日本代表のボランチは2枚か3枚か。どんな組み合わせが理想か。福西崇史が導き出した最適解は?
カタールW杯が11月20日(日本時間11月21日)に開幕する。日本の初戦は11月23日。強豪ドイツと対戦する。その後、グループステージではコスタリカ、スペインと戦って、決勝トーナメント進出を目指す。
その間、日本はどんなメンバーで挑むのか注目されるが、なかでも気になるのはボランチの構成。最終予選で際立っていた3ボランチでいくのか。あるいは、2ボランチにするのか。また、選手の組み合わせはどうなるのか、である。
そこで今回、元日本代表ボランチの福西崇史氏を直撃。日本代表がW杯で結果を残すためには、チームの"核"とも言えるボランチの人選、構成はどうするのがいいのか、話を聞いた――。
日本代表のボランチの軸となる遠藤航
ワールドカップアジア最終予選では序盤の3試合で2敗を喫し、苦しい状況に陥った日本代表でしたが、4試合目(ホームのオーストラリア戦)以降、システムを4−2−3−1から4−3−3に変更。遠藤航、守田英正、田中碧の3ボランチがうまくハマりました。
あれは、最終手段だったとは思いますが、もし序盤で2敗していなければ、3ボランチについてここで論じることもなかったはず。オプションが増えたという意味では、結果的によかったと思います。
ただ、最終予選後の流れを見ていると、ベースとなるシステムは再び4−2−3−1になりそうです。なかでも2ボランチは、遠藤と守田のコンビが軸になるのではないでしょうか。
僕も、遠藤と守田の2ボランチ、プラス鎌田大地のトップ下という中盤の三角形が、チーム全体のバランスで言えば一番いいと思っています。
なぜかというと、横に揺さぶられた時、3ボランチだと中盤の3人が横並びになってしまい、攻撃ができなくなる恐れがあるからです。アジア最終予選ならともかく、さすがにドイツやスペインが相手になると、揺さぶられることがあるだろうし、3人が下がってしまうことで(その前方に)生まれるスペースをうまく使われてしまう。「相手のアンカーを誰が見るの?」という状態になった時、(仕掛けていくのは)難しくなると思います。
ボランチだけのバランスで言えば、遠藤、守田、田中の3ボランチもいいのですが、チーム全体のバランスを考えると、2ボランチのほうがいいのではないかと思っています。
遠藤と守田の特徴は、まずは守備。間合いのとり方や、追い込み方が非常にうまい。このふたりであれば、次の状況をある程度想定しながら、どこに問題があるかに気づき、そこをうまく抑えられるでしょう。
もし、今の日本代表にこれといったトップ下の選手がいないのであれば、3ボランチのほうがいいのかもしれませんが、鎌田というヨーロッパでもこれだけやれる選手が出てきたわけだし、その強みを生かさない手はありません。あるいは、南野拓実をトップ下で使ってもいいですし。
どこに起点を作りたいのかによって選手起用は変わってくるでしょうが、久保建英はトップ下でも、左サイドでも使えるし、三笘薫を左サイドで使うのであれば、トップ下にパスを出せる選手が必要だし......といった具合に、考え方によって前線の選手起用を変えられる選択肢も増えてきました。
そうしたチーム事情もあって、2ボランチ+1トップ下の三角形。そのほうが強豪チーム相手に戦うには、チーム全体のバランスがよくなるのではないかなと感じています。
と同時に、ただ守りきるためなら、遠藤をアンカーに置き、守田、田中を加えた3ボランチもいいだろうとは思いますが、相手が強豪と言えども攻めなきゃいけない。そう考えた時、攻撃の手立てのひとつとしてトップ下という駒を持っておきたい。
というより、そのほうが結果として、前線の選手の守備の苦労も減るのではないかなと思います。
