今年の3歳世代は「強い」と言われる。

 事実、現在の日本競馬シーンにおけるトップクラスが集ったGI天皇賞・秋を、3歳馬のイクイノックスが勝利。同じく3歳馬のダノンベルーガが少差の3着に入った。これに、日本ダービーでこれら2頭を退けたドウデュースが加わるのだから、少なくとも中距離路線では「強い」3歳馬がそろっている。

 また、この秋のGIシリーズの開幕戦となったGIスプリンターズSでは、3歳馬のウインマーベルがクビ差の2着に入線。短距離路線においても、3歳世代が存在感を示した。

 では、マイル路線はどうか。

 これが、今年のGIマイルCS(11月20日/阪神・芝1600m)を読み解く重要なポイントのひとつだ。

 そして今回、その注目の3歳世代のなかで代表格と見られているのが、セリフォス(牡3歳)とダノンスコーピオン(牡3歳)の2頭である。

 セリフォスは、成長過程にある3歳馬にとって「圧倒的に不利」と言われる舞台、GI安田記念(6月5日/東京・芝1600m)で歴戦の古馬相手に4着と奮闘。休み明けの前走、マイルCSの前哨戦に位置づけられるGII富士S(10月22日/東京・芝1600m)では、豪快な差しきり勝ちを収めた。

 片やダノンスコーピオンは、今年のGINHKマイルC(5月8日/東京・芝1600m)の覇者。セリフォスと同じく休み明けだった前走の富士Sでは、僅差の3着と好走している。


前哨戦の富士Sを快勝したセリフォス(黄帽)。ダノンスコーピオンも3着と奮闘(最内のオレンジ帽)

 まずは、両馬がともに好走した富士Sをどう評価するか。関西の競馬専門紙記者はこう語る。

「富士Sは古馬もそれなりにメンバーがそろっていたし、トライアルとしてはハイレベルの一戦だったと思います。そのレースで、セリフォスは1着、ダノンスコーピオンは3着と結果を出した。どちらのパフォーマンスも高く評価できるし、これで『本番も楽しみになった』と言えるのではないでしょうか」

 次に、2頭の力量比較はどうか。セリフォスとダノンスコーピオンは、この富士Sを含めて、これまでに3度の対戦がある。結果は、セリフォスの2勝1敗。だが、その1敗は「3歳マイル王決定戦」のNHKマイルCだった。

 加えて前走の富士Sにしても、セリフォスの斤量が54kgだったのに対して、GI馬であるダノンスコーピオンは2kg重い56kgを背負っていた。しかも、セリフォスにやや展開が向いていた。

 そうしたことを踏まえると、両者の力量はほぼ互角と言える。その点について、先の専門紙記者も同意し、2頭についてこんな見解を示す。

「セリフォスは、どんなレースでも安定して自分の力を発揮できるタイプ。一方、ダノンスコーピオンは時々体調を崩したり、まだうまく力を出せない時がある。ただその分、成長力という点ではセリフォスを上回るものがある。

 両馬の力量は互角でも、個性という点では"安定"のセリフォス、"成長力"のダノンスコーピオンという違いがあるように思います」

 専門紙記者は続けて、前走の富士Sをトライアルとして見た場合、評価できるのは「勝ったセリフォスよりも、むしろ敗れたダノンスコーピオンのほう」だと言う。

「ダノンスコーピオンはセリフォスよりも2kg重い斤量を背負いながら、馬群を早めに抜け出して、それでどれだけ我慢できるかというレースをしました。結果、差されましたが、トライアルで大事なのは勝ち負けよりも、いかに本番につながるレースができるか。その意味で、ダノンスコーピオンはまさにトライアルらしい、いいレースをしたと思います」

 ともあれ、2頭とも富士Sのあとも順調で、休み明けを一度叩いたことで、もう一段階上の良化を見せているという。

 となると、残る問題はあとひとつ。古馬相手に勝てるかどうか。

 先の専門紙記者はこう分析する。

「古馬の有力どころを挙げれば、ソダシ(牝4歳)、シュネルマイスター(牡4歳)、サリオス(牡5歳)といったところでしょうか。いずれも強い馬だとは思いますが、それぞれ弱点や不安材料を抱えています。ということは、グランアレグリアのように"どうやっても勝てない"というほどの相手ではありません。セリフォス、ダノンスコーピオンにもチャンスは十分にあると思います」

 3歳馬がマイルCSを制したことは、過去10年で2回ある。2017年のペルシアンナイトと、2018年のステルヴィオ。2頭とも強い馬ではあるが、その時代の競馬シーンを代表する最強クラスの馬、というわけではない。

 それはつまり、マイルCSは一定の能力を持つ3歳馬であれば、決して高い壁ではない、ということだ。まして、断然の「マイル王」が不在となれば、なおさらである。

 セリフォスとダノンスコーピオンが、マイル路線においても3歳世代が「強い」ということを証明する可能性は大いにある。そして、頂点に立ったほうが新たな「マイル王」に君臨することになるだろう。