「腹壁瘢痕ヘルニア」の症状・原因・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?

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腹壁瘢痕ヘルニアとは開腹手術や腹部の外傷の跡に、立ち上がったり咳をしたりという何らかの理由によって腹圧がかかり、大きく膨らんでしまう状態のことをいいます。

腹壁瘢痕ヘルニアは腹部の手術をした場合の合併症として知られていて、開腹手術後10年で約1割の人が発症するといわれています。

ヘルニアという病気は、本来あるべき位置から臓器が脱出または突出してしまう症状です。もし開腹手術を受けた人で腹壁瘢痕ヘルニアが気になる方は参考にしてみてください。

腹壁瘢痕ヘルニアの症状・原因

腹壁瘢痕ヘルニアはどのような病気ですか?

いわゆるヘルニアの一種で、腹部の手術や外傷による腹壁(筋肉の壁)の傷痕が伸びてしまい、腸や脂肪などが皮下に触れてしまうような状態になっているのが腹壁瘢痕ヘルニアという病気です。自然となってしまうわけではなく、開腹手術によって発症してしまう合併症と診断されます。
腹壁瘢痕ヘルニアの状態で立ち上がったり、咳やくしゃみをしたりすると腹部に圧力がかかり、手術によってできた筋膜のすき間から腸や脂肪が脱出してしまいます。これによってお腹が膨らんでしまい、痛みや不快感を感じることもあるでしょう。
なお、膨らんだ部分は体を横にすると自然に元へと戻ります。しかし元に戻ったとしても腹壁瘢痕ヘルニアが治ったということではありません。

腹壁瘢痕ヘルニアの症状を教えてください。

腹壁瘢痕ヘルニアの症状としては、筋膜にできてしまったすき間から腸や脂肪が脱出することによる腹部の膨らみがあげられます。これは腹部に力が入ることにより圧力がかかって起こる症状です。
筋膜のすき間から腸が出たり入ったりすることにより、傷痕の周辺で痛みを感じる場合があり、時には不快感を感じるケースもあります。人によっては腹部が膨らんでも痛みや不快感を感じないこともあるでしょう。また腹壁瘢痕ヘルニアでもすき間が小さい場合などでは、腹部が膨らまない人もいます。
一般的には腹部が膨らんでしまった場合横になると元に戻るのですが、手で押し込まないと元に戻らないこともあります。

腹壁瘢痕ヘルニアの主な原因はなんですか?

腹壁瘢痕ヘルニアになる主な原因は、開腹手術によるものです。もう少し詳しく説明すると、開腹手術を施した後で筋膜にすき間ができてしまうことが原因とされています。
なぜ筋膜にすき間ができてしまうかというと、手術後に傷の部分が膿んでしまう場合・緊急手術をした場合・肥満のために手術の傷の部分がうまく塞がらず筋膜にすき間ができてしまう場合などがあるからです。
このようなケースによって、全体の1割ほどの人が開腹手術後の約10年で腹壁瘢痕ヘルニアを発症してしまうといわれています。なお、筋膜にできたすき間が小さければヘルニアの症状が出ない場合もあります。

腹壁瘢痕ヘルニアはどのような人が発症しやすいですか?

腹壁瘢痕ヘルニアは、開腹手術を受けた場合誰にでも発症する可能性がありますが、特に発症しやすい傾向にある人はいます。
発症しやすい人の第一ともいえるのが肥満の人です。腹壁瘢痕ヘルニアになる原因のところでも述べたように、手術の傷の部分がうまく塞がらず筋膜にすき間ができてしまう可能性があるからです。肥満の他に発症しやすいのは糖尿病・慢性便秘症・喘息・慢性肺疾患といった症状を持つ人たちが該当します。
また次のような人たちも腹壁瘢痕ヘルニアを発症しやすいといわれています。

高齢者

喫煙者

咳をよくする人

妊娠している人

過激な運動をする人

お腹に力がかかる仕事をする人

立ち仕事に従事する人

腹壁瘢痕ヘルニアにおける合併症

腹壁瘢痕ヘルニアによって合併症を引き起こす可能性はありますか?

腹壁瘢痕ヘルニアはそれ自体が開腹手術により発症してしまう合併症なのですが、腹壁瘢痕ヘルニアによって引き起こされる合併症も稀にあります。
それは嵌頓(かんとん)といわれる状態です。腹部の膨らみは筋膜のすき間から突出してしまう腸や脂肪によるものですが、これは腹部に力が入ったことなどによって圧力がかかるために起こってしまう状態です。
基本的に立ったり座った状態から腹部に力が入ることで腹部の膨らみが起こり、体を横にすると元の状態に戻ります。しかし稀に元に戻らないことがあるのです。これが嵌頓の状態です。
嵌頓は危険な状態なので緊急手術を行う必要があります。

どのような合併症を引き起こしますか?

