新型コロナウイルス感染拡大による需要低迷から、徐々に復調しつつある「国内旅行」。乗客と直接対話することをルーチンワークとしているANA井上社長は、どういった“生の声”を聞き、現状をどう受けとめているのでしょうか。

「どこが良かったか忘れちゃった」の声も

 2022年10月、新型コロナウイルス感染拡大により落ち込んでいた国内旅行需要を喚起すべく、「全国旅行支援」が開始されるなどの方策もあり、徐々に国内の観光地が活況を取り戻しつつあります。ANA(全日空)の井上慎一社長が、報道陣のインタビューに答え、その現状について説明しています。


報道陣からのインタビューに答えるANAの井上慎一社長(松 稔生撮影)。

 井上社長は2022年4月に社長に就任。就任以前、そしてその後も、折を見つけては乗客と対話し、直接ニーズを聞き取るのをルーチンワークとしていることで知られています。同氏はコロナ禍で旅行需要が大きく落ち込んだとき、乗客から次のような話を聞いたといいます。

「お客様に旅行になぜいかないのか?というのを直接伺ったとき、真顔で『どこが良かったか忘れちゃった。どこにいったらいいかわからない。教えてください』という声をいただき、ショックを受けたことを記憶しています」

 そののち始まった、全国旅行支援。「始まってからお客様が増えています。とくに遠距離の国内旅行がさらに強くなっており、すでにコロナ前に各地の魅力を知っている方が、背中を押された効果があったのではないかと思います」と評価し、「そういった(どこがよかった忘れてしまったと話した)方々が全国旅行支援を用いて“思い出していただく”ことが大事なのかなと思います。いけば『旅っていいね』と思い出していただける声も耳にしていますので、だんだんとこういったものが広まることで、ジワリジワリと元に戻るのではないかと思います」と話します。

「旅行支援」井上社長が旅客から聞いた意見&その受け止め

 また、井上社長は「とくに東京都では、旅行支援を待っていたという声が多く聞かれた」と話します。その要因のひとつについて全国旅行支援が開始された後の、旅客との対話を思い出しながら、次のように語りました。

「お客様は鹿児島や北海道、沖縄など遠距離に行っていいんだという思いを持たれたそうなんです。というのも、地方の方が東京のお客さんの受け入れをこう(ストップをするジェスチャー)したことがありましたよね。そのことから、無意識からもしれませんが、東京の方の心理的な圧迫要因になってようで、『行ってはいけないんじゃないか』とぼんやりした思いがあったみたいなんです。これが霧が晴れたように『行っていいいんだ、お墨付きを得た』という声をいただきました」

 今後の国内旅行の見通しについて井上社長は、「国内需要はどうやったら感染しないかというのを学んで、実践されています。航空会社だけではなく電車やバス、ホテルなど各業界もそれぞれが感染対策をして、“バブル”のような状況になっているなか、さらに自衛をすることで安全に旅行できるという認識が広がっていると感じます。現在ホテルの方に伺うとリピートされるお客様が増えているそうで、(需要の完全回復は)もう一息だと思います」と話します。