「今回のW杯で、前半は最高の45分だったと言えるだろう」

 スペイン・バスク地方で多くの選手や指導者を育ててきたことでその名を広く知られるミケル・エチャリは、そう言って、日本がクロアチアに1−1の末、PK戦で敗れた試合を振り返っている。

「試合をとおしてボールポゼッション率ではクロアチアを下回ったが、整然と守ることができていたし、カウンター攻撃も再現性を感じさせた。日本人選手のキャラクターがうまくミックスされた形と言えばいいか。技術、俊敏性、犠牲精神、秩序、心理面の準備、どれも高い水準で出ていた」

 エチャリはそう言って、激賞している。

 では、なぜ日本はまたしてもベスト16の壁を破ることができなかったのか?


ミケル・エチャリはクロアチア戦の前半を今回のW杯で最高の出来と評価した

「日本は再び5−4−1を採用している。出足がよかったのは、日本のほうだった。開始3分、押し込んで右サイドのCKを取ると、ショートコーナーからの遠藤航のクロスボールに、中央に入った谷口彰悟が頭で合わせている。クロアチアのマークが外れていただけに、これは得点シーンを除けば、この試合最大の決定機だった。

 指導者の視点で言えば、そこにひとつのターニングポイントがあった。立ち上がりに相手がまだ掴みきっていない状態で、このチャンスを決めるか決めないか。それは死活問題だ。

 そして私が気になったのは、鎌田大地のプレーである。守備に際し、強度が低い。ボールホルダーへの寄せが甘く、プレスがかからなかった。また、コスタリカ戦ほどではないにせよ、ボールを失う場面も目についた。

 個人的には、彼の最大値が出せる場所は中盤にあると考えている。この試合も3列目までボールを受けに戻って、さばいているほうが、潤滑にチームを動かしていた。この戦い方でのシャドーだと、どうしても前でふらつく状況になってしまうのだ。

 それでも、日本ペースだったことは間違いない。

 43分、右CKをショートでつないだ後、右サイドから堂安律が左足のインスウィングで蹴り込むと、相手がクリアしきれなかった。こぼれたボールを前田大然が素早く反応して押し込んでいる。すばらしい前半の45分だった。だが......」

【失点シーンは守備コンセプトのエラー】

 エチャリはそう言って残念がった。

「後半、クロアチアがやや攻勢を強めたことで、日本は受け身になる。右サイドの伊東純也のところで、マークの受け渡しなどで不具合が出始める。左サイドからアーリークロスを上げられる機会が増えていただけに警戒すべきだった。

 そして54分だった。鎌田が相手クロッサーに寄せきれず、鋭いボールを送り込まれている。そして老練にファーサイドで動いたイバン・ペリシッチに、冨安健洋と伊東が間にポジションを取られてしまい、マークを外してしまった。結果的にフリーで豪快にヘディングシュートを叩き込まれた。

 伊東は入ってくる選手をマークできず、ディフェンダーとしては厳しかった。冨安は背後を取られているわけで、それをカバーすることは伊東の役目だったと言える。守備コンセプトのエラーだったと言わざるを得ない。

 ペリシッチは、日本のバックラインを巧妙に動いていた。あるときは、吉田麻也の裏を取っていたし、巧妙にミスを誘っていた。ヘディングでの決定力も含め、差を見せつけた格好だ。

 追いつかれた日本は、ルカ・モドリッチに際どいシュートを打たれるなど、いくらか浮き足立った。伊東と冨安の関係性はその後も狙われて、危うい場面が見えている。この問題は結局、酒井宏樹を投入することで改善された」

 延長からPK戦の流れを、エチャリは落ち着いて見てられなかったという。それだけ、長年にわたって日本代表を見続け、シンパシーも感じるのだ。

「延長は、小さなミスが続いて、チャンスを作り出せていない。たとえば、南野拓実のパスは少しずれ、ラインの見極めにも失敗し、浅野拓磨はポストプレーができず、カウンターの際のコントロールも雑だった。一方で、三笘薫はドリブルから中央へ切り込んでの右足シュートで得点の可能性を感じさせたが......。

 こう着状態を打破することができず、PK戦に雪崩れ込むと、日本は3人が失敗した。

 日本人らしい犠牲的精神やディシプリン(規律)を感じた試合だった。前回大会のファイナリストであるクロアチア戦もそうだが、ドイツ、スペインという強豪相手の試合でも、見事に結果を叩き出した。それは日本サッカーの発展の象徴と言えるだろう。ベスト8には進むことはできなかったが、前回のロシアW杯に続いてのベスト16は称賛すべき事実で、PK戦まで持ち込んでいる。結果だけで言えば、すばらしいと言っていい」

 そして最後にエチャリは日本代表に労いのメッセージを送った。

「次のW杯に向けては、予感があった失点シーンを含めた検証や、冒頭のような見落としがちな1シーンで決められるかどうかを、突き詰めることが必要かもしれない。しかし、日本サッカーは目覚ましい成長を遂げている。今後もさらに躍進できるはずだ」