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「表現」に関わる分野における性被害やハラスメントの告発が相次いでいる。

中でも、写真の分野は、写真家やフォトグラファーの男性から、被写体の女性に対する被害が少なくない。その背景として、長時間にわたり、一対一で密室で撮影され、逃げる方法がないことが指摘されている(「表現の現場ハラスメント白書 2021」より)。

モデルだった女性が、写真家の男性を訴えている裁判でも、そうした状況で少なくとも3回にわたって性被害に遭ったと主張している。写真家の男性は女性の訴えを否定し、一切の不法行為はなかったとして、激しく対立している。

その裁判の口頭弁論が10月21日、東京地裁で開かれて、原告と被告それぞれに尋問がおこなわれた。法廷を傍聴したメモから浮かび上がったことは--。

●スタッフがいない密室の撮影現場で

写真モデルをつとめていた原告女性が、複数回の撮影で、写真家の男性から胸を触られたり、ベッドでキスを迫られるなどの被害を受けて、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したなどと訴えている。

訴訟記録が閲覧制限されているため、詳細は明らかではないが、尋問では、一対一の密室でおこなわれた撮影中に何があったかということが激しく争われていた。

男性から声をかける形で、2015年4月に女性は初めて撮影された。このときは他にスタッフもいて、男性から身体を触られるなどはなかった。しかし、2015年9月にまた撮影した際には、2人きりになったという。

原告代理人:なぜスタッフがいなかった?

原告女性:被告から「スタッフはいなくていいよね?」と言われました。このときは撮影時間が短時間の予定だったこともあり、あまり心配せずに了承しました。

女性は、この撮影時に身体を触られたと主張し、どういう状態だったのかを説明した。

原告女性:胸を触られたりしました。突然のことで体が硬直しました。下半身に手が伸びてきたので、その手を振り払って撮影をやめました。

なお、女性はこのとき、身体を触るのをやめてほしいと言ったという。

●「触らないと被告が了承したので大丈夫だと思った」

さらに原告側は、2018年9月にも撮影の際に不法行為があったと訴えた。原告代理人からは、以前の撮影で身体を触られたのに、なぜまた撮影しようと思ったのかなどが女性に問われた。

原告女性:このときは、以前に触られたことから臆病になっていたが、過去に撮影した写真を使ってカレンダーをつくる話になり、やりとりするようになりました。被告の写真展にも行って、それがとてもよかったので、また撮ってもらいたいという気持ちになりました。

このときも撮影スタッフはいなかった。女性によると、男性から2人で撮影したほうが雰囲気がいいからという提案があったからだという。またあらかじめ男性に対して、身体を触らないようあらためて申し入れ、男性も了承していたため、大丈夫だと思ったという。

しかし、この撮影でも、女性は男性に胸を触られたと主張している。

●「とにかく明るい安村」の真似をしていた?

女性は2019年6月にも、温泉旅館での撮影中、被害があったとしている。

これまでの撮影で触られていたにもかかわらず、男性に撮影されたのは、ファンから好評だったことが大きかったようだ。しかし、女性は悩み、撮影にのぞむにあたって、男性に触らないでほしいとLINEで依頼している。

撮影では、女性が入浴する場面もあった。男性は撮影を終えると、「僕も入っちゃお」と言いながら、全裸になって湯船に入ってきたと女性は訴えた。そのときの気持ちを、女性は「『何をしてるんだろう』と不快な気持ちになりました」と語った。

その後、ベッドで休んでいる女性を撮影していた男性は、女性に覆いかぶさって、キスを迫ったが、女性は抵抗したという。男性が撮影を再開した際、タオル1枚の姿だったといい、女性はその姿を撮影した。

原告女性:ベッドにカメラが置いてあって、被告も裸の写真を撮られたら嫌だろうと思い、被告を撮影しました。何度言ってもわからない被告に対して、悔しい気持ちがあった。

原告代理人:それがこのタオルで下半身が隠された写真でしょうか。被告は、お笑い芸人の「とにかく明るい安村」(編集部注:パンツ一枚の姿での芸で知られる)の真似をしていたと主張していますが?

原告女性:ないです。

女性は、男性から「何度も触られたこと」に対して、どう思ったかを法廷で吐露した。

原告女性:どうしてこうなるんだろう。何か私が悪いことをしたのだろうか。どうしてわかってもらえないのだろうと、自分を責める気持ちが強くなりました。自分に価値が感じられない気持ちになりました。

●「SNSでばら撒かれるのではないかと思って、謝りました」

次に、男性が尋問された。男性は女性をモデルに撮影する際の手法を被告代理人から聞かれ、こう答えた。

被告男性:私の作品づくりにおいて、女性と距離感を詰めることが1番の特徴です。

被告代理人:原告の写真を撮影したときのことは覚えている?

被告男性:はい。撮影時のことは鮮明に覚えてませんが、作品をみて思い返すことはあります。楽しく撮影させていただいたという気持ちです。

しかし、男性は女性に対して、特別な感情はなかったとした。女性の身体に触ったこともないと女性の訴えを否定した。

一方で、男性は撮影後にLINEで女性に謝罪している。その理由を被告代理人に問われて、こう説明した。

被告男性:すごく傷つけてしまったと感じて、謝った。不法行為があってのことではありません。SNSでばら撒かれるのではないかと思って、防ぐために謝りました。

また、男性は、撮影中に服を脱ぐことがあったと語った。

被告男性:ファインダーをのぞいていると、汗をかくので、女性の了解を得て、上半身脱がせてもらうことは何回もあった。全部脱いだことはないです。

●「明るい安村は、場を和ませようとしてやった」

一方、原告代理人は男性の撮影手法について詳しく質問していった。

原告代理人:原告は被告が裸でお風呂に入ってきたと主張しているが、記憶にないか?

原告代理人:原告が撮影した写真では、あなたはタオル一枚になっていて、「明るい安村」のネタをしていたと主張されていますが、なぜ?

被告男性:時々、おちゃらけることがある。明確に覚えていないが、場をなごませるためにやったのだと思う。

●「アイコンタクトで承諾を得ることもある」

男性に対して、被告代理人から確認の質問があったあと、男性の撮影スタイルについて、裁判官からも質問があった。

被告代理人:撮影時にモデルから許可をとっているという話だが、はっきり言葉でもらう?

被告男性:言葉でもらうときもあれば、実際に距離を詰めていい雰囲気のときは、少し簡素化した阿吽の呼吸で承諾を取ることがある。

裁判官:相手の承諾を取る際に、阿吽の呼吸といいますが、どうやってわかるのですか?

被告男性:当事者間じゃないとわかりづらいが、頷くとか、アイコンタクトで返すとか、言葉でなく承諾を得ることはある。

この日は最後まで双方の主張は平行線をたどった。裁判官から和解も勧められたが、原告側が「被告が事実を認めない限りは和解に応じない」という姿勢のため、12月23日に判決が言い渡されることになった。