがあるんですけど、それを他の人に伝えるのがけっこう難しいというか。あえて言うなら、かっこいいだけじゃなくて、ダサさとかも好きなんですよ。曲の中に変なものを入れたり、ミュージックビデオも違和感あるものにしたくて、「ぽさ」と言ったらそこなのかな?とは思っているんですけど。かっこいいものを作りたいんですけど、かっこつけると、だいたい同じものができちゃう気がするというか、自分のオリジナリティが出ない気がしていて。「かっこつけないのが私たち」というのはすごくあります。かっこつけずに、自分がいいと思うものを素直にやってみるとか、ダサいと思われてもいいから、自然に出てくるものを形にして見てもらうとか。ミュージックビデオも、私たちは映像の素人なんで、プロが作るものに比べるとクオリティが低かったりするんですけど、それがいいなって自分たちで思えるので。それを出しちゃうところが、自分たちの良さなのかなと思います。

――それは大事なポイントですね。かっこつけないのがかっこいい。

性格的にも、3人ともかっこつけられるタイプではないので。ずっとふざけてる感じなので、普段3人でいる時の空気感も、特にミュージックビデオには出ていると思います。

――出てますよね。僕、「Wonderful」のビデオが大好きで、真面目にふざけてるというか、何をしているんだろうこの人たちはって(笑)。面白くってしょうがない。

「Wonderful」は、本当に、今までのミュージックビデオの中で一番意味がないというか(笑)。もともと忍者の衣装を半年前ぐらいに作ってたんですけど、さすがにこれは出せないだろうっていうぐらいダサいのができちゃって(笑)。面白いけど、これどうしよう?と思っていたんですけど。それを「Wonderful」の時に、あの衣装使いたくない?っていう、本当にそれだけで作ったミュージックビデオです。意味はまったくないです。だからあれを好きだと言ってくれるのはめちゃくちゃうれしいです(笑)。

カメレオン・ライム・ウーピーパイ

――アルバムに話を戻して。リード曲が「Stand Out Chameleon」ですね。これは相当に気合を入れて作った曲じゃないですか。

「Stand Out Chameleon」は、みんなが私たちをみつけて集まってほしいという思いを込めて、みんなで踊りたいなと思って曲った曲です。“もーいーよーいーよー”っていう歌詞があるんですけど、かくれんぼしていて“もう私たちをみつけていいよ”という呼びかけみたいな曲になっています。本当はアルバムのタイトルを「Stand Out Chameleon」にする予定だったんですけど、この曲でカメレオン・ライム・ウーピーパイをみんなにみつけてほしいと思って作りました。

――ちょっとローファイな、オルタナティブなダンスロックっていう感じがします。90年代洋楽の香りがするというか。ビースティー・ボーイズやベックがやっていたようなことを、あらためて新鮮に思い起こす瞬間もありますし。

90年代の音楽はすごく好きです。3人で共通して好きなのがビースティー・ボーイズなんですけど、私が最近聴いている海外の若手の方とかを聴いてても、やっぱりどこかビースティーっぽかったりするんですよね。

――それは時代が一回り、二回りした感覚もあるかもしれない。

そうなんですよね。逆に新しいみたいな。

――そこはカメレオン・ライム・ウーピーパイのかっこよさの核心だと思います。ほかにアルバム用の新曲で言うと、「Burn Out」はどうですか。

この曲は珍しくトラックから作っていきました。いつも私がWhoopiesに曲の雰囲気を伝えて、Whoopiesがトラックとメロディをつけて送ってきてくれるんですけど、1号がめちゃくちゃ音痴なので(笑)。自分が気持ちいいように歌って送ってきたものに、私が歌詞をつけて、メロディを整えていくのが曲作りの基本なんですけど、「Burn Out」はなぜか二人が先にトラックを作っていて、それがあまりにもポジティブで明るい曲だったんですよ。それを形にする時に「もうちょっとマイナーな感じにして」と言って、ちょうどいいバランスで落ち着いたかなと思います。

――バランスが絶妙だと思います。「悩むの飽きた 孤独には慣れた どーでもいー ここからいこう」という、投げやりと前向きをゴチャマゼにしたような、歌詞の持つパワーもすごい。

歌詞に関しては、ぶっちゃけ全曲同じことを言ってます。落ちて、すごいネガティブな状態から、でもまあ前を向いてやっていこうみたいな、ネガティブとポジティブがぐるぐる回っているところを全編言ってます。トラックによって言葉のニュアンスが変わってはいるんですけど、基本、全部同じことを言っているんですね。

カメレオン・ライム・ウーピーパイ

――それは意図的にやっていることですか。それとも、図らずともそうなってしまう?

