ココが横浜!? 駅前“虚無”の相鉄線「ゆめが丘」大型開発スタート 都心直通で大化けなるか
相鉄いずみ野線の駅がある横浜市泉区の西の端「ゆめが丘」で大規模な開発が始まりました。東急線との直通も控え、家屋すらまばらだった同地区が大きく変わろうとしています。
相鉄線の駅で最少の乗降客数「ゆめが丘」
2023年3月に新横浜線が開業予定の相模鉄道では、その沿線で大規模開発が始まっています。相鉄グループの相鉄アーバンクリエイツと相鉄ビルマネジメントは2022年10月1日、いずみ野線ゆめが丘駅(横浜市泉区)前の「大規模集客施設」建設工事に着手しました。
両社の発表によると、この施設は延べ床面積11.8ヘクタールの4階建て。沿線在住者向けに「ライフスタイルの提案や地域資源を活かした体験・交流の場」として2024年春の開業を予定しています。
相鉄いずみ野線のゆめが丘駅(乗りものニュース編集部撮影)。
ところでゆめが丘駅前には家屋がほとんどなく、周囲も空き地と畑が広がるのみです。乗降客数も相鉄の全26駅中最も少ない1741人(2020年度)で、次に少ない平沼橋駅の7244人と比較しても格段に利用者数が低いことが分かります。
何もないのは当然で、ゆめが丘は長年、市街化を抑制する「市街化調整区域」に指定されていたからです。2014(平成26)年より、ゆめが丘駅と横浜市営地下鉄ブルーライン下飯田駅に挟まれた泉区下飯田町を中心とした約23.9ヘクタールで、「横浜国際港都建設事業 泉ゆめが丘地区土地区画整理事業」が進められています。
区画整理では、環状道路4号線の拡幅、4号線から両駅へのアクセス道路、駅前広場、公園、雨水調整池、上下水道・都市ガスなどのインフラを整備。ゆめが丘駅と下飯田駅の間には商業施設と集合住宅からなる「センター地区」を整備し、冒頭の大規模集客施設はここに設置されます。
このほか、中・小規模の店舗や事務所、集合住宅を複合的に整備する「複合利用地区」、4号線沿いにはロードサイド型店舗、店舗併用集合住宅、工場・倉庫などから構成される「沿道サービス地区」、その周辺に広がる「住宅地区」が整備され、工事は2025年に完了予定です。総事業費は約109億円にも達します。
開業前の仮称は地下鉄と同じ「下飯田」だった
ゆめが丘の開発は横浜市泉区の誕生とともに始まりました。1986(昭和61)年に戸塚区から分離する形で泉区が設立されると、区域を開発するために相鉄いずみ野線とブルーラインの延伸が決定します。
横浜市は1990(平成2)年、鉄道延伸と一体的に横浜市・地元地権者・鉄道事業者が共同で区画整理事業を進める「いずみ田園文化都市構想」を地元に提示。1993(平成5)年、横浜市総合計画「ゆめはま2010プラン」に「いずみ田園文化都市構想」が盛り込まれました。
そして1999(平成11)年にいずみ野線とブルーラインが湘南台駅(藤沢市)まで延伸し、相鉄にゆめが丘駅、地下鉄に下飯田駅が開業します。ちなみに、ゆめが丘駅も開業前の仮称は「下飯田」でしたが、夢のある街になることを願って「ゆめが丘」と名付けられました。
その後、開発構想や整備手法についての検討が進められ、ようやく2014年に土地区画整理組合が設立されます。2016(平成28)年6月には横浜市と横浜国立大学、フェリス女学院、相鉄ホールディングスの4者が、いずみ野線沿線における「次代のまちづくり」の推進に関する連携覚書を締結し、沿線に存在する豊かな自然環境や人的資源、低未利用地などの地域資源を活用した「環境に配慮したまちづくり」「多様な年齢層にとって住みやすいまちづくり」を推進することに合意。同年8月、ついに事業が始まりました。
相鉄ホールディングスにとってゆめが丘は重要な戦略拠点です。2010(平成22)年発表の相鉄グループ長期ビジョン「Vision100」では「沿線開発6大プロジェクト」として横浜、天王町、星川、二俣川、海老名とともにガーデンシティゾーンとしていずみ野、ゆめが丘を掲げています。
ゆめが丘については「非日常的な雰囲気を兼ね備えた郊外型ライフスタイルセンターのある街を目指す。居住者の増加と沿線外からの集客を図り、沿線外生活者には相鉄線沿線体験をしてもらう」とのビジョンが示されています。具体的に「物販だけでなく時間消費のできるエンターテイメント機能を持たせ、沿線内外からの集客を図る」ために有名小学校や中高一貫校などの誘致、保育施設や子供が楽しめる施設、エンターテイメント機能の整備を挙げています。
直通列車はいずみ野線まで来る?
最新の中期経営計画(2022〜2026年度)ではややトーンダウンし、「ゆめが丘土地区画整理事業」「大規模集客施設開発」「ゆめが丘分譲マンション開発」からなる現実的な「ゆめが丘地区再開発事業」となっています。
中央がゆめが丘駅。長年、市街化調整区域に指定されてきたため、駅周辺には何もない(画像:国土地理院)。
もうひとつ、相鉄にとって社運を賭けた一大事業が新横浜線の建設です。2019年11月にJR埼京線との直通運転を開始、2023年3月には東急線を介して地下鉄南北線、三田線、副都心線への直通運転を開始する予定です。
現在、JR直通列車は全て相鉄本線(海老名駅始発)からの設定ですが、東急直通列車は1月27日に発表された運行形態概要によると、直通先として相鉄本線といずみ野線の両方が挙げられています。
現在の朝ラッシュ時ダイヤでは、いずみ野線の「通勤急行」はゆめが丘から二俣川まで17分で結んでいます。先述の運行形態概要では二俣川〜目黒間が約38分とのことなので、ゆめが丘から目黒まで1時間弱で到達する計算です。
都心から1時間弱の所要時間は、東武スカイツリーライン(急行)では久喜、東上線(急行)では森林公園、小田急線(快速急行)では厚木に相当しますので、通勤圏としては十分成立するでしょう。しかしこれらは、いずれも始発列車が設定されている駅です。ゆめが丘は始発駅湘南台の隣駅ですが、列車によっては座れることもあるものの、通勤急行の座席はさすがに埋まっているでしょうか。もし着席通勤ができるようになれば、都心へ乗り換えなしの新たな住宅地として人気が出るかもしれません。