JALが国内初となる運航時のCO2排出量を実質ゼロにするフライトを実施。ただ旅客機は最新鋭とはいえ、CO2を出さないわけではありません。どのようにここから「実質ゼロ」まで減らしたのでしょうか。

低燃費な最新鋭機に環境に優しい燃料を組み合わせ

 日本航空(JAL)が2022年11月18日、日本で初となる運航時のCO2(二酸化炭素)排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラルフライト」を羽田〜那覇間で行いました。使用した旅客機は、省燃費を特徴とする同社の最新鋭機、エアバスA350-900の(機番:JA03XJ。導入3号機)。しかし、省燃費とはいえ、運航でCO2を出してしまうのは事実です。どのように「カーボンニュートラル」を実現させたのでしょうか。


「サステナブルチャーターフライト」にのぞむJALのA350-900「JA03XJ」(深水千翔撮影)。

 JALのサステナビリティ推進委員会で委員長を務める青木紀将常務は「地球環境、社会に対してしっかり胸を張って誇らしいものだと言える空の旅を作り上げていかなくてはいけない」と話します。

「サステナブルチャーターフライト」と題して行われた今回の試みでは、JALが2030年までに目指す未来の航空輸送の形がさまざまな点で取り入れられました。

 JALのA350-900はこれまで国内幹線向けの主力機を担っていたボーイング777の更新機として導入。ボーイング777と比較して、A350-900は、CO2を15%〜25%程度削減することができます。そしてこのフライトでは、使用機だけではなく、搭載燃料にも工夫が。CO2の大幅な削減が期待されている次世代燃料「SAF(持続可能な航空燃料)」を約38%使用しています。この「SAF」は、化石燃料以外を原料するジェット燃料で、たとえば動植物油脂や廃食油、都市ゴミなどを原料に製造されます。従来の燃料と同等のクオリティや規格を維持しながらも、原料がエコなぶん、CO2排出量の削減効果が加わります。

 また、このフライトでは、運航方法にも工夫が見られます。出発時には片方のエンジンのみで地上走行を行って燃料消費を抑制し、滑走路に入る前に2つのエンジンを起動するという試みも行われました。

 これに従来から実施している、早期の加速上昇や速度の調整、連続降下といった一連のオペレーションを組み合わせ、CO2のさらなる削減につなげることが出来たといいます。

 また、「SKYWARD」などの機内誌を搭載せず、機内販売も事前予約制とすることで、荷物の搭載量を減らし機体重量の軽量化を図っています。出発ロビーからは2022年7月に導入されたばかりの、電動トーイングトラクター(手荷物が入ったコンテナを運ぶための車両)も見え、少し先の未来を感じることが出来ました。

 しかし、こういった工夫をもってしても、CO2を100%削減することは出来ません。飛行機の運航時の環境負荷をさらに軽減するためには、利用者、つまり乗客の協力が必要不可欠です。

「低燃費→実質ゼロ」を可能にしたものとは

 JAL「サステナブルチャーターフライト」の旅行代金には、航空券代とは別に、移動中の航空機から排出されるCO2を、クレジットを金銭で購入することによって埋め合わせる仕組み「カーボンオフセット」の代金が含まれています。

 JALカーボンオフセットのページで羽田〜那覇間のオフセット金額を調べると、片道で325円(CO2換算で約112kgの削減)となっており、今回のフライトでは、これが約250人分積み上げられた形になります。


JAL「サステナブルチャーターフライト」出発前の様子(深水千翔撮影)。

 このほか、自宅と羽田空港の移動に公共交通機関の利用や、機体重量軽量化の一環として、持ち込み手荷物荷物をコンパクトにするため、羽田空港の手荷物一時預かりサービスの利用も呼びかけられました。

 このように機材、燃料、オペレーション、カーボンオフセット、そして乗客の協力によってカーボンニュートラルフライトを達成することが出来たのです。

 CO2の削減につながるとはいえ、旅行代金にコストが上乗せされる形になったものの、「(チャーターツアーを)売り出した時にかなりの反響があり、非常に手ごたえがあった」(青木常務)とのこと。実際、乗客に話を聞いてみると「飛行機にたくさん乗るからこそ、環境に優しいものを選んでいきたい」「移動でCO2を排出したその部分だけでも減らしたい」といった声が聞かれました。
 
 JALは2050年までにCO2排出量実質ゼロ(ネット・ゼロエミッション)を目指すことを掲げていますが、そのカギとなるSAFの導入はまだ限定的といわざるをえません。SAFは収集・生産から燃焼までのライフサイクルでCO2を約80%も削減することができる一方で、コストの高さが課題。従来のジェット燃料に比べて、数倍もの価格になっているのが現状なのです。生産・商用化も日本では非常に遅れており、青木常務も今回のフライトで一番苦労した点として「SAFの調達」をあげています。

 一方で温室効果ガスの削減は世界的な課題となっており、CO2を非常に多く排出する飛行機の利用者も意識していく必要があるでしょう。そうした点から今回のJALが今回実施した、オペレーションでのCO2削減策と航空券代へのカーボンクレジットを上乗せするという、現在できる手段の“合わせ技”で、環境負荷を大きく減らす取り組みは、一つの“解”になっていくのかもしれません。