たとえば、9月のアメリカ戦でもそうでしたが、(1トップとトップ下のふたりが)2トップの形で前から(相手の攻撃を)制限していくやり方をするのであれば、(4−3−3より4−2−3−1で)トップ下がいたほうが守りやすい。
3ボランチだと、前からの制限が比較的やりにくくなってしまうので、そうなると、中盤がズルズルと下がってしまう可能性が高くなり、相手のアンカーのところを自由に使われてしまう。だからといって、FWの選手が下がらざるを得なくなると、その分、余計に攻撃ができなくなってしまいます。
だとすれば、こうした縦ズレがあまり起きないようなやり方、すなわち、2ボランチ+トップ下の三角形を中盤で形成するほうがいい。横方向にスライドする横ズレは比較的対応しやすいのでいいですが、縦ズレは攻守両面で混乱をきたすので、できるだけ起きないようにしたほうがいいと思います。
W杯メンバーに選ばれたボランチを本職とする選手は、遠藤、守田、田中、柴崎岳の4人。それぞれの特徴とチーム全体のバランスを考えて、2ボランチの組み合わせを考えていくことになると思います。
遠藤は、とにかくボールがとれる選手。なので、2ボランチの組み合わせを考える時には軸になると思いますが、もし遠藤が使えない(使わない)時には、川崎フロンターレで一緒にやってきた守田と田中の組み合わせがいいでしょう。
あるいは試合終盤、攻撃的にいかなければならないというのであれば、遠藤ひとりをアンカーに置き、鎌田をボランチ気味に下げて、プラス久保を投入するなど、攻撃に比重を置ける選手を使うのもアリでしょう。
攻撃に比重を置くのか、守備に比重を置くのか。もしくは、ふたりで役割分担をするのか、しないのか。そうした違いで組み合わせは変わることになりますが、大まかにタイプ分けをすれば、遠藤と守田は守備的で、田中と柴崎は攻撃的。田中と柴崎を組ませると互いのよさを消してしまうので、僕はこのコンビは合わないというか、実際、9月のエクアドル戦を見ても合わなかったと感じています。
ただその一方で、ボランチの組み合わせを"柴崎ありき"で考えるのはアリだとも思っています。
なぜなら、中盤で攻撃を組み立てられ、最終的にいいパスを出せるのが誰かと考えた時、組み立ての部分では守田もかなり成長してはいますが、今のところ柴崎かな、と思うからです。アジア最終予選の序盤で森保一監督が柴崎を使い続けたのも、そのあたりに狙いがあったからでしょうし、僕が監督でもそうするかもしれません。
いずれにしろ、今の日本代表は誰が試合に出ても、それなりにできる力がある。ベスト8以上を目指すなら、遠藤と守田のコンビがずっと出続けるということはないでしょう。
というより、遠藤が軸になるとしても、ずっと使い続けるのが無理だということは、すでに経験済み。それでは勝ち上がれないことは、結局4位に終わった東京五輪で見えましたし、(4試合消化した)今年6月の親善試合でも見えたことです。
遠藤にしても、センターバックの吉田麻也にしても、パラグアイ戦、ブラジル戦、ガーナ戦とこなしてきて、4試合目のチュニジア戦は明らかにヘロヘロになっていましたから。
初戦で遠藤と守田を使ったとしたら、2戦目でどちらかは代えてもいいし、2戦目までの星勘定がよければ、3戦目にふたりとも休ませてもいい。
とにかく、これまでの日本代表はグループリーグを突破するためにどうするか、を考えてやってきたなかで、4戦目の決勝トーナメント1回戦はすでに消耗しきってしまい、負けてきたという歴史がある。前回のロシア大会では最後にベルギーとあれだけの試合ができたのは、初戦で勝ったことが大きく、3戦目に主力選手を休ませることができたからです。
もちろん、ドイツ、スペインと同組になった今回は、4年前のような星勘定はできないかもしれません。ですが、それでもベスト8へ行こうというなら、同じ選手をフルに使い続けることは絶対に無理。各選手をうまく休ませながら、上を目指してほしいと思います。