デ・ブライネとカタールW杯で思い出す4年前の14秒カウンター。ボールを持つ彼になぜ追いつけないのか風間八宏が解説
第20回:ケビン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ/ベルギー)
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、国内外のトップクラスの選手のテクニック、戦術を深く解説。今回はマンチェスター・シティやベルギー代表で、世界トップクラスのプレーを見せ続けている、ケビン・デ・ブライネを深掘り。彼がボールを持った時にチームが急にギアチェンジして「速く」なる、あのカラクリを明かす。
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動きながらのプレーが抜群最新のFIFAランキングで2位に位置するベルギーは、今回のカタールW杯でも優勝候補に数えられる。そのチームの顔とも言える存在が、攻撃的MFとしてチーム全体をコントロールするケビン・デ・ブライネだ。
デ・ブライネの正確で速いプレーは、カタールW杯の注目になる
日本のサッカーファンの脳裏に刻まれている、4年前の"ロストフの悲劇"。日本のコーナーキックからわずか14秒で、ナセル・シャドリの決勝ゴールが生まれた語り草の試合である。
あの場面で、GKティボ・クルトワからボールを受け、日本陣内まで一気にドリブルでボールを運んだのが、デ・ブライネだった。
あれから4年が経過し、3大会連続でW杯の舞台に立つ予定のデ・ブライネだが、その輝きは増すばかり。むしろ、すごみを増していると見るべきだろう。
果たして、世界屈指のワールドクラスとして高く評価される、デ・ブライネの最大の特長はどこにあるのか。風間八宏氏が、解説してくれた。
「彼がなぜ特別な選手なのかと言うと、動きながらのプレーが抜群に優れているからです。
たとえば、動きながら正確にボールを扱い、コントロールできる。しかも、動きながら正確なパスを出せて、高精度のシュートでゴールを決めることもできます。さらに言えば、スピードに乗ってドリブルしているなかでも、周りがよく見えています。
それと、ボールが体から離れず、左右両足で正確にボールを蹴ることもできるので、一度前を向いてボールを運び始めたら、どこにパスをするのか、いつシュートをするのか、相手はまったく予測がつきません。走るスピードはそれほど速いわけではないのに、ボールを持ったら速くなるのは、そういったプレーの正確性、技術の高さがあるからです。
4年前の日本対ベルギーのカウンターのシーンを見ても、デ・ブライネの特長がよく表れています。あの時も、ベストなコース取りで、最速のドリブルをするデ・ブライネに、誰も追いつくことができませんでした。あのプレーだけを見ても、彼が特別な選手であるのがよくわかります。
表現は難しいのですが、ゲームメイカーのようでゲームメイカーでもなく、チャンスメイカーに見えてチャンスメイカーでもなく、ストライカーのようなプレーもしますが、決してストライカーではない。
要するに、すべてを持っているのが、デ・ブライネという選手だと思います」
チーム全体のテンポを上げられる風間氏も絶賛するデ・ブライネは、現在31歳。ベルギーのヘンクでトップデビューした2009年から、もう13年が経過したが、デビュー当時にこれほど偉大な選手になることを想像した人は決して多くはなかった。
それでも、2012年にチェルシーに青田買いされたあと、ブレーメン、ヴォルフスブルクと、3シーズンにわたってブンデスリーガで実績を積み、2015年8月に現在もプレーするマンチェスター・シティに5500万ポンド(当時約105億円)で移籍。その翌年、ジョゼップ・グアルディオラが新監督に就任したことをきっかけに、デ・ブライネの存在感が際立つようになった。
なぜデ・ブライネは、マンチェスター・シティでもベルギー代表でも、不可欠な選手として君臨しているのか。
その理由として、デ・ブライネがボールを運び始めるとチーム全体に生まれるある変化について、風間氏が解説してくれた。
「デ・ブライネは動きながらでも素早い判断ができるので、動き始めるとほとんど止まることなくプレーできます。そうすると、自然とチーム全体のテンポが上がる。なぜかと言えば、彼がチームのなかで判断、選択する頻度が一番高いため、周りの選手がそれについていく必要があるからです。
同じマンチェスター・シティでプレーするMFイルカイ・ギュンドアンも、それに倣って前に出ていきますが、同じような現象は起こりません。もちろん、ギュンドアンもドイツ代表選手ですし、優れたMFであることは間違いないのですが、デ・ブライネと比較すると、周りに与える影響、周囲の選手を動かす能力に、少し差があるように思います」
正確な技術があると速くなる風間氏曰く、デ・ブライネは類稀な戦術眼の持ち主で、相手の動きもしっかり見えているからこそ、正確かつ素早い判断が可能になるという。
「相手を見ると言っても、何を見るのか、いつ見るのか、という要素がとても重要になりますが、その前提として言えるのは、ボールを見ているとボールに全部の視野がとられてしまうので、相手を見ることができないという点です。
それを踏まえてデ・ブライネのプレーを見ると、彼はボールを運んでいる時でもボールを見ていないことがわかります。それを、スピードに乗った状態で、なおかつボールを正確にコントロールしながらできてしまうのが、彼が特別な選手である理由のひとつと言えます。
これまで何度も話しましたが、結局は、正確な技術が大事だということです。正確にプレーできなければ、ボールを見ないで運ぶことはできませんし、スピードも上がりません。逆に、正確な技術があれば、それほど足が速くなくても、デ・ブライネのようにボールを運ぶ時のスピードは速くなる。
彼が特別な選手である理由は、そこに集約されると思います」
日本サッカーにとって忘れられない14秒となった、ロストフの悲劇から4年。円熟味を増したデ・ブライネが、カタールW杯でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。
日本がグループEを通過した場合は再び対戦する可能性もあるだけに、デ・ブライネのプレーぶりは今大会も要注目だ。
ケビン・デ・ブライネ
Kevin De Bruyne/1991年6月28日生まれ。ベルギー・ヘント出身。2008年にヘンクのユースからトップチームに昇格。2012年にチェルシーに移籍したが、ブレーメンへのレンタル移籍で1シーズンプレーしたのち、2014年1月にヴォルフスブルクへ。ここで2014−15シーズンはドイツ年間最優秀選手を獲得する活躍を見せ、2015年からはマンチェスター・シティに移籍してプレーしている。各年代のベルギー代表でもプレーし、A代表デビューは2010年。2014年ブラジルW杯(ベスト8)、2018年ロシアW杯(3位)に出場。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。