2022年11月6日に相模湾で行われた海上自衛隊の国際観艦式では、諸外国から18隻の外国艦が参加しました。ただ、それらを設計・建造国ごとに括ってみると、意外な一面を見ることができました。

インドは設計・建造共に独力

 海上自衛隊の創立70周年を記念して20年ぶりに開催された国際観艦式。2022年11月に行われた今回の観艦式には12か国から計18隻の外国艦が参加し、相模湾で祝賀航行をしただけでなく、横須賀において一般公開なども行いました。これだけの数の外国艦が日本に揃うことは珍しく、同じグレーの艦に見えても各国ごとに異なる船体デザインや塗装、搭載されている装備の違い、それぞれ特色がある艦内の様子など、さまざまな点を見比べることができました。

 ただ、それらは各国の技術力を示すものかといえば、必ずしもそうではありません。外国建造のものが多く、現代における造船業界の縮図といえる光景でもあったのです。


海上自衛隊の横須賀地方総監部岸壁に並ぶ各国海軍艦艇(深水千翔撮影)。

 そもそも海上自衛隊の艦艇は日本国内の造船所で建造されており、水上艦は三菱重工業グループとジャパンマリンユナイテッド(JMU)の2社が、潜水艦は三菱重工と川崎重工業の2社が、それぞれ新造ヤードとしての役割を担っています。

 これに対して自国で大型艦の建造を行う設備やノウハウがない国は、他国の造船所で新造するか、友好国から中古の艦艇を譲渡してもらうことで、海上戦力を整えています。また、特殊な船型を持つ艦艇については、海軍の要求に沿ったものを一から自前で開発・建造するより、技術を持っている外国の造船所に発注した方が、限られている予算の中で安定した性能の装備を確実に調達できるというメリットもあります。

 一方で、たとえ他国が設計した艦艇であっても、国内の造船産業と雇用を守るために、船体ブロックの組み立てと艤装については自国の造船所で行うという形を採ることも珍しくありません。その結果、インドのように技術を蓄積して、国産艦艇の建造へ移行していくということもあります。

軍艦の世界でも普及しつつある韓国製

 今回の国際観艦式に参加した外国艦艇のなかで最も大きかったのが、ニュージーランド海軍の補給艦「アオテアロア」(排水量2万6000トン)です。同艦は、韓国の現代重工業が建造しましたが、その特徴は、船舶・航空燃料、食料、弾薬の補給といった通常の補給艦が備えている装備に加えて、南極周辺の氷海を進む耐氷性能(ポーラークラス6)も持っているという点です。

 これは南極のロス島に置かれているニュージーランドのスコット基地やアメリカのマクマード基地への物資補給を同国海軍が担っているからで、ゆえに「アオテアロア」には南極海で行動できる性能が求められたといえるでしょう。


ニュージーランド海軍の大型補給艦「アオテアロア」(深水千翔撮影)。

 現代重工は北極海航路向けの砕氷LNG船や耐氷貨物船を受注するだけの技術力があり、艦艇輸出でも実績を積み重ねていたことから、同国での建造に繋がったと見られます。なお、韓国海軍の補給艦「昭陽」(1万105トン)も現代重工が建造しており、国際観艦式には現代重工製の補給艦が2隻揃って参加したことになります。

 タイ海軍のフリゲート「プミポン・アドゥンヤデート」(3700トン)も韓国製の軍艦です。建造ヤードは大宇造船海洋で2019年に竣工しました。コンパクトな船体と、ステルス性を意識して艦橋から格納庫まで一体化した艦上構造物が特徴となっています。

 大宇は近年、イギリス海軍のタイド級給油艦やノルウェー海軍のモード級補給艦、インドネシア海軍のナーガパーシャ級潜水艦を建造しており、艦艇市場で存在感を強めています。

 韓国と並ぶ造船大国の中国が建造した艦艇というと、パキスタン海軍のフリゲート「シャムシール」(3144トン)と補給艦「ナスル」(2万2099トン)が該当します。このうち「シャムシール」はズルフィクア級の2番艦にあたり、中国船舶集団(CSSC)グループの滬東中華造船が建造を手掛けました。なお4番艦の「アスラット」だけ自国のカラチ造船所で組み立てられています。

