●Intel GPUは競合GPUに負けない大型新人だった

2022年10月12日に発売を控えるIntelのがディスクリートGPU「Arc Aシリーズ」の上位モデル「Arc A770」、「Arc A750」の性能評価を行う機会に恵まれたので、さっそく紹介していこう。289ドルからという価格で、NVIDIAのミドルレンジGPU「GeForce RTX 3060」を超える性能を持っているというのが最大のウリ。RTX 3060発表時の価格は329ドル。これが本当なら、GPU市場に新たな良コストパフォーマンスモデルが登場することになるが実際はどうだろうか。

インテルの新GPU「Arc A770」と「Arc A750」をテストする

インテルはNVIDIAとAMDの牙城を崩せるか

Intel Arc Aシリーズは、エントリークラスのIntel Arc A380を搭載するカードが2022年9月に発売が開始されているが、「Arc A770」と「Arc A750」その上位モデルだ。ゲームにおけるGPU市場はNVIDIAとAMDでほぼシェアを占めているだけに、Intelという巨大メーカーが本格参戦することに、競争の活性化を期待している人も多いだろう。なんせ、IntelがディスクリートGPUを搭載したカードを投入するのは1998年4月発売のi740以来、実に24年ぶりなのだ。

デスクトップ向けGPUのIntel Aシリーズ。エントリークラスのA380に続き、A770/750が2022年10月12日に発売される。A580は登場していない

IntelではArc A770/750がGeForce RTX 3060に対してコストパフォーマンスが優れていると強調

Arc A770は329ドルから、Limited Editionは349ドルから

Arc A750は289ドルから

「Arc A770」と「Arc A750」のスペックを下の表にまとめた。参考までに発売済みのArc A380も加えている。あらゆるスペックがA380を大きく上回っているのが分かる。その一方でカードの消費電力は225W。ライバルに設定されているGeForce RTX 3060のカード電力は170Wなので、このあたりの差は気になるところ。ベンチマークと合わせてテストする。

今回テストするカードを紹介しておこう。今回テストするのは「Arc A770 Limited Edition」と「Arc A750 Limited Edition」だ。デザインに関しては9月30日公開の別記事「「Intel Arc A770 / A750」開封の儀! 工具セットと派手な電飾がついてきた」で確認していただきたい。Limited Editionとは、NVIDIAのFounders Editionと同じような位置付け。Intel純正カードという理解でよいだろう。Arc 770はビデオメモリが8GBと16GBの2モデルを用意しているが、Limited Editionは16GBだ。デザインは、どちらも同じだが、Arc A770 Limited Editionは天面のロゴとファンの周囲が光るという違いがある。

Arc A770 Limited EditionのGPU-Zによる情報。ビデオメモリは16GBだ



Arc A770 Limited Editionは天面とファンの周囲が光る

Arc A750 Limited EditionのGPU-Zによる情報。ビデオメモリは8GBだ

Arc Aシリーズは、DirectX 12 UltimateをフルサポートするGPUだ。そのためレイトレーシング(DXR)やVRSといった描画機能に関しては、NVIDIAのGeForceやAMDのRadeonの最新世代と並んでいる。また、NVIDIAの描画負荷を軽減するアップスケーラー技術「DLSS」と同様に、GPUに備わっているXMXユニットと機械学習を活用したアップスケーラーの「XeSS」に対応しているのも大きな特徴だ。最近のゲームは、レイトレーシングへの対応など描画負荷が非常に大きくなっており、それを軽減させるアップスケーラー技術は存在感を増している。XeSSを利用するにはゲーム側の対応も必要になるが、Shadow of the Tomb RaiderやDEATH STRANDING DIRECTOR'S CUTなど対応タイトルがすでに登場。20以上のタイトルが対応予定。注目のビッグタイトル「Call of Duty: Modern Warfare II」もXeSSに対応するとしている。XeSSの効果や画質についてもテストしていく。

レイトレーシング性能に関してもArc A770(16GB版)はRTX 3060を上回るとしている

XeSSはXMXと機械学習を組み合わせたアップスケーラーだ。パフォーマンス、バランス、クオリティ、ウルトラクオリティのプリセットを用意する

20タイトル以上がXeSSに対応する予定

性能はいかほど? 対GeForce RTXでベンチマークテスト

さて、気になる性能チェックに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。Resizable BARは有効にした状態でテストしている。比較対象としてGeForce RTX 3060を用意、3DMarkのみGeForce RTX 3070、GeForce RTX 3060 Tiも加えている。CPUのパワーリミットは無制限に設定。ドライバは、Arc A770/A750はテスト用に配布された「バージョン101.3435」を使用、GeForceは「Game Ready 517.48」を使用している。

まずは、3D性能を測定する定番ベンチマークの「3DMark」から見ていこう。

3DMark

3DMarkの結果を見ると、Arc A770/A750はRTX 3060超えどころか、RTX 3070級と言ってよいだろう。DirectX 11のFire strike系、DirectX 12のTime Spy系のどちらもRTX 3060のスコアを大きく上回った。レイトレーシング性能を測るPort RoyalでもArc A770/750が勝利しており、人気ミドルレンジGPUと十分戦えるポテンシャルを持っているのが分かる。

