敵地攻撃は彼らに聞け?青森・三沢の米空軍F-16戦闘機が担う際どい任務とは 精鋭部隊「イタチ」
青森県東部にある三沢基地に配置されているアメリカ空軍第35戦闘航空団。この部隊が運用するF-16戦闘機は、敵地の奥深くに潜り込む役割を持つとか。「ワイルドヴィーゼル」と呼称される危険なミッションの一端を見てみます。
三沢基地の米空軍F-16部隊が担う危険な任務
2022年9月11日、青森県東部にある三沢基地で3年ぶりの航空祭が開催され多くの来場者で賑わいました。三沢基地は日米共同使用の飛行場で、航空自衛隊とアメリカ空軍、同海軍の航空部隊が配置されています。
三沢基地におけるアメリカ軍側の主力部隊は空軍第35戦闘航空団に所属する第13戦闘飛行隊と第14戦闘飛行隊の2個飛行隊です。これら飛行隊は尾翼に「WW」のマーキングが入ったF-16C/D戦闘機を運用していますが、WWとは「ワイルド・ウィーズル」(野生のイタチ)の略で、精鋭部隊であることを示しています。
いったいどんな任務を帯びた飛行隊なのか、その名称の由来は第2次世界大戦まで遡ります。
三沢基地に所在するアメリカ空軍第35戦闘航空団のF-16C戦闘機。垂直尾翼に「WW」と書かれている(細谷泰正撮影)。
第2次世界大戦中、爆撃機に電子機器を搭載して敵地の近くまで飛行させ、妨害電波を発射して敵レーダーを欺瞞するミッションを通称「フェレッティング」と呼びました。これは、イタチ科の動物であるフェレットが獲物を得るために、あえて餌の巣穴に潜り込んで狩りをすることになぞらえたものです。
その後、電波を用いた信号操作により敵のレーダーやレーダー誘導ミサイルの無力化が行われるようになりましたが、こうした活動はECM(Electronic Counter Measure)、「電子戦」と総称されています。そしてECMに必要な電子情報の収集ミッションのことも、わざわざ敵地に潜り込むところから「フェレッティング」と呼ばれるようになります。
近代的な航空戦が行われたベトナム戦争では、敵戦闘機の迎撃と対空砲火に加え、レーダーと連動した地対空ミサイルが導入されたことでアメリカ軍機の脅威となりました。その対策として、アメリカ側はECMを行いながら敵レーダーサイトや地対空ミサイル陣地(SAMサイト)の捜索と攻撃を行うという任務を編み出します。アメリカ軍はこれをSEAD(Suppression of Enemy Air Defense:敵防空網制圧)任務と名付けました。
「WW」と尾翼に描くようになった由来
SEAD任務は当初、「フェレット計画」と呼ばれていましたが、電子情報を収集する活動の「フェレット」と区別するため、「ワイルド・ウィーズル」という別の名で呼ぶようになります。そして、ワイルド・ウィーズル機の主兵装としてレーダーを破壊することに特化したミサイルも開発されました。レーダー波の指向性を利用して、その発信元に向かって飛ぶミサイルです。こちらも改良を経て、現在では「HARM」(High-speed Anti-Radiation Missile)と呼ばれる対レーダーミサイルが使用されています。
SEAD任務を遂行するには、敵戦闘機による迎撃や対空砲火をかわす能力も求められます。そのため、ワイルド・ウィーズル機は飛行性能の優れた戦闘機をベースにECM能力と対レーダーミサイル運用能力を付与することで作られてきました。
ちなみに、敵が自軍に向け仕掛けてくるECMに対抗する手段はECCM(Electronic Counter-Counter Measure)と呼ばれますが、こちらが仕掛けているECMないしECCMが効いているかどうかは敵の反応を観察するしかありません。そこもワイルド・ウィーズル任務の凄いところといえるでしょう。
アメリカ西海岸ワシントン州にあるウイッドビーアイランド海軍航空基地からローテーション配備されている第209電子攻撃飛行隊のEA-18G電子戦機(細谷泰正撮影)。
アメリカ空軍が用いた歴代のワイルド・ウィーズル機は、初代のF-100F「スーパーセイバー」に始まり、二代目のF-105F/G「サンダーチーフ」、三代目のF-4G「ファントムII」と全て複座の戦闘機がベースです。なぜ複座型かというと、前席のパイロットと後席の電子戦士官の2名で役割分担することが可能だからです。
ただ、後に電子機器の小型化と自動化により単座、すなわちひとり乗りでも作戦遂行に支障がなくなったことから、現在では単座のF-16もワイルドヴィーゼル機として運用されるようになりました。
米海軍の電子戦機がミッションに同行することも
三沢基地で運用されているF-16の主装備は、空気取り入れ口の横に取り付けられたASQ-213 HARM照準制御装置と、主翼下に装備されたAGM-88 HARM対レーダーミサイルです。とはいえ、高度化された現代のECM環境はまさに「いたちごっこ」であることから、これには同じく三沢に配備されている海軍所属のEA-18G「グラウラー」電子戦機がミッションに同行しECMを担当します。
なお、三沢基地では空軍機と海軍機の緊密な連携を行うため、EA-18Gの後席に空軍からF-15EのWSO(兵装システム士官)が交換搭乗することも行われています。
三沢基地内にある隊員食堂のトレイに描かれていたアメリカ空軍第35戦闘航空団のエンブレム。「Attack to Defend」の文字が確認できる(細谷泰正撮影)。
ベトナム戦争終結後、F-4Gワイルド・ウィーズル部隊はアメリカ本土に戻りました。長らくカリフォルニア州のジョージ空軍基地を拠点に活動していましたが、アメリカ空軍はF-4Gを退役させ、1996(平成8)年、三沢基地にF-16によるワイルド・ウィーズル部隊を配置しました。これは国際情勢の変化を反映していると考えるのが妥当でしょう。
なお、このとき三沢基地に配備されたF-16はアメリカ空軍初の単座仕様のワイルド・ウィーズル機となりました。ちなみに、それらを運用する第35戦闘航空団のモットーは「防衛のために攻撃する」(Attack to Defend)だとか。
日本では現在、自衛隊の敵地攻撃能力の是非が議論されています。その点では、三沢の精鋭部隊、すなわち第35戦闘航空団のワイルド・ウィーズルが最たるものであり、彼らこそ敵地攻撃能力に関する様々な答えを知っていると言えるのではないでしょうか。