日本では激レア機!? ボーイング唯一のはぐれ者“720”の伝説 兄の“707”そっくり…違いは?
ボーイング社が初めて開発した旅客機「707」には、少しユニークな派生型「720」というモデルが存在します。この機は「707」と何が違い、どういった経緯で開発されたのでしょうか。
1959年11月23日初飛行
アメリカの航空機メーカー、ボーイング社が初めて開発したジェット旅客機「707」。この機は850機以上が製造され、その設計は後発の「727」や「737」に引き継がれるなど、同社の歴史を語るうえで欠かせない旅客機となりました。ただ、この「707」には、少しユニークな派生型が存在していたことは、日本ではあまり知られていません。1959年11月23日に初飛行した「ボーイング720」です。どのような機体だったのでしょうか。
ボーイング720(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)。
720は型式名こそ異なるものの、707をベースに改修が施された機体です。707が開発されたあと、エアライン業界では、短距離向けのジェット旅客機の開発がトレンドとなりました。そのようななか、707は大西洋を横断できるような長い航続距離性能があった一方で、短距離で使用するには、燃費も高く、整備などに手間がかかるという課題がありました。そこで707を短距離でも使用できるよう、さまざま改修が施されたのが720です。
720は胴体のルックスも707と極めて似ており、707と同じように、片翼2発ずつ、計4発のエンジンを搭載しています。720は150席クラスといえる旅客機で、200席弱を配することもできる707とくらべ、サイズがひと回り小さくなっています。720の胴体長は41.4m。胴体は、707のスタンダードタイプである、727-100 よりも 9フィート (2.74m)短縮されています。
ただボーイング社によると、720は、ルックスがよく似ている707とは全く異なる構造をもつとしています。重量は、薄い胴体外板や部品を使うことで大幅な軽量化が図られており、さらに燃料搭載量を削減。主翼の構造なども見直され、低速飛行時に展開することで揚力を増やす動翼「フラップ(高揚力装置)」よりも大きく、強力なものに変更されています。このことで707より低い速度で離着陸できるようになり、短い滑走路でも運用できるようになったほか、最高速度も向上しました。
ただ、707が初飛行する前の1956年にはすでに3発旅客機「727」が開発をスタートしており、1960年代中盤には、2発のエンジンをもつ「737」の開発が進められるなど、社内で新型の短距離向け旅客機の計画がそれぞれ進められており、4発エンジンの707はこれらのモデルに需要を奪われてしまい、ヒット機には、ならずじまいだったわけです。
「720」が開発された理由&謎の型式名はなぜ?
このように、後発機にお株を奪われてしまうことが明らかになった状況でも、720を開発したのは、航空会社側から、「使い慣れた707とよく似た旅客機」のニーズがあってのことでしょう。
707の設計をベースにアレンジする方向性とすることで、ゼロから旅客機を開発するよりも金銭コストを大きく軽減できるほか、開発期間も大幅に削減できました。720の開発が発表されたのは1957年7月。たとえば727は7年を要するなか、720はわずか2年少しで初飛行までこぎつけたのです。このスピードは、「生き馬の目を抜く」とも称されるほどの競争が行われているエアライン業界で、一刻も早く新機材を航空会社に届けることができました。
こうした経緯もあり、720の旅客便デビューは1960 年 7 月 5 日で、アメリカ・ユナイテッド航空で就航しています。
JALのボーイング727(画像:JAL)。
なお、720が開発された当時の日本のエアラインは、まだ発展途上にあり、国内線にジェット旅客機を運航する能力は無く、この市場ではYS-11などのプロペラ機がまだ活躍している状態でした。その結果、国内で720の採用はなく、日本では“レア機”の部類に入るモデルであったと認識しています。
ちなみに720は「727」「737」「747」など1ケタ目と3ケタ目の7を固定する、ボーイング社の型式の命名法則から唯一外れた旅客機です。
実は当初720は「707-020」として開発され、後に「717-020」の仮モデル名を付し、開発が進められた経緯があります。そこから最終的に「720」というモデル名になったのは、開発の後ろ盾なる初期発注者「ローンチカスタマー」であるユナイテッド航空からの要望に基づいたものと記録されています。