11月7日、ヤクルトは3年ぶりとなる松山(愛媛)での秋季キャンプを秋晴れのなか、スタートさせた。今回は「若手選手たちの底上げ」が大きなテーマとなった。


来シーズン、ヤクルト史上初のリーグ3連覇に挑む高津臣吾監督

シリーズの悔しさは消えていない

 高津臣吾監督はキャンプ前日、「のんびりしているヒマはないよ」と選手たちに伝えたという。

「隣にいる人はライバルだし、仲良くするのはいいことだけど、『蹴落としてでも......』というと言葉が悪いかもしれませんが、ハングリーな気持ちがないとこの世界では生きていけないよ、ということは話させていただきました」

 午前中は時間をたっぷりかけてコンディショニングと守備練習。午後は、野手は2つのグループに分かれ、7カ所を順番にまわる打撃練習以外はすべて走塁練習に費やした。。

「日頃、見ることができない若い選手たちを見ることができて、非常にいい一日だったと思います」

 練習後、満足そうな表情を浮かべる高津監督を見て、先の日本シリーズで敗れた悔しさはすでに消化できているように思えた。

「監督がこんな気持ちでいいのかわからないですけど、日増しに悔しさが募るというか、まだ悔しいです(苦笑)」

 第1クールの4日間を見た印象は、シンプルな反復練習が多く、秋季キャンプでよく見かける"スポ根漫画"のような世界とは大きくかけ離れていた。

「コーチたちには、まず守備は必ずしっかりやってくれと伝えました。日本シリーズで最後にミスが出て負けてしまったからじゃないですけど、守備の大事さが痛いほどわかりました。もちろん、これまでも十分理解していましたが、とれるアウトを確実にとったり、進塁させない守備などは、すごく難しくて大事なプレーだということを理解してほしい。そのために質は大事ですが、今は時間と量をしっかりかけてやっていくつもりです」

 ケースノックでは、9回二死二、三塁、フルカウントといった細かい状況や、相手打者を想定した大胆なシフトを敷いた練習もあった。

「このキャンプは二軍の選手がほとんどで、森岡(良介)コーチの指示でやったことのない選手もいます。『こういうこともやりますよ』ということを少しでも理解してもらいたい部分と、繰り返しになりますが『ひとつのアウトをとるのはすごく難しいよ』『1点を防ぐのは簡単なことじゃないよ』というのをしっかり植えつけたいというところです」

 投手陣のブルペンでの投球は実戦を想定。最初にまず5球の投球練習。そのあとに5分間(20〜30球)のピッチング。インターバルをはさんで、これを3セット行なった。

 野手陣は、打撃練習後に高津監督の要望でロングティーが組み込まれ、選手たちは約130球をフルスイング。

「体の大きさとか打順とか関係なく、しっかりバットを振ってほしいということです。打撃コーチが言うには、ロングティーは体を大きく使って振る必要があり、簡単なようで難しいと。僕は打つことは素人ですけど、ピッチャーであればストライクを投げるとか、思いきって腕を振るとか、そういった部分に似ているのかなと。(役割として)作戦が要求される選手もいますが、それでもまずはしっかり振る体力であったり、強さであったり......そこは忘れてはいけないところだと思っています」

 ロングティーでは、松本直樹が群を抜いて飛距離を出していたことを書き記しておきたい。つけ加えると、本人曰く「ほかの選手より下がった場所から打っていました」とのこと。

高津監督が思う強いチームとは?

 高津監督は2019年11月の松山キャンプで、本格的に一軍の指揮官として始動した。当時から「若手の育成」を大きなテーマに掲げ、この時は高橋奎二、寺島成輝、梅野雄吾について話を聞くとこう答えていた。

「高橋と寺島は先発の中心に、梅野はリリーフの中心になってほしいですよね。そうなれば現状の投手陣がいい状態になるのは間違いありません。(契約期間の)3年で彼らを野球選手として、人間としてもっと育てていきたいですし、僕自身も監督として成長していきたい。今回、(2019年のドラフトで1位指名された)奥川恭伸も入ってきますけど、彼らをまず近くにおいて、成長を見ていきたい希望はあります」

