海自護衛艦「まや」「はぐろ」が、弾道ミサイル防衛に関する試験に成功しました。今後の日本のミサイル防衛を占う上で、かなり重要なものです。「はじめて」づくしだったという、その試験内容について解説します。

海自イージス艦がハワイ沖合で弾道ミサイル迎撃試験に成功

 2022年11月21日(月)、防衛省は同月16日(水)、19日(土)、21日にアメリカのハワイ州カウアイ島沖合の太平洋上で実施されたミサイル発射試験において、海上自衛隊のイージス艦「まや」と「はぐろ」が弾道ミサイルを模擬した標的に対する迎撃試験を実施し、全ての標的を撃墜することに成功したと発表しました。


新型迎撃ミサイル「SM-3ブロックII A」を発射する海自護衛艦「まや」(画像:海上自衛隊)。

「JFTM-07ステラーニオウ(仁王)」と名付けられたこの試験は、弾道ミサイルを撃ち落とすための「弾道ミサイル防衛(BMD)」能力を付与された、海上自衛隊のイージス艦の運用能力を実証するために行われてきたものです。今回の試験成功により、2007(平成19)年に海上自衛隊初のイージス艦「こんごう」が実施して以来、実に15年の歳月を経て、海上自衛隊が保有する8隻全てのイージス艦のBMD能力が実証されたことになります。

 ところで、今回の試験ではさまざまな「はじめて」の試験内容が目白押しであり、そしてこの「はじめて」こそが、今後の日本の防衛を左右すると言っても過言ではないほど、非常に重要な内容のものでした。

試験されたさまざまな「はじめて」

 まず、日米で共同開発された新型の対弾道ミサイル用迎撃ミサイル「SM-3ブロックII A」が今回、初めて海上自衛隊のイージス艦から発射されました。2隻のうち「まや」が発射したこのミサイルは、現在、日本が配備している迎撃ミサイルの「SM-3ブロックI A/B」と比べ、射程や高度が約2倍(射程約2000km、高度約1000km)と大幅に性能が向上しており、さらにさまざまな工夫により命中精度も高められています。

 次に、海上自衛隊のイージス艦としては初めて、弾道ミサイルと巡航ミサイルを模擬した標的にそれぞれ同時に対処し、これを撃墜することに成功しました。これを行ったのは「はぐろ」で、短距離弾道ミサイルを模擬した標的に対して「SM-3ブロックI B」を、巡航ミサイル(エンジンを搭載して低高度を飛翔するミサイル)を模擬した標的「BQM-177A」に対して「SM-2ブロックIII B」をそれぞれ発射しました。


弾道ミサイルと巡航ミサイルへの同時対処試験に臨む海自護衛艦「はぐろ」(画像:海上自衛隊)。

 この「はぐろ」が成功した試験には、実は従来のイージス艦の弱点を克服するという、非常に重要な意味があります。

 これまで、いくらイージス艦といえども小型かつ高速で飛翔する弾道ミサイルに対処するためには、レーダーや情報処理装置の能力を全て注ぎこむ必要があったため、周辺の警戒がおろそかになってしまうという課題がありました。そのため、弾道ミサイルに対処するイージス艦を護衛するための艦艇として、海上自衛隊ではあきづき型護衛艦を運用しています。


海上自衛隊あきづき型護衛艦「あきづき」(画像:海上自衛隊)。

 そこで、イージス艦が単艦で弾道ミサイルに対処しながら周辺の防空も行える能力、これを「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」能力といい、その各艦への付与が図られてきたのです。

 現在、海上自衛隊のイージス艦でこのIAMD能力を持っているのは、「あたご」「あしがら」「まや」「はぐろ」の4隻で、今回「はぐろ」が初めて実際の迎撃試験でこれを実証したことになります。

防衛省が発表した「新規機能」 その意義とは

 さらに、防衛省の発表によると、21日に実施された実際の迎撃ミサイル発射をともなわないシミュレーション上の迎撃試験において、「まや」と「はぐろ」は「新規機能」を確認したとされています。


海上自衛隊まや型護衛艦「まや」(画像:海上自衛隊)。

 具体的には、アメリカ軍が発射した模擬弾道ミサイルを「まや」が探知し、その情報を受信した「はぐろ」がシミュレーション上で迎撃を行った、というものです。日本国内の報道によると、これは海上自衛隊のイージス艦としては初めての「エンゲージ・オン・リモート」の試験ということが判明しました。

「エンゲージ・オン・リモート」とは、前方に展開するイージス艦が探知した弾道ミサイルに関する情報を衛星通信経由で送信し、これを後方にいるイージス艦が受信、そのデータに基づいて迎撃ミサイルの発射、誘導を行う、というものです。後方の艦は、自艦のレーダーで弾道ミサイルを捉えることなくこれを迎撃することになります。

 このエンゲージ・オン・リモートの利点は、迎撃ミサイルの能力をフル活用できるということです。

 たとえば、北朝鮮から発射された弾道ミサイルを、日本海と太平洋にそれぞれ展開するイージス艦が迎撃するとします。最初に弾道ミサイルを探知するのはもちろん日本海側にいるイージス艦ですが、仮にこのイージス艦がすでに迎撃ミサイルを撃ち尽くしてしまった場合、太平洋側にいるイージス艦に対処をお願いしなければなりません。

 ところが弾道ミサイルの高度が低い段階では、太平洋側のイージス艦からは水平線や日本列島の下に隠れてしまい、これをレーダーで捕捉することができません。イメージとしては、日本ではまだ南西の空にある太陽が、ハワイから見ると水平線の下に沈んでいる、というような状況です。これでは、いくら迎撃ミサイルの射程が長くとも、これを発射して弾道ミサイルを迎撃することはできません。

 そこで、日本海側にいるイージス艦と弾道ミサイルの探知情報を共有することで、太平洋側の艦では捕捉できていない弾道ミサイルを見えるようにし、これを迎撃できるようにするというわけです。

 北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射を受けて、日本の防衛能力向上が注目を集めています。そうした中で、今回の試験ではそのキモともいうべきBMD能力のさらなる向上が実証された形です。