わからないですけど、私が今書けるのはこの歌詞しかないなと思います。自然に書くとそうなるというか、基本、自分に向けて書いていて、音楽で人を救うとか、今の私がやっても嘘になっちゃうので。「Dear Idiot」をリリースした時から同じ気持ちですし、それはずっと変わらないです。「Dear Idiot」の頃から、出会う人や関わる人、環境が変わって来たりしているんですけど、結局、新しい出会いやうれしいことがあっても、絶対に嫌なことも起きるんですよね。だから一生その気持ちは変わらずに生きていくのかなと思います。

――ネガティブとポジティブは常に隣り合わせ。禍福はあざなえる縄のごとし。でも幸せの方向へは向かいたいわけでしょう。

そうですね、もちろん(笑)。幸せになりたいのはもちろんなんですけど、それだけを(歌詞で)言うと綺麗ごとになっちゃうというか、自分の中にはそれだけじゃない部分があるので。明るい歌を歌いたいと言えば歌いたいんですけど、私の場合は絶対に暗い部分があるから、暗いところから明るいところへ出て行く、その過程を書きたいんです。

――はい。なるほど。

私的に、学校のクラスとか、組織みたいな集団があるとすると、そこからちょっとズレている感覚があったんですけど、そういう人ってたぶんほかにもいるよなと思っていて。そういう人はたぶんクラスに一人ぐらいはいて、世界規模で見ると「クラスで一人の人」が相当いるなと思うので。その人たちと一緒に踊れたり、何かしたり、できたらいいなと思ってやってますね。「私みたいなやつにと届けばいいな」みたいに思ってます。

――クラスに一人×世界規模だと、同じような思いを抱えた人はきっとたくさんいるはず。

意外といそうだし、それが広がればいいなと思います。

――その人たちがきっと、カメレオン・ライム・ウーピーパイの曲に救われるんじゃないですか。あ、でも、誰かを救うとかは考えてないんでしたっけ。

でも結果的に救えるなら、すごいうれしくて。何て言うのか、私みたいなやつは、アーティストが「あなたを救いたいんです」とか言ったら、「嘘じゃん」とか思っちゃうんですよ。

――めんどくさいですねぇ。

めんどくさいんですよ(笑)。私みたいなやつを集めようとすると、本気で、本音でやらないと集まらないので、難しいんです。

――僕もそっち側なので、その感覚はわかります。自分のことだからこそ、どう言われたら本気で響くのかがわかる。

カメレオン・ライム・ウーピーパイを始める時に、この人になりたいとか、そういうアーティストはいなくて、「自分が好きになれるアーティストになりたい」と思ったので、そこはけっこう考えますね。はたから見て、嘘ついてやってるなと思われたら嫌だし、自分が納得できる形では常にやっています。

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――私のような誰かに届く音楽。カメレオン・ライム・ウーピーパイが、これからどんなふうに世の中に響いていくかが楽しみです。そして7月にファーストワンマンライブがありますね。大阪と東京の2本。

初リリースの直後にコロナが始まっちゃって、ワンマンライブもなかなかできなかったんですけど、やっとできる状態になったので。初めて自分たちの時間が最初から最後まで、長い時間できるのがうれしいです。ミュージックビデオを作るにしても、曲を作るにしても、3人でアイディアを言い合いながら作って来たんですけど、それをライブでできるということで、登場の仕方から最後の終わり方まで、いろいろ仕掛けられるなと思っています。今までは、イベントにポッと出てそこのお客さんをつかみに行くみたいなライブをやっていたんですけど、そうではなくて、来てくれたお客さんに対してどれぐらい自分たちを見せれるか、楽しませれるか。もっと純粋な、私たちが好きなライブができると思います。

――楽しみです。みなさんぜひ。カメレオン・ライム・ウーピーパイのライブは、DJパーティーみたいなノリもあるし、パンクロックっぽい曲もあるし、バンド好きにもダンス好きにも、限定しなくていいかなと思います。

自分たち的にも、バンドのイベントに出たり、クラブに出たり、いろんなところに出て来て、「どこにもハマれないけどどこでもハマれる」みたいな、そこが自分たちの中にすごくあって。クラスの中で一人みたいな、少人数的なことを言っているんですけど、実はもっと大きく、私みたいに思っている人はもしかしたら膨大な数がいるんじゃないかなとか、ちょっと思っているので、それになれればいいなと思います。みんなで楽しめたらと思ってます。一回目なのでぜひ来てほしいです。


取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
Hair & Make Up=清野和希 (cyez) 衣装=RBTXCO

カメレオン・ライム・ウーピーパイ