 このキャンプの第2クール最終日、高津監督は就任してから今日までを振り返った。

「単純にこの3年で......と考えるとめちゃくちゃ早かった気がしますが、育成で見た時にはまだまだの3年だったなあと思っています」

 就任当初の若手では、高橋や村上宗隆、塩見泰隆らが主力に成長した。

「先輩を脅かす存在がどんどん出てきて世代交代する。そういうチームが強いと思っています。レギュラーがどっしり固まっているのもありだと思いますが、僕は循環させたいタイプ。そのためにも、今のメンバーからひとりでもふたりでもレギュラーが出てきてほしい。このままでは来年、もしくは3年後、5年後、なかなか勝てない時がくる。もっと底上げしないといけないですね」

 一方で、将来のエース格と期待された寺島は今シーズン限りでの引退を決意。野手では中山翔太がチームを去ることになった。

「まず彼らをプロ野球の世界で活躍させてあげられなかったことに、すごく責任を感じています。ただ競争なので、結果を出せなかった選手は脱落してしまう。プロ野球はそういう厳しい世界です。二軍監督の時に一緒にやってきた若い選手を、チームの主力として育てられなかったことを本当に申し訳なく思っています」

 成長が停滞している選手については、「自分を限定してほしくないですね」と言って、こう続けた。

「自分はこんなもんだとか、オレは控えで生きていくんだとか、年齢や年数を重ねるとそういう気持ちになりがちですけど、そういうのは関係なく、次へ次へという意識を持って練習を重ねていってほしいです」

若手を育成するスタイルは変えない

 この松山キャンプで、監督として4年目のシーズンに突入した。

「言葉は難しいですけど、底上げのために、コイツだと思う選手を探しています。僕のイメージしているところに近いんじゃないか、というところを見つけたい。ドラフトで入ってくる選手はもちろんですが、他球団を戦力外となってスワローズに移籍してきた3人(三ツ俣大樹、尾仲祐哉、沼田翔平)もそうです。どのポジションに当てはまりそうなのか。今回は二軍の選手が多いのですが、『いけるんじゃないか』と思う選手は何人かいます。名前は出しませんけど(笑)」

 では、これまでに「いけるんじゃないかと感じた選手は?」と聞くと、長岡秀樹と内山壮真の名前を挙げた。

「オカちゃん(長岡)は今年2月の一軍キャンプで見た時に、本当に呼んでよかったと思いました。間近で見て『こんなにできるんだ』『こんなにバットが振れるんだ』と。壮真も体は小さいのに『けっこう振れてるなぁ』と。ふたりがチャンスをつかんだかは別として、よく1年間へこたれずにやることができた。それが成長だと思います。とはいえ、5年後にチームの主力になっていることが大事なので、まだまだ育成は続いていくと思います。

 一軍選手として育成することもあれば、二軍監督やコーチに任せて成長させることもあると思います。先を見据えた時に、いろいろな方法で若い選手を育成させていくスタイルは変えないでいくつもりです」

 11月20日、松山キャンプ打ち上げの日、高津監督は「よく頑張って2週間を過ごしたと思います」と述べたが、そのあとは厳しい言葉が続いた。

「厳しい言い方になるかもしれないですけど、『これではダメだな』と思ったことが収穫かもしれないですね。これではいつまでたっても石川(雅規)が先発して、青木(宣親)が出て、(山田)哲人、ムネ(村上)が出て......という状態が続いていくのかなと。『ポジションを奪ってやるぞ』とやっているのかもしれませんが、そことの距離は相当あると感じました」

 高津監督はこの言葉を、キャンプに参加した全選手の前ではっきりと伝えたという。

「この12月、1月に休む暇はないと思います。2月に再会した時に、この2カ月をどう過ごしたのかがよくわかるように、いいオフにしてほしいですね。走り込み、投げ込み、打ち込み、全部やってきてほしいなと思います。すべての面でレベルアップしないと、このままでは来年は厳しいと思っています」

 この松山での2週間で、日本シリーズの悔しさをようやく消化できたのではないだろうか。

「今も間違いなく悔しいです、まだ悔しいです。悔しさを晴らすのはやっぱり勝つしかない。来年が勝負だと思っているので、ちょっと充電しています(笑)。どうやったら勝てるのかを考えている最中です」

 若手選手がたくましさを増して春のキャンプを迎えた時、ヤクルト初のリーグ3連覇はグッと近づくことになる。