新型コロナ感染拡大による大幅減便から徐々に復調を見せる国際線航空便。ANAの井上社長はどのような未来を描いているのでしょうか。A380の全機復活や羽田の第2ターミナル全面再開の予定など、その状況を聞きました。

水際対策の緩和が10月から実施も

 新型コロナウイルス感染拡大で、国際・国内ともに大きな変動を迫られた航空会社。ANA(全日空)の現況はどのようになっているのでしょうか。今回、日本人に根強い海外旅行先であるハワイ・ホノルルで、同社の井上慎一社長が、インタビューに答えてくれました。


報道陣のインタビューに答えるANAの井上慎一社長(2022年11月、松 稔生撮影)。

「ハワイはコロナ前には来ており、そのときのことがフラッシュバックして蘇ってきました。降り立った瞬間に幸せな雰囲気に包まれる独特の感覚があるのが、この島ならではの持ち味ではないかなと思います。街も変わったところが多くある一方で、メインストリートは変わっていないところもあり、懐かしく思い出しながら拝見しました」。井上社長は、ハワイの現状について次のように説明しています。

 ANAでは総2階建ての胴体をもつ超大型旅客機である、エアバスA380「フライングホヌ(空飛ぶウミガメ)」を成田〜ホノルル線に投入。今回同型機でホノルル入りした井上社長は、「離陸には感動しました。安定しているいい飛行機だなと感じましたね」とフライトを振り返ります。

 一方で、2022年10月から日本入国の際の水際対策が大幅に緩和されたものの、以前のような日本人旅行者の流動はまだ見られません。とはいうものの、井上社長は「コロナへの防衛措置に対するお客様の意識が広がってきており、需要はだんだんもどってくるんじゃないかなと思います」と話します。

 コロナ禍は先述の「フライングホヌ」にも影響を及ぼしました。現在ANAでは同型機を3機保有していますが、コロナ禍では2年4か月にわたり、定期便投入を見合わせ。今年7月に再就航したものの、それでも2021年10月に受領した、オレンジの特別塗装をもつ3号機(機番:JA383A)は、まだ定期便へは一度も投入されていない状況です。

「ホヌ」3号機就航&羽田T2国際線エリア再開のポイントは?

「フライングホヌ」3号機を就航させるポイントについて井上社長は、次のように説明します。

「3号機は、お客様にお乗りいただけるなら出すといった状況で、需要がポイントです。まだハワイ行きの需要は、完全に戻りきっていないところもあるので、それを待ちながらも、需要を喚起するいろんな仕掛けをしている途上にあると捉えていただければと思っています。ただ、だんだんと需要が上がっているところは間違いないといえるでしょう」

「私が申しあげるのもなんですが、『フライングホヌ』は、ホノルルに飛べなかったなかでも遊覧飛行や地上駐機をしたままレストランとするイベントなどの要望があがり、それを実現するなど、独特のニーズをもつ機体でもありました。この強みを生かして、早く3機フル稼働で投入することで、いろんなことができると思います。他の機体との差別化はできていると思うので、うまく使っていきたいなと思います」


ANAのエアバスA380「フライングホヌ」3号機(乗りものニュース編集部撮影)。

 また、コロナ禍が襲ったことにより、羽田空港発着の国際線にも影響が出ています。

 現在同空港では、2020年3月に供用開始した第2ターミナル国際線エリアをオープンからわずか約2週間で一時閉鎖。このエリアはANA国際線航空便のために作られたものですが、現在も再オープンの予定は発表されていません。その再開のキーポイントは井上社長は次のように説明します。

「羽田空港第2ターミナルの国際線エリアの復活のカギは、需要の回復です。国際線の便数は増えてきてはいますが、19年比で見ると(旅客の)戻り方は4割で、そのうちの半分の2割は日本発着ではなく、東南アジアと北米の三国間流動の乗り継ぎの方が占めています。つまり、まだ2割しか戻っていないのです。ここの再開を議論をするのはまだ早い状況で、まず、日本発着の需要が増やすことがまず最初の課題です」

カギの水際対策、海外と日本では “ズレ”あり?

 日本と海外との往来が以前のような活況を取り戻すカギのひとつが、水際対策のルールの見直しです。2022年11月現在、日本入国には、ワクチン接種3回の接種証明、その接種回数に満たない場合は、帰国前にPCR検査を受けなければならず、後者のケースでは1人あたり数万円の検査費用を要します。


羽田空港第2ターミナル国際線エリア(乗りものニュース編集部撮影)。

「今年の5月に岸田総理が(水際対策を)G7なみ(日本、米国、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)にするとおっしゃっていましたが、ほかのG7加盟国でもワクチン接種は2回はスタンダードです。そのG7なみの基準にあわせていただければ、海外の方も『(ほかのG7加盟国)と一緒だな』と思っていただけるのではないかと思います。(日本入国者にとっては)ストレスもありますし、人の往来が活発にならないと経済も回りません。これまでの7回の“波(感染ピーク)”を経験したことでいろいろな知見も蓄えているでしょうし、それを生かしてやれるんじゃないかと思います」

「しかし、水際対策の緩和後(12月から1月の)日本発のお客様が2倍、海外発のお客様が5倍に増えており、効果はあると思います。3000万人のインバウンドのお客様が来た場合の経済効果は5兆円とされるように、影響は大きいんです。円安もあることですし、G7なみの水際対策にすればもっと来ていただけるのではないかと思いますので、ぜひ早期に実現していただきたいと思います」

※ ※ ※

 今回井上社長は、ANAが主催し、ハワイ文化の継承や環境保全をテーマとした文化交流などを図る音楽イベント「ANA 'Aha Mele(ANAアハメレ)」のためにホノルルへ。「やっぱりリアルだなと!オンラインもいいですが、やっぱり来てみると五感に訴えるものがありますよね。やっぱり来なきゃだめだなと私自身が思いました。リアルの素晴らしさを日本、そしての皆様にお伝えしていきたいと思います」。井上社長は、今回のホノルル渡航を次のように振りかえっています。