日本代表のカナダ戦は収穫よりも不安が増した内容。目立ったのは遠藤航と守田英正の不在
11月20日(日本時間11月21日)にカタールで開幕するワールドカップを控え、日本代表は本番前最後となる親善試合でカナダに敗れた。しかも、先制しながらの、1−2の逆転負けである。
だがしかし、ワールドカップ直前の親善試合は、あくまでも本番のための準備だ。
勝敗は二の次。本番に向けた調整やテストをどれだけ周到に行なえるか。そこに本当の意味がある。
実際、過去のワールドカップを振り返っても、日本代表の本番での結果は直前の試合結果と必ずしもリンクしない。
例えば、2010年南アフリカ大会では、直前のコートジボワール戦(0−2)を含め、親善試合4連敗で本大会に向かいながら、グループリーグを2勝1敗で突破してのベスト16進出。
逆に2014年ブラジル大会では、直前のザンビア戦(4−3)を含め、親善試合5連勝で本大会に向かいながら、本番では1勝もできずにグループリーグ敗退に終わっている。
それを考えれば、今回の試合も結果について悲観する必要はない。
「結果は残念なものになってしまった」
森保一監督も試合後、そう前置きしつつ、「内容的に今日の試合で試したかったこと」として3つのポイントを挙げ、「ワールドカップ本番に向けて(の準備)、と考えた時には、いい準備ができた試合になったと思っている」と総括した。
相馬勇紀のゴールで先制した日本だったが...
3つのポイントとはすなわち、「(チーム)全体のコンディションを上げる」、「戦術的な確認をする」、「状況によってシステムを変える」である。
本番への準備において、この試合での最大の収穫を挙げるなら、森保監督が最初に挙げた「全体のコンディションを上げる」ということになるだろう。
この試合では、所属クラブでのケガで戦線離脱していたDF板倉滉、MF田中碧、FW浅野拓磨が、そろって先発出場。浅野は前半45分、板倉と田中は後半途中までプレーした。
本番の出場が危ぶまれるヒザのケガを負っていた板倉は「最初はキツかったが、これ(カナダ戦)を経験できたのは大きい」と言い、こう語る。
「(ワールドカップ初戦の)ドイツ戦はもっと(コンディションが)フィットすると思う。もう怖さもないし、試合中はアドレナリンも出ているので問題ない。(試合が)終わった直後の感触はいい。ドイツ戦は間違いなくもっとよくなる」
MF三笘薫が体調不良でチーム合流が遅れ、DF冨安健洋はカナダ戦出場を回避。MF遠藤航、MF守田英正にしても、カナダ戦には帯同せずにドーハに残って調整を続けているといった現状を考えれば、板倉、田中、浅野の復帰は好材料。ワールドカップ本番での「総力戦」を掲げる森保監督も、「ゲーム勘や状態を確かめないといけない選手が何人かいたが、強い相手とプレーしてもらうことができてよかった」と話しているとおりだ。
加えて、FW上田綺世は相手を背負いながらボールキープできる強さを見せたし、MF相馬勇紀は左右を問わず高いアベレージでプレーできることを証明。この試合で得た収穫は間違いなくあった。
とはいえ、本番前の準備という観点に立ち、結果ではなく内容に目を向けてもなお、少なからず不安要素が目についたこともまた否定はできない。
森保監督が挙げた「戦術的な確認」で言えば、前からのプレスがハマらず、カナダにかいくぐられるシーンが目立つ一方で、逆にマイボール時のビルドアップではカナダのプレスに苦しみ、自陣でボールを失うシーンが少なくなかった。
同じく「状況に応じたシステム変更」においても、4−2−3−1から3−4−2−1に変更したあと、確かに「チームとしていい距離感で攻撃も守備もできるようになった」(森保監督)が、最終的には両チームが互いに速い攻守の切り替えを繰り返すなかでピンチを招き、PKを与えて失点。本番で使うオプションとしては不安が残る。
むしろ、「戦術的な確認」や「状況に応じたシステム変更」を考える時、この試合で目立ったのは、遠藤と守田の不在ではなかっただろうか。
例えば、前半途中からプレスがハマらなくなった時でも、彼らがいれば一度リトリートするなりして、事態の改善を図れたのではないか。あるいは、ビルドアップがうまくいかなかった時には、周りの選手を動かしながら立ち位置を変え、パスがつながりやすくすることができたのではないか。そうした疑問が頭をもたげる。
少なくとも、"ふたりまとめて"いなくなるとキツい、ということははっきりしただろう。
4年前を振り返ると、2018年ロシア大会の直前、日本代表はパラグアイとの親善試合に4−2で勝利している。
ワールドカップ開幕を2カ月後に控えたタイミングで監督交代に踏み切った日本代表は、それまで親善試合で3連敗とドン底状態。ところが、結果的に本番でベスト16進出を果たせたのは、この勝利をきっかけに潮目を変えたから、と言ってもいい。
4日前の試合から10人を入れ替えた先発メンバーは、有り体に言って、サブ組中心と考えられていた顔ぶれだった。しかし、結果的にこの試合で好連係を披露したMF香川真司、MF乾貴士らが、本番でスタメンの座を奪い、その後の快進撃につなげた。
この試合が本番の結果につながったのは、勝ったからというだけではなく、主力とサブの立場が入れ替わるほどに充実した内容を見せたからだ。
本番直前の試合は、あくまでも準備。負けたらダメという試合ではない。
だが、日本代表が目指しているのは、大会初戦のドイツ戦に勝つことではない。中3日の3試合を戦ってグループリーグを勝ち上がり、さらにその先の1試合に勝利することである。
だとすれば、どうか。
替えの利かない選手がいることは頼もしい反面、相応のリスクがはらむことも意味している。
目指すはベスト8進出――。その期待と不安を天秤にかければ、前者に傾くような試合だったと言うのは難しい。