日本電気(NEC)が1985年に発売した「文豪mini5」シリーズはCP/M搭載のラップトップ型ワードプロセッサ(ワープロ)シリーズです。この文豪mini5では、一部モデル向けに人気パズルゲームの「テトリス」が移植されていおり、海外の古いPCやゲーム機のコレクターであるleaded solder氏が自身のブログでこの「テトリス」を手に入れてアーカイブ化したと報告しています。

NEC’s Tetris Processor | Leaded Solder

https://www.leadedsolder.com/2022/10/20/mini5-tetris-dump.html

leaded solder氏は文豪mini5向けテトリスを手に入れるため、中古ゲームを取り扱う駿河屋の在庫をずっとチェックしていたそうですが、見つからなかったこと。しかし、ある時メルカリで文豪mini5 SX本体とセットで売られているのをようやく発見し、即購入したそうです。この「テトリス」が遊べるのは文豪mini5 R、文豪mini5 RD、文豪mini5 RG、文豪mini5 RX、文豪mini5 RS/RC、文豪mini5 SXのみだったことから、leaded solder氏はテトリスと共に届いた文豪mini5 SXをあらかじめ使用可能な状態にまで修理しています。

The Case of the Dead Mini5SX | Leaded Solder

https://www.leadedsolder.com/2022/10/15/pwp50sx-nec-mini5-psu-repair-pickup.html



文豪mini5 SXと共に届いたテトリスのフロッピーディスク(FD)が以下。ラベルには「非売品」とあり、さらに「© 1987 ELORG MOSCOW, USSR」というライセンス表記があります。leaded solder氏によれば、コードからはソビエト連邦の正式な解体が決まる直前の1991年8月に開発されたことがうかがえるそうで、ELORGが「ソ連の企業」としてライセンスを認可した最後のテトリスがこの文豪mini5版テトリスである可能性が示唆されています。また、ライセンスを得て文豪mini5向けにテトリスを移植したのは東京システムハウスであることがわかります。



そしてマニュアルはこんな感じ。「ご購入記念品」ということで、どうやら文豪mini5シリーズ本体を購入した時に付属した模様。



マニュアルにはかつての所有者によるメモ書きもありました。



leaded solder氏がNECのFDドライブ「FD1231H」とGreaseweazle V4を使って、テトリスのFDをイメージ化したところ、SuperCard Pro(SCP)形式で約40MBのイメージが作成されました。

leaded solder氏によると、最大容量1MBを超えない3.5インチFD(2DD)のイメージファイルが40MBという比較的大きなサイズになったのは、SCP形式がFD上の磁気データの遷移をそのままイメージ化するファイルフォーマットだからだとのこと。コンピューターが読めるブロックイメージに解釈するのではなく、磁気データの遷移をまるごとイメージ化することで、元のディスクの作者がセクタの位相をずらしたり、ビットを弱く書き込んだりといったことをしていても安定したバックアップが可能になるそうです。この文豪mini5版テトリスのFDにはコピー防止機能があるとのことで、特にSCP形式でのイメージ化が求められるとleaded solder氏は述べています。



実際に文豪mini5版テトリスのイメージをHxC Floppy Emulator Softwareの「Visual Floppy Disk」でチェックしたところが以下。右の円に入っている緑色の同心円のせいで、通常のディスクコピーユーティリティを使ってコピーすると、内部のデータが壊れてしまう可能性があるとのこと。leaded solder氏は「この部分が実際にコピー防止機能なのかどうかはわかりませんが、その兆候であるといえます」とコメントしています。



FDの磁気イメージができたので、これをFAT12形式でフォーマットしたFDに書き込み、文豪mini5 SXに挿入。これでプレイできるかと思いきや、「補助フロッピーを入れてください」という画面が出てしまったとのこと。言われたとおりに補助フロッピーを入れて要求されたキーを押し、文豪mini5 SXをウォームブートしてメインメニューを立ち上げ、再度ディスクを挿入したところ、起動時にディスクの読込み自体はするものの、データの読み出しには至らなかったそうです。



そこでマニュアルを見た結果、「機能1」「機能2」を押したまま起動するように書かれていたそうです。その通りに操作すると、無事にテトリスが起動したとのこと。



ライセンス表示



タイトル画面



プレイ画面。ブロックやスコア表示だけではなく、細かいドットでソ連の農地を思わせる背景がしっかりと表示されています。「ワープロでテトリスなんて、頭がおかしくなります」とleaded solder氏。

leaded solder氏によるとこの文豪mini5版テトリスのファイル構造は特殊で、まだわからない部分がいくつか存在するとのこと。特に内部にあるTETORIS.COMというプログラムがCP/M実行可能ファイルなのかMS-DOS実行可能ファイルなのかがわかっておらず、将来的にもっと掘り下げて調べたいとleaded solder氏は述べています。

leaded solder氏はダンプしたイメージファイルやマニュアルのスキャン画像を、Internet Archiveにアーカイブ済み。ただし、実際にプレイするためにはイメージファイルをFDに書き込んだ上で、対応する文豪mini5シリーズの可動実機を用意する必要があります。

NEC 文豪mini5 (Bungo mini5) Tetris by Tokyo System House : Tokyo System House : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive

https://archive.org/details/mini5-tetris