前の項で述べた嵌頓(かんとん)が腹壁瘢痕ヘルニアの合併症です。嵌頓を引き起こすのは、腹部の皮下にある筋膜のすき間から突出した腸や脂肪が体を横にしても元に戻らず、突出したままの状態になっていることによるものです。
腹部が膨らんだまま元に戻らない嵌頓は大変危険です。腸管の血流障害や壊死を伴うと、命に関わることがあります。なお命に関わる危険がないとしても、今まで痛みがなかった人でも痛みを感じるなどの症状がでる可能性があります。

腹壁瘢痕ヘルニアの治療法

腹壁瘢痕ヘルニアは手術は必要ですか?

腹壁瘢痕ヘルニアは自然に治る病気ではありません。手術による治療は必要です。
特に、稀ではあるものの嵌頓の状態になってしまうと命に関わる危険を伴います。嵌頓にならないとしても、手術をしない場合は、痛みを伴うようになる・腹部の出っ張りが大きくなってくる・見た目が気になってくる・緊急手術が必要になるなどの弊害が時間の経過とともに多くなっていくでしょう。
腹壁瘢痕ヘルニアは開腹手術を受けたことによって発症する合併症であるため、再び手術を受けることに気が引ける人もいらっしゃるかもしれませんが、手術による治療でなければ完治しません。

腹壁瘢痕ヘルニアはどのような治療法で治りますか?

腹壁瘢痕ヘルニアを治すために必要な治療法は、手術を受けることです。現時点では手術以外の治療法はありません。自然治癒することはなく、手術を受けない場合は症状を悪化させる可能性はあっても改善はしないでしょう。
これまでの手術では直接皮膚を切開して腹壁を再縫合したり、メッシュによって補強したりする手術が主流でした。しかしこれらの方法では細菌感染の恐れや再発の恐れがあります。そこで近年では腹腔鏡を使用した手術やロボット手術などの方法が選択されるようになってきました。
これらの手術は感染のリスクが少ない・疼痛が少ない・入院期間が短いというメリットがありますが、その反面手術時間が長い・高度癒着の場合に開腹に移行する可能性がある・保険診療の適用範囲外(ロボット手術)といったデメリットもあります。

腹壁瘢痕ヘルニアになったら入院は必要ですか?

腹壁瘢痕ヘルニアの治療には手術が不可欠です。また、腹壁瘢痕ヘルニアでの手術ではどの手術方法を選択できるとしても入院は必要になるでしょう。
従来行われている直接皮膚を切開して腹壁を再縫合する手術やメッシュによって補強する手術では、入院期間が長くなります。一方近年より行われるようになった腹腔鏡やロボットによる手術では入院期間が短くなります。
もし腹壁瘢痕ヘルニアの治療で手術を選択できるのであれば、それぞれの手術方法によるメリット・デメリットを確認しておきましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします

腹壁瘢痕ヘルニアはそのほとんどが開腹による手術の合併症になります。開腹による手術を受ける場合は、多少なりとも腹壁瘢痕ヘルニアを発症してしまう可能性があるでしょう。だからといって本来治すべき病気に対して手術を拒絶することは当然ながらおすすめできません。
腹壁瘢痕ヘルニアは手術によって治癒する病気です。しかし自覚症状がない場合は手術をせず放置を考えてしまうかもしれません。実際そのような人もいるのですが、年月を経ていけば徐々にリスクが発生し、最終的には手術を選択することになる可能性もあります。なるべく悪化させる前に治療しましょう。

編集部まとめ


腹壁瘢痕ヘルニアは開腹手術後に発症する病気です。ようやく病気が治ったと思った後で、腹部に力を入れた際にお腹が膨らんできたら最初は驚くことになるかもしれません。

また膨らんだ腹部のあたりが痛むことで、手術による後遺症と思われる場合もあるでしょう。これが腹壁瘢痕ヘルニアによる症状とわかったらある意味ホッとするかもしれません。

とはいえ、腹壁瘢痕ヘルニアは放置して良い病気ではありません。腹壁瘢痕ヘルニアと診断されたら医師に相談し、手術を検討しましょう。

参考文献

ヘルニアセンター腹壁瘢痕ヘルニア(聖路加国際病院)