ロッテ新監督の吉井理人は柔と剛のバランスがいい「設計者」。清水直行が「勉強させてもらった」と語る指導能力の高さ
清水直行が語る吉井理人新監督と今後のロッテ 前編
2018年からロッテを指揮していた井口資仁監督が2022年シーズン限りで退任。昨季まで投手コーチ、今季はピッチングコーディネーターを務めていた吉井理人氏が新監督に就任した。
ロッテの投手コーチ時代、佐々木朗希(左)の育成法も話題になった吉井理人新監督
吉井監督とはどんな人物なのか。長らくロッテのエースとして活躍した清水直行氏に、吉井監督について聞いた。現役時代はともにロッテでプレーし、引退後は両氏ともロッテの投手コーチを務めたが、清水氏は吉井監督の人物像についてこう語る。
それから長い月日を経て、2019年には一軍が吉井氏、二軍は清水氏がそれぞれ投手コーチを務めた。
「吉井さんは一軍が休日の時などに、二軍のロッテ浦和球場に顔を出されていました。あとは石垣島の春季キャンプで、一軍のピッチャーたちがゆっくりと調整を始めた時に話をしましたね。
そういった時に感じたのは、観察力や傾聴力の高さです。キャンプ中に1週間ぐらい接しましたが、最初の2、3日ですぐにそのすごさがわかりました。吉井さんはコーチング(自主的な行動を促す、考えさせる)とティーチング(知識やノウハウを伝える)をしっかりと分別できているんです。選手とコミュニケーションをする中での質問の内容やタイミングのよさが抜きん出ていた。僕も投手コーチを務めるにあたって、いろいろと勉強させてもらいました。
二軍の駆け出しの選手や、三軍の選手であれば『ここはこうだよ』と教えていく部分はあると思いますし、生活面やプロ野球の仕組み、食事の取り方などは教えたりします。ただ、そういったティーチングよりも、圧倒的にコーチングのほうが必要なんです」プランづくりの能力の高さとバランスのよさ
吉井氏は、選手として日米7球団で24年間プレーし、投手コーチとしては日本ハムを皮切りに、ソフトバンク、ロッテ、さらには野球日本代表と経験が豊富だ。これまでダルビッシュ有、大谷翔平、佐々木朗希など日本を代表するエースたちも指導してきた。
「経験値が圧倒的に高いです。机上ではなく実戦で積んできたもの、見てきた選手の数による経験値ですからね。成功体験や失敗体験が蓄積されていて、そういったものからブレない考えが生まれるんだと思います。
また、ピッチャーがブルペンに入る日や投げる球数、シート打撃の登板日、オープン戦でどの試合に投げさせるかなど、全選手のプランが早い段階で決まっていた。ピッチャーの育成プランを作る力も素晴らしいですし、そういう意味では"設計者"でもありますね」
今季に佐々木が完全試合を達成した際には、医療、栄養、コンディショニングを全面的にサポートする体制づくりや、球数制限や登板間隔を空けるといった育成プランが話題になった。清水氏は「柔と剛のバランスがいい」と続ける。
「ピッチャーを育成する上では、柔軟性を持ちながらいろいろなプランを立てていくと思うのですが、吉井さんは『いざ』という時に頑固な部分もある。投手を替える時も、事前に上限を100球と決めていたらそれを貫き通すといったように。吉井さんはそのバランスが優れていると思います」
ただ、来季から担うのは監督。投手コーチと違い、今後はチーム全体のマネジメントが必要となる。
「吉井さんはご自身のことを"見習い監督"と言っていますね。投手コーチを歴任されてきた方なので、注目したいのはやはりピッチャーの管理です。黒木知宏さんが一軍の投手コーチに就任しましたが、ご自身の立ち位置、投手コーチを尊重する部分など、バランスをどう取っていくのかが気になります。ただ、吉井さんと黒木さんは日本ハムでも投手コーチとして一緒にやっているので、ある程度の"阿吽の呼吸"もあると思いますし、なんとなくイメージできます。
一方で気になるのは、攻撃面でどういう手腕を振るわれるのかというところ。やはり投手の立場としては、試合前半にたくさん点を取ってくれるに越したことはないですし、アグレッシブに仕掛けていく部分と手堅くいく部分とのバランスだったり、勝負どころでの采配なども注目したいと思います」
清水氏は、黒木投手コーチとも現役時代に同じ先発ピッチャーとして切磋琢磨した関係だ。再びロッテのユニフォームに袖を通すことになったかつてのチームメイトについて、こう語る。
「まずは、黒木さんがロッテに戻ってきたことが嬉しかったですね。僕がロッテに入団した時の絶対的エースですから。現役時代は右肩の大ケガをして、その後に復活したり、苦労することも多かったと思います。ファンのみなさんには"魂のエース"などと呼ばれていますが、まさにその通りで、ファイティングスピリットがすごい。あと、本当に面倒見がいいです。
やはり"魂のエース"には、一球一球に込める気持ちの大切さをピッチャー陣に注入してほしいです。一軍の投手コーチではありますが、二軍を含めて考えると30人くらいのピッチャーがいるので、どうマネジメントしていくのかが重要です。でも、黒木さんは日本ハムで一軍の投手コーチを5年間務めてきましたし、多くの経験を積んでいるので心配ないと思います」
自身を「見習い監督」と言う吉井監督だが、指導者としての経験値は高く、ロッテの選手たちの技量や性格なども熟知している。それだけにファンだけでなく、球団OBである清水氏の期待も高まっているようだ。
「先ほども話しましたが、吉井さんは"柔"と"剛"のバランスが優れている方。どんな采配や起用法、チームマネジメントを見せてくれるのか楽しみですね」