離島ヘリポートなどでのF-35B運用も視野に

 日本政府・防衛省は、中国の外洋進出に備えるために海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」「かが」の2隻を固定翼機の運用が可能なように改装し、事実上の空母にすることを決めています。

 そのために導入されるのが、STOVL(短距離離陸・垂直着陸)仕様のF-35B戦闘機。同機はすでに2020年度以降に導入することが決まっており、最初の機体は2024年度に引き渡される予定です。


護衛艦「いずも」の飛行甲板に降り立ったアメリカ海兵隊のF-35B戦闘機(画像:海上自衛隊)。

 ただ、一般的に空母というと、アメリカ海軍や中国海軍などのように、空母本体と搭載する航空機の両方とも海軍所属というイメージがあります。しかし、日本の場合は母艦となる護衛艦については海上自衛隊が保有し、そこに載る戦闘機は航空自衛隊からの派遣という形を採ります。加えて、運用にあたっては日本独自の構想も盛り込まれているようです。いったい、どのような運用をする予定なのか、そして、そのような運用の場合の課題はどこにあるのか、見てみましょう。

 2022年現在、中国海軍の台頭によって日本近海の太平洋側や南西諸島方面の島嶼を巡る問題などが生じている状況下、滑走路が短いローカル空港や、ヘリポート程度しか有さない離島でも運用可能なF-35Bを、日本が保有するのは合理的な選択です。なぜなら、STOVL性能を有するF-35Bなら、必要に応じて滑走路の短いローカル空港、さらには、通常の固定翼機では降りることができないヘリポートや場外離着陸場でも展開することが可能だからです。

 ただ、そのような自衛隊基地以外の場所に展開する際に不可欠となるのが、高い移動能力を備えた整備隊です。この点は航空自衛隊も検討していると推察され、いわゆるフィールドメンテナンス・レベルに対応可能な整備隊と予備部品などをワンパッケージ化した「機動整備隊(筆者が考えた仮称)」のようなものを構想していると筆者(白石 光:戦史研究家)は考えます。場合によっては、防空能力を付与するために、基地防空用地対空誘導弾など対空兵器を装備する対空分遣隊も、このパッケージに含まれるかもしれません。

「機動整備隊」編成すれば離島へも派遣OKか

 一方、洋上の母艦になる予定のいずも型護衛艦についても、同盟国であるアメリカ軍と共同行動する際の利便性を考慮し、同艦上で米海兵隊のF-35BやV-22「オスプレイ」の運用を可能とするのは、至極当然の成り行きといえます。

 このように、前述したような航空自衛隊の都合と、このような海上自衛隊の都合を足せば、おのずと「航空自衛隊F-35Bを海上自衛隊のいずも型で運用する」という発想に至るのは自然だといえるでしょう。いずも型も“ローカル空港のひとつ”とあえて考え、そこに「機動整備隊(仮称)」を送り込めば、それでF-35Bの運用が可能になるのです。ただ、いずも型は自ら移動でき、最低限の自衛手段も備えているので、同艦に展開する「機動整備隊」には、対空分遣隊は不要でしょう。


海上自衛隊の護衛艦「いずも」(画像:海上自衛隊)。

 こうして見てみると、航空自衛隊のF-35B飛行隊は、アメリカ海軍航空隊の空母航空団のように空母専属の飛行隊とはならない、と目されている可能性がきわめて高いと筆者は考えます。

 場合によっては、島嶼に設けられた同機が運用可能な施設へF-35Bが移動する際は、別の「機動整備隊(仮称)」が本土から派遣されるかもしれませんし、そのような島嶼施設が完成するまでの短期間は、いずも型護衛艦が臨時の「海上空自基地」としての役割を担い、その艦上に「機動整備隊(仮称)」も一時展開。当該エリアの防空のためひとつの海域に留まるといった運用もなされるのではないでしょうか。

 この「必要に応じて海上の母艦からも、陸上基地からも出撃する」という点に関しては、アメリカ海兵隊の運用構想に類似したものと言えるかもしれません。

 アメリカ海兵隊の飛行隊は、戦況によっては空母に展開し、艦隊防空や対艦攻撃に参加することも考慮されています。ゆえに、航空自衛隊のF-35B部隊も、いずも型を母艦とした、いわゆる「艦上機任務」に従事するケースも想定しているでしょう。

陸自ヘリ部隊と同じく「前線整備」が必要に

 ただ、航空自衛隊のF-35B飛行隊が派遣される場合、その展開先が本土のローカル空港であれば陸路での燃料、武器、予備部品等の補給も可能かも知れませんが、島嶼では船舶輸送が必須です。あるいは、いずも型やひゅうが型といった空母型護衛艦からヘリコプターまたは「オスプレイ」を用いて空輸するようになるかもしれません。

 しかし、CH-47J「チヌーク」輸送ヘリは航空自衛隊も運用しているものの、V-22「オスプレイ」については陸上自衛隊にしかないため、運用するには調整が必要になります。加えて、陸上自衛隊機を派遣してもらう場合は、前述のF-35Bで記したのと同じく、専門の整備隊もセットで派遣してもらうのが不可欠です。

 もっとも陸上自衛隊の場合は、第1ヘリコプター団および各方面航空隊の隷下にそれぞれ航空野整備隊という、常駐飛行場の外で整備もできる能力・装備を有する専門部隊が編成されているため、その点では基地依存が強い航空自衛隊と比べても「前線整備」への対応力は高いと考えられます。


海上自衛隊の護衛艦「いずも」で発着艦の検証を行うアメリカ海兵隊のF-35B戦闘機(画像:海上自衛隊)。

 こうして見てみると、F-35Bを航空自衛隊が運用するには、いくつか越えるべきハードルがあるといえるでしょう。筆者がきわめて大雑把に一例を想定しただけでも、F-35Bの直接運用者である航空自衛隊、いずも型護衛艦の運用を行う海上自衛隊、V-22「オスプレイ」を始めとして支援任務に不可欠と思われる各種回転翼機を最も多く保有する陸上自衛隊、これら3自衛隊が、それぞれ協力・連携しなければ、島嶼への展開も含めて、F-35Bという画期的な戦闘機を円滑かつ有効に運用するのは難しいようです。

 それに、単に隊員の人数と各種の装備品を揃えても、全体の指揮を執るものがいなければ、この「資産」を有効活用できないのは火を見るより明らかです。そのため、航空自衛隊の装備品ではあるものの、F-35B戦闘機をマルチに運用するためには、3自衛隊による「統合司令部」のようなものを立ち上げることが、最も必要なのかもしれません。

 それこそが、最終的には我が国の島嶼部やへき地の防衛力を、最も効率よく強化することにつながるのではないでしょうか。