生物が進化するように、F1マシンもその長い歴史において加速性、安定性、安全性などが向上しています、そして今、F1にも甲殻類のカニに近い形に変化する現象が発生しているといえるかもしれません。どういうことなのでしょうか。

進化が進むと没個性化していくのはF1も同じ!?

 11月24日はチャールズ・ダーウィンが「進化論」を発表したことにちなんで「進化の日」と呼ばれています。この進化に関わる用語として「カーシニゼーション」という言葉があります。十脚目の甲殻類において少なくとも5回は起こったと考えられている“カニの形態に近づく”現象のこと。一例を挙げると「タラバガニ」はカニではなく、ヤドカリの仲間ですが、「ズワイガニ」などのカニの仲間とそっくりなフォルムになっていったことが明らかになっています。

 ここでふと気づいたことが、F1も同じ“カニ化”をしているのでは、という仮説です。


レッドブル・レーシング・ホンダのマシン、最近のF1カーは大体このようなデザイン(画像:ホンダ)

 実はF1チームのレッドブルも、「個性豊かなルックスを持ったF1マシンがグリッドにひしめいていた時代ははるか遠い昔だ」とホームページ上で没個性化を認めています。

 確かに、1970年代のF1カーは野心的なデザインが多く見受けられました。伝説的な6輪マシンのティレル「P34」や、車体の前面にオイルクーラーとラジエターを配置しチーズグレーター(チーズおろし器)と呼ばれたエンサイン「N179」、巨大なインダクションポッド(空気取り入れ口)を備え話題を集めたリジェ「JS5」とバラエティーに富んでいて、まさに「カンブリア爆発」状態でした。

 しかしその後、安全面などを考慮した神(FIA)の思し召し(ルール変更)により、80年代以降は奇抜な車両が少なくなりました。しかし、90年代にはXウイング(日本では「バンザイウイング」)とも呼ばれた運転席近くの左右の小型ウイングを備えたティレル「025」、2000年代にはノーズ下面への空気流増加を狙いノーズ中央に大穴の空いた「セイウチノーズ」を備えるウィリアムズ「FW26」など、まだ奇抜な発想の車両がありました。この「セイウチノーズ」を最後に奇抜な車両は激減しました。

 大きな転機は2014年の神(FIA)によるルール改正です。パワーユニットとして、エコを重視した1.6リッターV6ハイブリッド・ターボエンジンを必ず使わなければならなくなったのです。このパワーユニット開発はかなりコストがかかるため、プライベートチームの参入も難しくなり、エンジンサプライヤーは資金力のある大手自動車メーカーが主体となっていきます。さらに、同ユニットを活かすため、大手自動車メーカーの資金が入った各チームが、厳しいルールの中で似たような構造の車両を開発していく、自然界のカニ化現象と似たような状態が発生しています。

 ただ、カーシニゼーションではカニ型への進化を突然やめる種族も現れることが研究で明らかになっています。F1も再び神(FIA)の気まぐれで多様化する可能性もあるかもしれません。