洋上を長い期間航海することもある海上自衛隊の護衛艦には、そこで働く隊員のために必要な設備がそろっています。とうぜん風呂もありますが、実は海水をつかっているとか。しかし、海水ならではの効能が期待できるそうです。

日本文化に欠かせない「入浴」

 毎年11月26日は、「いい風呂の日」です。これは、日本浴用剤工業会がその語呂から定めたものだそう。日本人にとって、入浴するという行為は、身体を清潔に保つという衛生的な観点とは別に、心身ともにリラックスするという概念的なものも含む、一種の文化的側面もあります。それは船の中で任務に従事する海上自衛官も同じで、艦内には入浴設備が整っています。


海上自衛隊の最新鋭護衛艦「かが」は災害時の浴場無料開放でも活躍(画像:海上自衛隊)

 海上自衛隊が保有する護衛艦では「隊員用浴室」と呼ばれ、そこには浴槽とシャワーが設置されています。基本的に港での停泊中は真水を使用しており、普通の浴槽と変わりありませんが、航海中に関しては、海水を使うそうです。

 海水というと一般的にベタベタしそうなイメージがありますが、護衛艦「やまぎり」の船員が、海上自衛隊YouTubeチャンネルで解説していた内容によると、出航して沖に出たときのキレイな海水を使うため、そのお湯につかると肌がツヤツヤになる効果があるそうです。また、艦内には「造水装置」という海水を加熱して真水を作り出す装置もあるため、これにより水を大量に使う浴槽こそ海水ですが、シャワーは基本的に真水になります。

 新型の護衛艦だと、この装置の性能も上がっているそうで、新しい艦だと飲料、洗濯、シャワー用に使ってもまだ余裕があることから、トイレにウォシュレットがついている艦も多いといいます。

 ただ、潜水艦に関しては、水中を潜航するため、使用可能スペースが狭いことなどからシャワーのみとなります。これでも設備はよくなった方で、第2次世界大戦中の潜水艦はシャワーがないのが常識で、艦内の臭いはかなりきつかったといわれています。

災害時にも隊員用風呂は大活躍!

 自衛艦の隊員用浴室は災害時にも役立てられており、2018年7月、西日本豪雨で呉市に大規模な断水が発生した際はヘリコプター搭載護衛艦「かが」、護衛艦「いなづま」などの艦艇内の浴場が市民に無料開放されました。なかでも「かが」には、スーパー銭湯や温泉を思わせる立派なのれんも掲げられたそうで、大盛況だったといいます。


災害に備え入浴セットの展開訓練をする隊員たち(画像:海上自衛隊)

 艦内の隊員風呂を開放するほかにも、海上自衛隊では被災地から要請を受け、迅速に入浴支援を行えるように、緊急展開型入浴セットという装備も備えています。これは2011年3月に発生した東日本大震災を始めとして、2016年4月に発生した熊本地震や2019年10月に発生した令和元年東日本台風被害などにも派遣されています。海上自衛隊では、このセットを迅速に展開できるよう、年に1回定期訓練も行っています。

 ちなみに、基本的に護衛艦の艦長室には専用の風呂とトイレがついています。大きな艦船になると副艦長にも個室が用意されるそうですが、そこには風呂、トイレがつかないそうです。