※この記事は2022年01月20日にBLOGOSで公開されたものです

YouTubeの台頭で過渡期を迎えるメディア業界。テレビはオワコンになるのかと危惧する声もある中、テレビで培ったノウハウを活かしてYouTubeで成功をおさめるテレビマンが出始めました。今回は月刊誌『VIDEO SALON』に掲載された動画制作のノウハウからビジネスマンにも役立つテクニックをご紹介します。

放送作家の深田憲作です。

今回はYouTubeで活躍するテレビマンについて書いてみたいと思います。YouTubeで人気の『本の要約チャンネル』を“テレビマンの本でやってみるコラム”の第10弾です。

これまでテレビマンが執筆した書籍を扱わせていただいてきたのですが、今回は雑誌でやらせていただきます。それが『VIDEO SALON』という雑誌。動画制作に役立つノウハウを紹介する月刊誌です。

動画制作に関わる者としてはお恥ずかしいのですがこの雑誌の存在を最近知りました。2022年1月号の特集テーマが「YouTubeチャンネル運営・動画制作の新定義 元・現テレビスタッフが実践する最新テクニック!」。知り合いのテレビマンのツイートでこの雑誌を知り購入しました。

ビデオ SALON (サロン) 2022年1月号 [雑誌] Kindle版

内容はテーマの通りYouTube制作・運営にまつわるテクニックを紹介しています。商品などをユーザーに知ってもらう・見てもらう・使ってもらうためのテクニックという意味では幅広いビジネスマンにとって役立つ内容だと思いコラムにさせていただこうと思いました。

今回、取り上げさせていただくのは3人の現役&元テレビマンの記事。

1人目は元読売テレビ社員で現在は複数の人気YouTubeチャンネルを運営する平山勝雄さんです。平山さんは読売テレビ時代に『ダウンタウンDX』『どっちの料理ショー』『カミングアウトバラエティ!! 秘密のケンミンSHOW(現 ディスカバリー・エンターテインメント 秘密のケンミンSHOW 極)』などを担当。現在はYouTubeの人気野球チャンネル『トクサンTV【A&R】』(登録者数約67万人)、人間の闇をテーマにした漫画チャンネル『ヒューマンバグ大学_闇の漫画』(登録者数約135万人)、シュールなコントを描いた漫画チャンネル『マリマリマリー』(登録者数約75万人)などを運営しています。(※チャンネル登録者数は1月10日時点)

関わってきたテレビ番組もさることながら、運営するYouTubeも大人気のチャンネルばかり。(ここに挙げた以外にも人気YouTubeチャンネルの運営やさまざまな動画制作を行っています)

これらのYouTubeはテレビマン時代に培ったノウハウが活かされているといいます。例えば、漫画チャンネルの『ヒューマンバグ大学_闇の漫画』では読売テレビ時代に再現ドラマを制作していた時のノウハウが使われているようです。

漫画動画は先にナレーションと登場人物のセリフを書いた台本をもとに絵を作り上げていくそうなのですが、この工程はテレビ番組の再現ドラマの作り方と似ています。1000万人以上が視聴する地上波のゴールデンタイムで再現ドラマを制作してきた経験で培った「視聴者を惹きつける手法」「飽きさせない手法」「分かりやすく伝える手法」が盛り込まれているのでしょう。

転職で仕事を選ぶ際によく「今働いているのと同じ業界の中で違う職種」もしくは「今働いているのと違う業界で同じ職種」で自分の能力や価値を発揮できるポジションを築けることが大事だと言われますが、平山さんの場合は後者。テレビからYouTubeへの転職を見事に成功させています。(ご本人が転職と考えているかどうかは分かりませんが…)

そして、その時に重要なのが違う業界のルール・文化・顧客価値などを分析・理解してうまく適応させること。テレビマンがYouTubeチャンネルを運営して失敗するケースも散見されますが、そのほとんどの原因が「YouTubeに適応できなかった」ということに尽きると思います。