 搭載兵装は旧ソ連や中国で開発されたものであり、外側から見るだけでもAK-176(76mm速射砲)や730型CIWS(近接防空システム)、FM-70N短距離対空ミサイル、C-802対艦ミサイルの発射ランチャーなどが確認できます。

東南アジア勢に強いドイツ艦

 中国は、パキスタンと戦闘機「JF17」を共同開発したり、潜水艦を輸出したりするなど軍事的な連携を強めています。なお、パキスタンは最近、ズルフィクア級より大型となる4200トン級のフリゲート艦として、滬東中華造船に江凱II型(054A型)の派生型054AP型を発注しており、2022年に1番艦「トゥグリル」と2番艦「タイムール」が竣工しています。

 中国はマレーシアやタイ、モーリシャス、バングラデシュといった国々にも艦艇の輸出を行っているため、数年後は中国製の軍艦がアジアを席巻しているかもしれません。


パキスタン海軍のフリゲート「シャムシール」(右手前)と補給艦「ナスル」(深水千翔撮影)。

 ヨーロッパ勢ではドイツが軍艦輸出に強みを持っています。ブルネイ海軍のダルサラーム級哨戒艦「ダルエーサン」(1625トン)は、ドイツの造船所リュールセン・ヴェルフトで2011年に竣工しました。ダルサラーム級は4隻全て同一の造船所で建造されており、ブルネイ海軍最大の艦艇として主力を担っています。ちなみにオーストラリアも、このダルサラーム級をベースにしたアラフラ級哨戒艦を導入することが決まっています。

 マレーシア海軍のケダ級哨戒艦「クランタン」(1850トン)は組み立てこそ国内にあるブーステッド重工業(BHIC)で行われていますが、設計はドイツのブローム・ウント・フォスが開発したMEKO型フリゲートファミリーの一つ、「MEKO A-100型」となっています。そのため、姉妹艦である1番艦「ケダ」と2番艦「パハン」はドイツで建造されました。

 このほかインドネシア海軍のコルベット「ディポネゴロ」(1692トン)はオランダのダーメングループで、シンガポール海軍のフリゲート「フォーミダブル」(3200トン)はフランスのDCNS(現ナバルグループ)が建造を手掛けています。

 ちなみにフォーミダブル級は6番艦まで竣工していますが、2番艦の「イントレピッド」以降はシンガポールのSTエンジニアリングが組み立てを行っています。

オーストラリアはスペイン設計艦がともに来日

 オーストラリアはスペインの造船会社ナバンティアとの関係が深く、国際観艦式に参加した同国海軍の補給艦「スタルワート」(1万9500トン)、駆逐艦「ホバート」(7000トン)ともに、同社が設計に携わっています。

「スタルワート」は、スペイン海軍向けの補給艦「カンタブリア」をベースとしたサプライ級補給艦の2番艦としてナバンティアが建造し、2021年に就役しました。洋上での補給や、国内外の人道支援活動や災害救援活動にも従事することができます。


海上自衛隊横須賀地方総監部の桟橋に並ぶオーストラリアやニュージーランド、インドの軍艦(深水千翔撮影)。

 イージスシステムを搭載した駆逐艦「ホバート」(7000トン)は、スペイン海軍のアルバロ・デ・バサン級フリゲートをベースにしています。海上自衛隊のこんごう型護衛艦や、アメリカ海軍のアーレイバーク級駆逐艦とは異なり、SPY-1D多機能レーダーが艦橋の上に配置されているため、ナバンティア設計艦ならではの独特の雰囲気を持っています。

 ただ、船体の建造はオーストラリア企業で構成されるコンソーシアムが担っており、「ホバート」と姉妹艦2隻の計3隻すべて建造はオーストラリア国内で行われました。

 複数の国や企業の思惑が絡む艦艇のプロジェクトでは、意思疎通が上手くいかなったり、現地造船所との間で技術力に差がありすぎたり、そもそも計画に無理があったりと、さまざまな事態が発生します。実際、駆逐艦「ホバート」の建造ではトラブルが続き、引き渡しが大幅に遅れました。

 このように国際観艦式で祝賀航行する艦艇1隻1隻に、建造に至るまでの背景があり、そこには国同士の関係性も垣間見えます。次の観艦式ではどのような外国艦がやってくるのでしょうか。今から楽しみです。