写真:AP/アフロ

 4月17日、米IT大手のアップルが、ゴールドマン・サックスと組み、新しい預金サービスを開始した。同社のクレジットカード利用者向けの新サービスで、4.15%という高い年利が話題を呼んでいる。

 利用者は、アップルのクレジットカード「アップルカード」を持っていることが条件だ。iPhoneから口座の開設・管理が可能で、他の口座から預け入れることもできる。

 年利4.15%という数字は、全米平均0.3%台の12倍以上。ちなみに日本のメガバンクの普通預金は0.001%だから、4000倍以上ということになる。

 現在はアメリカだけで展開されているサービスで、日本で開始されるかは不透明だ。しかし、SNSでは羨望の声が寄せられている。

《日本で始めてくれたらすぐアップルカード作ってアップル銀行に預金します》

《普通預金の年利4%越えとかすげーないつまで続くのかとか日本に来るのかとか色々あるけどとりあえず1000万くらいまでならありだなぁと》

《アップル(銀行)の次はGoogle銀行、アマゾン銀行も来るかな?日本でもPayPayとかあるけど、銀行いらなくなりそう?》

 ITジャーナリストの三上洋さんは、今回のサービスについてこう解説する。

「アップルという企業は、もともと『すべてのものをアップルで』という理念のもと動いています。iPhoneであれば、OSからアプリ、ハードウェアまで、アップルのなかですべてができるように展開されています。

 そのなかで、アップルは、いわゆるフィンテックと呼ばれる金融分野も囲い込もうとしているんです。

 iPhoneには支払い機能が搭載されており、アップルカードも出てきましたが、これまでは、結局支払口座は別の銀行でした。しかし、今回の新サービスで、完全にアップルのなかでお金が回る仕組みができたんです。

 安全性の高さもウリで、アップルカードには、チタンでできたクレカがありますが、カード番号が書いていないため、安全性が高いと人気を集めました。一方、iPhoneで使う場合は生体認証が必要ですから、やはり安全性は高いわけです」

 年利4.15%という数字に関しては、「アメリカの大手銀行からすれば驚きの数字でしょうが、ないこともありません」と語る。

「アメリカは、近ごろ金利が上がっているので、地方銀行やネットバンキングでは、年利4%台を出すところはけっこうあるようです。

 アップル銀行は、ゴールドマン・サックスと組んでいる事業です。ゴールドマン・サックスは、もともと投資銀行として世界的にプレゼンスが高かったんですが、事業が振るわず、消費者向けにシフトしています。個人向け口座の預金者を増やしたいがために、金利を高くしているんです。

 もともと同社が一般消費者向けに設定した普通預金の金利は年利3.9%(2023年4月)ですから、少し上乗せした程度。アップルは、同社と組んだことで、こんなに高い年利を提供できるんです」

 ゴールドマン・サックスより、さらに高い金利を設定できる秘密は、アップルカードが、日本のクレジットカードと微妙にシステムが違う点にある。

「アメリカでは『ミニマムペイメント』という支払い方法が主流です。日本でいうところの、リボルビング払いですね。月に支払う金額が、1万円なら1万円と決まっていて、一定の手数料(金利)がかかります。アップルカードも同じ仕組みで、顧客は長期にわたってカードを使ってくれます。

 後払いシステムも始まっており、それぞれで手数料が取られます。客がカードを使えば使うほど、アップルの収益が上がる仕組みですから、ベースとなる銀行の利息が多少高くても問題ない、という考えなのでしょう」(三上さん)

 過去には、ツイッターのイーロン・マスクCEOが「ツイッターは世界最大の金融機関になることが可能だ」と語ったこともある。今後、ほかの大手IT企業が、同じように銀行事業へ参入することはあるのだろうか。

「あり得ると思います。というのも、どこまで行っても、決済の部分で『銀行』は必要だからです。今後、たとえばグーグルペイを利用するための引き落とし口座をグーグルが用意することは十分考えられます。アマゾンもさまざまなクレカや後払い方法を提供していますから、銀行に参入してもおかしくはない。

 今後、各社がどこまで参入するかはわかりませんが、ソニーがソニー銀行を持っているように、IT大手はどこも金融に触手を伸ばす可能性があります。そのほうが囲い込みがうまくいくのは間違いないですから。銀行を持つこと自体は、各社とも水面下で検討しているはずです」

 金融事業のあり方は、これから大きく変化していきそうだ。