現在、テレビからYouTube、ABEMA、Amazonプライム・ビデオ、Netflixなどへのテレビマンの民族大移動が起こっています。(移動といってもテレビをやりながら別媒体でもコンテンツを作るという掛け持ちのパターンがほとんどですが)移動先でも成功をおさめられるかどうかはこの「適応する力」が勝負の決め手になるのかもしれません。

実際これまでも「たいしたことなかったのに…」と言われるテレビマンが別ジャンルや別媒体で結果を残してきたケースは数多くあります。(平山さんはテレビでも結果を残されていますが)「俺は今までこのやり方で面白いものを作ってきたんだよ!」「俺の言う通りにしろ!」といった昭和の頑固おやじ的なレガシーマインドの人は淘汰されてしまう危険性が高いかもしれません。そういった意味で平山さんの適応力は見習うべきポイントが多々あると思います。

平山さんは雑誌の中でテレビとYouTubeの違いについて以下のように述べています。「テレビは1時間ないし30分の長尺で起承転結をつけながら番組を作る技術が求められるがYouTubeは一点突破で動画を作れる」「テレビは全世代をターゲットにして面白いと思わせなければいけないがYouTubeはこの世代には受けるけど、この世代には受けないといった狭さが許容される」「マニアックな領域や趣味の領域で戦えるのがYouTube」「YouTubeのアナリティクスのアルゴリズムはリピーターを求める」など。

おそらくこれらはインタビューに答える際に要点だけを述べているに過ぎず、もっともっと緻密で細かい分析をしてYouTubeチャンネルを運営しているはずです。今後、どんなコンテンツを生み出すのか要注目の人物です。

脳に訴えかけるコンテンツが人間を惹きつける

続いてご紹介するのは現役のテレビ東京社員・高橋弘樹さんです。高橋さんに関してはこのコラムで前回取り上げさせていただきました。この雑誌の特集を読んで知ったのですが高橋さんは『家、ついて行ってイイですか?』という地上波の番組を演出しながら、テレビ東京が運営するYouTubeチャンネル『日経テレ東大学』でも演出をされているようです。

現在のテレビ東京を代表する、いや日本を代表する演出家である高橋さんがYouTubeチャンネルを運営して気づいたこととして興味深い記述がありました。

それが「YouTubeで多く再生された動画を見ていくと根本的な部分は変わらない」「そのポイントとなるのが“化学物質に訴えかける企画”」「ここでいう化学物質とは人の脳に作用するもの」というもの。

具体的にその化学物質を挙げると、自分が持っている知識が新しくアップデートされて自分に利益があると感じた時に分泌されるドーパミン。闘争心を沸き立たせるアドレナリン。笑いを引き出すβ-エンドルフィン。美しい景色などを見た時に分泌されるセロトニン。かわいいものを見た時や人の不幸を見て安心感を得た時に出るオキシトシンなど。これらに訴えかける企画はテレビ・YouTubeに限らず人を惹きつけるといいます。

例えば、テレビ東京が運営するYouTubeチャンネル『日経テレ東大学』内の『Re:Hack』という番組ではひろゆきさんが政治家の方などと白熱した議論を交わすのですが、これは見る人の闘争心に火をつけてアドレナリンが分泌されるような内容。かつて高橋さんが担当されていた地上波の番組『世界ナゼそこに?日本人 ~知られざる波瀾万丈伝~(現在は『ナゼそこ?』)』という番組では、大変な環境で生活する人の姿を見て視聴者が「やっぱり日本は快適な土地なんだな」と安心を感じてオキシトシンが分泌される内容。といった具合です。

要は“人の本能的な欲求に訴えかけるコンテンツはヒットしやすい”ということです。

テレビでもYouTubeでも「この内容のどの部分が人の脳、化学物質に訴えかけるだろうか」というのを考えることが人の興味を引くコンテンツ作りの第一歩だと述べています。