では、実際のゲームではどうだろうか。まずは、軽めのFPSとして「レインボーシックス シージ」を試して見よう。APIは「Vulkan」と「DirectX 11」の両方でテストした。ゲーム内のベンチマーク機能を利用している。

レインボーシックス シージ Vulkan

レインボーシックス シージ DirectX 11

Vulkanに関しては、RTX 3060のフレームレートに対してArc A770がちょっと上回り、Arc A750がわずかに下回った。とは言え、Arc A750のWQHD解像度でも平均187fpsが出ており、高リフレッシュレートの影響と組み合わせて快適にプレイできるだけの実力がある。しかし、DirectX 11ではArc A770/A750のフレームレートは一気に下がってしまう。Arc A770/A750は、Vulkan、DirectX 12対応ゲームに強いGPUであり、DirectX 11対応タイトルには若干弱い傾向にある。これはIntelも認めるところだ。新しいAPIのVulkan、DirectX 12への最適化を優先するのは自然と言えるが、ドライバの熟成で改善される可能性もある。DirectX 11だと、どのゲームもフレームレートが出ないワケではないからだ。

その典型と言えるのが、次に紹介する人気FPSの「Apex Legends」だ。これはAPIにDirectX 11を採用している。トレーニングモードの一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで計測した。

Apex Legends

DirectX 11のタイトルだが、Arc A770/A750のどちらもRTX 3060のフレームレートを大きく上回った。フルHDなら40fps以上も差を付けており、圧勝と言ってよいだろう。では、ほかの人気ゲームならどうか。

次は「モンスターハンターライズ」で比較してみよう。集会所の一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定している。

モンスターハンターライズ

これはDirectX 12のタイトルだが、Arc A770とRTX 3060がほぼ同等。Arc A750がちょっとフレームレートが下回るという結果だ。ゲームによって相性あると言ってよいだろう。実際ゲームではGeForce系に強い、Radeon系に強いと言った差は存在する。ドライバなどの最適化で、このゲームごとによる差をなくしていくことを期待したいところだ。

次は重量級ゲームの「サイバーパンク2077」を試して見よう。レイトレーシングを無効、有効の両方でテストを行う。ゲーム内のベンチマーク機能を利用した。

サイバーパンク2077 レイトレーシング無効

サイバーパンク2077レイトレーシング有効

レイトレーシングを使わない、画質“ウルトラ”設定ではフルHDだとRTX 3060がトップ、WQHDだと逆にArc A770/A750がRTX 3060を上回る。対決はともあれ、サイバーパンク2077のような描画負荷の高いゲームをアップスケーラーを使わずに、フルHDなら十分遊べるフレームレートを出せるのは、非常によいことだ。レイトレーシングを有効にすると一気に負荷は大きくなる。ここではArc A770がフルHD、WQHDともトップ。レイトレーシング性能でもRTX 3060と十分戦えることを示した。

●対「DLSS」での「XeSS」の効果、消費電力と動作温度

Intel「XeSS」とNVIDIA「DLSS」で、高速化と画質を比較

ここからは、アップスケーラーの「XeSS」を含めたテストを行っていく。まずは、「Shadow of the Tomb Raider」から。画質、レイトレーシングとも最高設定にし、ゲーム内のベンチマーク機能を利用してフレームレートを測定している。アップスケーラー性能の比較としてRTX 3060はDLSSを使用した場合の結果も含めた。

Shadow of the Tomb Raider

XeSSの効果は絶大だ。Arc A770のフルHDにおけるXeSS“パフォーマンス”設定ではフレームレートが約36%も向上。WQHDでは約57%もアップしている。高画質&レイトレーシングでゲームをプレイしたい場合にはかなり使える機能と言えるだろう。しかし、RTX 3060のDLSS“パフォーマンス”設定を見るとフルHDで約60%、WQHDで約81%もフレームレートが向上。DLSSがアップスケーラーとして優秀なことが、改めて証明されてしまった。

では、画質はどうだろうか。Arc A770/A750でXeSSをオフ、XeSS“バランス”、XeSS“パフォーマンス”で表示したとき、RTX 3060でDLSSをオフ、DLSS“バランス”、DLSS“パフォーマンス”で表示したとき画質を比較してみよう。





上からXeSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。画質設定はベンチマークと同様。解像度はフルHDで、分かりやすいようにゲーム画面の一部を切り出している

XeSSがオフの状態はややもやっとしているが、XeSSを使うと若干影の処理は甘くなったようにも見えるが一気にシャープな映像になる。アップスケールに合わせて映像をシャープにする処理も入っていると考えられるが、十分快適にプレイできる画質になっていると言えるだろう。





上からDLSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。条件はXeSSと同様だ

画質の傾向はDLSSでもXeSSとほぼ同様だ。というか、ほとんど見分けが付かないレベル。ほかのゲームではどうだろうか。

「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」を試す。画質は最高にし、セントラル・ノットシティの周辺を移動した際のフレームレートをCapFrameXで計測した。このゲームはDSLLにバランス設定がなかったので、パフォーマンスとクオリティ設定でテストしている。

DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT

アップスケーラーを使わないフレームレートだと、RTX 3060に対してArc A770はフルHD、WQHDとも上回り、Arc A750はWQHDだと上回った。XeSSを使用すると、順当にフレームレートは伸びるが、DLSSに及ばないというのはShadow of the Tomb Raiderと同様だ。XeSSはまだ第1世代と考えると、健闘していると言えるが。画質もチェックしてみよう。





上からXeSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。画質設定はベンチマークと同様。解像度はフルHDで、分かりやすいように柱の周囲を切り出している

XeSSオフだと柱の明るい部分がそれぞれ円形になっているのが分かるが、有効にすると全部繋がって見えてしまう。このあたりがアップスケーラーの限界を感じるところだ。Shadow of the Tomb Raiderとは異なり、XeSSを有効にすると微妙にもやっとした感じになる。





上からDLSSオフ、クオリティ、パフォーマンス設定。条件はXeSSと同様だ

なら、DLSSならどうなのかと気になるが、XeSSとほぼ同様だ。柱の円形も見えなくなってしまう。さらに別ゲームでも試そう。

次はアクションアドベンチャーの「Ghostwire: Tokyo」だ。夜の渋谷が舞台の中心ということで、レイトレーシングによる反射処理が映えるゲームだ。森手神社の周辺で移動と戦闘を行った際のフレームレートをCapFrameXで計測した。

Ghostwire: Tokyo

アップスケーラーを使わない状態だと、Arc A770がどちらの解像度でもRTX 3060をうわ待った。その一方でArc A750はやや苦戦。RTX 3060を下回った。その一方でXeSSによるフレームレートの伸びは優秀。DLSSに迫っている。機械学習がうまく進めば、DSLLと並べる可能性を感じさせた。画質はどうか。





上からXeSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。画質設定はベンチマークと同様。解像度はフルHDで、分かりやすいように電話ボックス周辺を切り出している

このゲームは元がシャープな映像だけに、XeSSはパフォーマンス設定だと全体的にもやっとした感じになる。使うならバランス設定のほうがよさそうだ。





上からDLSSオフ、バランス、パフォーマンス設定。条件はXeSSと同様だ

DLSSは有効にするとシャープになりすぎて、ザラッとした映像になっている。それほど気になるわけではないが、DLSSとXeSSで絵作りの差が見えたゲームだ。

消費電力と動作温度をテスト、最終評価は「市場価格」待ち?

次は消費電力を見てみよう。OS起動10分後をアイドル時、3DMark−Time Spy実行時の最大値を高負荷時とした。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

消費電力

高負荷時はRTX 3060に比べてArc A770で79W、Arc A750で69Wも高くなった。性能的にはよい勝負のArc A770/A750だが、消費電力ではRTX 3060に軍配が上がる。また、今回仕様した限りではアイドル時の消費電力もあまり下がらなかった。消費電力面では厳しい評価にならざるを得ない結果だ。

最後に温度とクロックの推移をチェックしよう。Ghostwire: Tokyoを10分間プレイした際の温度と動作クロックの推移を「HWiNFO Pro」で測定している。温度は「GPU SoC Temperature」、動作クロックは「GPU Clock」の値だ。

温度の推移

動作クロックの推移

Arc A750の最初の温度が高いのは、ファンの回転数がArc A770のほうが高いため。時間が経過してファンの回転数が高まると温度は逆転。5分過ぎにArc A770は76度前後、Arc A750は72度前後で安定した。冷却力に不安はまったくなく、さらにLimited Editionのファンは静音性も優秀だ。高負荷時でも筆者としては音がほとんど気にならないレベルだと感じた。

50cm離れた場所で39dBAとIntelの資料でも静音性の高さをアピールしていた

今回のテストはここまでだ。RTX 3060に対して、Arc A770はほとんどのテストでフレームレートを上回っており、Arc A750が勝てるテストも存在した。テストをした率直な感想は「思ったよりずっと戦える」ということだ。テスト用のドライバだが、ゲームが動かない、止まるといったトラブルにも遭わず(動かしたゲームの数もそれほど多くないが)、すんなりとフレームレートを測定できた。Limited Editionは見た目が非常にかっこ良く、ファンの静音性も高いとハードウェア面の完成度も高い。

ただ、RTX 3060は現在安いモデルなら4万6,000円前後で購入できる。Arc A750が289ドル。原稿執筆時点では日本でそもそも発売されるのか不明だが、1ドル145円でも4万2,000円前後とけっこう厳しいところ。円安ではなければと思うが、それは言っても仕方が無い。Arc A770 Limited Editionは349ドルなので、5万1,000円前後だ。RTX 3060のOCモデルに比べれば安いと言えるが、日本で発売されるなら、価格はどうなるか。少なくともミドルレンジGPUを購入したいと考えた場合、選択肢として含めてもよいと思えるデキになっているのは間違いない。Intelが本気でビデオカード市場で戦う準備が出来たと思っていいのではないだろうか。