ハリルホジッチが日本代表へドイツ戦のアドバイス。カタールW杯での優勝候補や注目選手も語った
元日本代表監督が語るカタールW杯(3)〜ヴァヒド・ハリルホジッチ
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2015年から2018年にかけて日本代表監督を務めたヴァヒド・ハリルホジッチは、ご存じのようにロシアW杯を前に解任されており、今も日本について複雑な感情があることを隠さない。カタールW杯でも、モロッコ代表を率いてW杯出場権を獲得しながら、やはり解任の憂き目にあった。そんなハリルからは、日本代表への貴重な助言もあった。
――今も日本のサッカーは見ていますか?
「それほど詳しく追ってはいない。私にとって日本のページはすでに閉じられたものだ。私は日本で大きな仕事をしたと思う。日本を高みに導いた。それなのにあのような形で追いやられたのは、いまだに信じられないことだ。私の誇りはひどく傷つけられた。私が解任されたのはピッチでの結果のせいではない。
選手とのコミュニケーションの問題があり、選手たちの信頼を失ったと言われた。しかしともに戦い、ロシアW杯への切符を手に入れたというのに、そんなことがあろうか。私は自問自答した。なぜ突然こんなことになったのか。もしコミュニケーション不足なら、なぜ田嶋幸三サッカー協会会長をはじめ、役員の誰かが事前にそれを私に言わなかったのか。それがスジというものだろう。
2015年から2018年にかけて日本代表監督を務めたヴァヒド・ハリルホジッチphoto by Fujita Masato
こうした状況を考え、分析し、私はある答えに至った。もう何度も言っていることだが、ここでももう一度繰り返しておこう。私の解任はスポンサーとの利害関係によるものだ。ある企業は、日本サッカー協会の大スポンサーでもあると同時に、選手個人のスポンサーもしていた。このスポンサーが満足する行動をとらなかったから、私はベンチを追われたのだ。そう思えばすべて納得がいく。協会がどのくらいスポンサーを大事にしていたのかについては、こんなエピソードがある。代表監督の契約をサッカー協会と結ぶために日本に行った時、『一番大事な存在だから』と、私はその企業に、わざわざ就任の挨拶に連れていかれたのだ」
――チームはあなたが率いていた頃とかなり変わっていますか?
「変わっていないほうがおかしい。私が日本代表を率いていたのは2015年からだ。私はハードに仕事をし、問題なくロシアW杯予選を勝ち抜いた。私は多くのクラブ、多くの代表を率いた経験があるが、日本ほど満足のいく仕事ができたところはない。
最初は簡単ではなかった、まず私は日本の生活に慣れる必要があったし、選手たちも私のスタイルを知る必要があった。まだ最終予選の初めの頃、埼玉スタジアムでUAEに1−2で敗れた時の私を見る彼らの目、不満に満ちた目は今でも忘れられない。私だってもちろん不満だった。しかしその後は無敗でW杯出場権を得た」
――その後は?
「私の解任後は技術委員長をしていた西野朗氏が代表を引き継ぐことになった。彼はいつも私のそばにいて、私の練習方法や、その他のやり方をつぶさに見てきた人だ。彼は私の仕事を気に入ってくれ、一度として『コミュニケーションに問題がある』などと言ってきたりはしなかった。だからといって、彼が本当のところどう思っていたかまではわからないが。
モロッコでも、W杯の切符を手に入れながら、私は一番の右腕に背を向けられた。でも西野氏は私によくついてきてくれ、どんな小さなアドバイスにも耳を傾け、受け入れてくれた。私たちはとてもいいコンビだったと思う。だからこそこんな形で袂を分かつことになってしまったのは残念だ。一緒だったら、ロシアで最高の成績を出すことができだろう。
ところで今、カタールでプレーする日本代表のメンバーを見たのだが、私の時代の選手がまだいるんだね。川島永嗣、長友佑都、吉田麻也......」
――日本はスペインとドイツというふたつの強豪と同グループになってしまいました。日本がグループリーグを突破するにはどんな戦い方をしたらよいでしょう?
「私は日本のクラブチームのプレースタイルが好きだった。アグレッシブで、ハードで、決してあきらめない。一方、イニシアチブをとろうという積極性の欠如と、中盤に創造性がないのが気になった。まずはそこの点をよく考えるべきだ。それでも日本が決勝トーナメントに行くにはかなり難しいとは思うが......」
サプライズがいっぱいのW杯になる――日本に何かアドバイスをするとしたら?
「こういう大会はいつでも初戦が肝心だ。今回の日本の場合はドイツ戦がそれだ。私は2014年のブラジルW杯で、アルジェリアを率いてラウンド16でドイツと戦ったが、ドイツにはひとつのクセがある。エンジンがかかるのが遅い。時間がたつごとにパフォーマンスがよくなってくるから、彼らの調子が上がる前にガツンとやるのだ。ブラジルでも我々は90分までは互角だったが、延長に入ってから敗れたのだ」
――今回のカタール大会は初の冬開催、初の中東でのW杯です。どんな大会になると思いますか?
「たぶんサプライズがいっぱいのW杯になると思う。本番までのアプローチ方法が今までの大会とはまるで違う。準備期間は非常に短くなるから、各国の監督たちは、フィジカルの疲れを取り、精神的に集中させるだけで手いっぱいだと思う。しかし同時に、ヨーロッパの強豪クラブでプレーしている選手たちは、長いシーズン終了後にある夏の大会よりは疲れていないはずだ。それがどんな影響を及ぼすか、それを理解することがとても大事だと思う。私はモロッコがクロアチア、ベルギー、カナダと同グループと知って、まずその点に焦点を向けた練習を始めていた。初出場のモロッコが優勝候補の一角クロアチアを驚かすことも可能だと信じていたよ」
――いわゆる強豪国はどんな戦いをすると思いますか?
「W杯の優勝候補は常にこれまで勝利してきたチームのどれかだ。数カ月前だったら、私は自信をもってフランスだと答えていただろう。1958年と1962年にブラジルが2連覇した以外に、連続優勝したチームはないが、フランスが連覇する確信していた。
しかし、ディエディエ・デシャン監督はここにきて3人の主力を欠くことになった。GKマイク・メニャン、そしてキープレーヤーのポール・ポグバとエンゴロ・カンテ。これはフランスにとっては大きな痛手だ。ただ、それでもフランスは世界王者の称号を守る可能性はあるのではないかとは思っている。『優勝に一番近いのは?』と聞かれたら、私はフランスと答える。カリム・ベンゼマとキリアン・エムバペからなる攻撃陣はそれだけの力を持っているだろう。
その他に優勝する可能性があるとしたら、ブラジルもしくはベルギーだろうか。ベルギーは(代表メンバー入りはしたが)ロメル・ルカクを失っていても強い。またアルゼンチン、若きスペイン、オランダも無視できない。それに比べてドイツは今、難しい時期にあるようだ。とにかくフランスが弱体化した今は、大混戦の予感がする。
私が予想する優勝候補を順にあげるとフランス、ブラジル、スペインだ」
――誰がこの大会のスターになると思いますか?
「ベンゼマかエムバペではないだろうか。それからスペインのペドリやガビのような若手がブレイクする可能性もあるだろう。新しいスターが出てくるのはいつのW杯でも楽しみだ」