これは映像コンテンツ制作に関わっていない方にとっても胸にとめておくべき考え方のような気がします。

秀逸な企画の考え方、5つのポイント

最後に紹介するのはテレビ番組だけでなくYouTubeのプロデュースも行っている放送作家の谷田彰吾さん。谷田さんはテレビ番組ではこれまで『プロ野球戦力外通告』『バース・デイ』『青春高校3年C組』『情熱大陸』などを担当。YouTubeでは『上原浩治の雑談魂』『よしお兄さんとあそぼう!』『AIひろゆき』などのチャンネルを運営されています。

谷田さんはこの特集の中で放送作家として「企画の考え方」について5つのポイントを挙げています。

1つ目が「企画ではなく画企である!」

これは「まずはどんな“画”が欲しいかを考えてからそのビジュアルを達成するためにどういう仕組みを作ればいいかを“企”てる」ということ。谷田さんが担当する元メジャーリーガー・上原浩治さんのYouTubeチャンネルで「プロ野球カード開封して出た選手だけで打線組んでみた」という人気動画シリーズがあるのですが、これはコロナ禍でリモート撮影になった時期に上原さんが爆笑したり、絶叫する“画”を撮りたいという思いから生まれた企画だといいます。つまり、「プロ野球カードを使って何か企画ができないか?」ではなく「上原さんが爆笑したり絶叫する企画は何か?」という画から生まれた企画なのです。

2つ目は「良い企画には新しいアイデアと古いアイデアが入っている!」

企画というのは全てかけ算。古くからのテッパンとされているものに新しい何かをかけ算することで良い企画が生まれやすいといいます。

例えば、テレビ番組の人気シリーズ『逃走中』は古くからある鬼ごっこにお金やハンターといった新しい要素をかけ算した企画。現在大人気のゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』は古くからある競馬育成ゲームに美少女をかけ算したもの。

3つ目は「企画は誰の目線で展開するかによってまったく違うモノになる!」

テレビ番組制作において「目線」というワードはよく使われます。その中でも成功例としてよく使われるのが『壮絶人生ドキュメント プロ野球選手の妻たち』という番組。

おそらく皆さんも『プロ野球戦力外通告』という番組はご存じかと思いますが、『壮絶人生ドキュメント プロ野球選手の妻たち』はこの番組を選手の妻目線から描いたドキュメンタリー。同じように崖っぷちのプロ野球選手に密着するという事象を描いても目線を妻にするだけで女性視聴者が興味を持ちやすく、ドキュメントに入り込むことができます。

これは目線を変えるだけで別の新たな企画が生まれるという好例。朝専用の缶コーヒーや太った人専門の洋服屋などはこの目線を変えた企画と言えるのではないでしょうか。

4つ目は「偶然が起こる企画はブレイクしやすい!」

「予定調和はワクワクしない」といったことはよく言われますが、特にバラエティのコンテンツを作るうえでは予定不調和が起こりやすい環境作りが必要になります。制作者が思い描いた台本通りに進行してしまうと想像を超えた面白さが生まれず、それは視聴者にとっても驚きになりません。とはいえ、ある程度の筋道を作って面白さを担保する仕掛けも重要。その中に偶然が生まれるような遊びの部分を残しておくということがポイントというわけです。

5つ目は「企画は新しいテクノロジーを足すだけで企画になる!」

たとえそれがなんでもない企画であっても新しいテクノロジーを使うことで見たことがない企画になります。谷田さんが手掛けているYouTubeチャンネルの『AIひろゆき』はひろゆきさんの言うことを学習させたAIを使ってさまざまな企画を行う動画を公開しています。

今回は雑誌の要約を行わせていただきました。ただ引用するだけになってしまうのは忍びないので是非とも『VIDEO SALON』をご購入いただけると幸いです。月によって特集テーマが異なり、映像制作のプロでなくとも普段会社で、もしくは家族を撮影することがある方にとっては参考になる特集もあると思いますので。

ビデオ SALON (サロン) 2022年1月号 [雑誌] Kindle版

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensakufukata
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