※この記事は2020年03月13日にBLOGOSで公開されたものです

放送作家の武村圭佑です。
このコラムでは仕事内容がどうにもボヤっとしている「放送作家」の仕事の中でも、さらにボヤっとしている「リサーチ」という仕事についてお話しします。


そもそもリサーチってどういう仕事?

僕の経験上の話ですが、自分の職業や仕事内容を他業種の方に紹介する時、最も引っかかるのがリサーチという仕事です。放送作家という仕事に対して、どこかクリエイティブな印象を持っている方が多いので、「調べる」っていったい何を?と聞かれることが多いのです。

リサーチ=調べるという意味なので、当然調べものをします。ネットはもちろん、図書館に行って書籍や雑誌を調べたりもします。

このリサーチにもいくつか種類があり、「放送する情報が正しいものであるか?」を調べる「裏取りリサーチ」を始め、都内の飲食店を調べまくったり、新聞のラテ欄を30年分ずっと洗ったり、匿名でアンケートをとるため、サービス業のお店に片っ端から電話することになったこともあります。

そんな数多くあるリサーチから、今回は駆け出しの作家がよく依頼される「ネタ」のリサーチについてお話ししたいと思います。

若手作家の登竜門「ネタリサーチ」とは

「ネタリサーチ」は、番組の企画、放送内容が決まっていて、その企画趣旨に添う情報、雑学、面白映像などをリサーチして提出する仕事。具体的にはテレビ朝日『ナニコレ珍百景』の珍百景を提出する仕事はネタリサーチです。テレビ朝日『くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館』の日本人の3割が知っていそうな雑学や知識を提出するのも、これにあたります。

こういった番組ごと、企画ごとに異なる発注に対し、ネット、書籍、雑誌などを駆使し、調べあげ資料にし「このネタ、放送したら面白いのでは?」と提案するのがネタリサーチです。

また、情報ではなく企画に合った一般の方の案を提出することもあります。テレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』の激レアさんになりそうな人を調べたり、フジテレビ『アウト×デラックス』のアウトな人を調べたり、日本テレビ『有吉反省会』の反省した方が良い人を調べたり、というのもその一種です。

面白い人やモノをネットや書籍を見て探すというシンプルな業務なので、そんなの簡単に見つかるんじゃない?と思う方も多いのではないでしょうか。僕自身もネタリサーチを初めてやる前はそう思っていましたが、なかなか正解を出すのが難しい仕事でもある、というのがここまでの経験から来る本音です。

確かにネット上で雑学と検索すればとんでもない数の雑学が出てきます。生活の知恵や、歴史上の人物の逸話など、そのジャンルは多岐に亘り、数も豊富です。珍しい経験をしている人、珍しい経歴の人もたくさんいます。ではなぜそんなにもネタリサーチが難しいのでしょうか。

マニアックすぎない情報を出すのが難しい

難しさのひとつに、「そのネタがすでに視聴者に知られていると価値が落ちる」ということがあります。当然ですが、視聴者に番組をずっと見てもらうためには興味をひく必要があるからです。

すでに知っている情報を延々と流しても、視聴者は見てくれません。すぐにチャンネルを変えてしまいますし、スマホやタブレットでYouTubeやNetflixを見始めてしまうかも知れません。

そのため、視聴者があまり知らない情報でありながらマニアックすぎない、どこか身近である情報・ネタを出す必要があります。はっきり言ってこの線引きは経験とセンスに基づくもので、個人的に知らないネタだと思って提出しても、長年テレビ業界で戦ってきた百戦錬磨のプロデューサー、ディレクター、放送作家からすれば、そこまででもないといったこともあります。「ベタだよね」という一言でボツになることも…。この線引きはメディアで働くうえでとても大事だと言えるでしょう。

すでに放送されているネタを出しても意味がない

そして、見ていて興味のある情報・ネタが見つかったとしても、次にぶつかるのが「かぶり」という壁です。これには2種類あり、ひとつはすでに他番組が取り扱ったネタであるというかぶりです。先程の知っている情報、既視感と重なってくる話でもありますが、すでに見たことのある情報を放送しても視聴者は興味を示しません。

さらに他の番組で放送したことがあるとなると、パクリといったレッテルを貼られることもあります。番組としても視聴者が初めて見るネタ・情報を放送するというのはかなり意識されている部分。同じものを出すワケにはいかないのです。

もうひとつのかぶりは、その番組ですでに取り扱ったことがあるというかぶり。これは最悪です。長く続けている番組や企画だと、過去に放送したネタがすごい数になってきます。さらに、会議にはあがったけど、放送には至らなかったものも含めると、その数は膨大なものになります。

「最低10個」とても厳しい提出数のノルマ

最後に「数」。番組にもよりますが会議はだいたい週に1回行われることが多いです。その会議に向けて、いくつネタを出すのを求められるのか。

僕の経験上ですが、どのようなネタリサーチにおいても最低10個は提出が必要です。さらに収録前にネタが足りてないとか、2時間の特番とレギュラー放送の収録が重なったりすると、求められる数はどんどん増えていきます。

僕は過去に1回あたり20の雑学を週に5回提出したことがありますが、これでも多分少ない方だと思います。週に100個メディアで取り上げられたことのないような雑学を出すと考えると、なかなか大変な気がしてきますよね。

この3つの壁に締め切りが加わり、時間に追われ続けるリサーチの仕事は大変です。会議のたびに10個のネタを提出しなければいけないので、とにかく目ぼしいネタを見つけて資料にまとめたものの、かぶりチェックをしたらいくつかのネタが他番組とかぶっていて、また何ネタか追加で調べることになることもよくあります。

かぶりがないかひとつづつ丁寧に調べて資料にしていると、今度は数が揃わない。締め切りもどんどん迫ってくる。締め切りに遅れるワケにはいかないため、数合わせでネタを揃えて提出すれば、その数合わせのネタが「番組の趣旨と違う」と番組プロデューサーやディレクターに叱責され、「次回から来なくて大丈夫です」という連絡が来る。

放送作家には様々な困難が立ちはだかってくるのです。

ひとつのテレビ番組のリサーチで食べていけるほどギャラはもらえません。そのためリサーチをいくつか掛け持ちすることになるのですが、そうなるとどんどん時間に追われていくことになります。

それでも放送作家がリサーチを続けるワケ

ここまで「リサーチがいかに辛いか」という話をしてきましたが、ではなぜリサーチを続けているのか。それは、採用された時の嬉しさが何事にも代えがたいものだからです。

そして、ネタリサーチは番組に対して自分の面白さをアピールする場でもあります。

毎回、ネタリサーチで面白いネタを数多く出していれば、当然評価もされていきます。リサーチが良ければ、番組を担当するディレクターから「新番組の企画書を作りましょう」と言われることもあるのです。

現に僕も、今頂いている仕事のほとんどが「リサーチを丁寧にする若手」として紹介してもらったもの。

自分が真面目に取り組んだ仕事が評価され、別の番組では構成として台本を書いたり企画を出したりと、放送作家のイメージ通りの仕事にステップアップしていくのは何事にも代えがたいことです。

ネタリサーチが実際に放送まで行った場合は、通常の10数倍のギャラが支払われる成功報酬的な仕組みを導入している番組もあると聞いたこともあります。一獲千金ではないですが、金銭的なところでも採用を目指し頑張る人がいるのではないでしょうか。

なぜ放送作家に「リサーチ」の仕事が来るのか

ずっとリサーチについて話してきましたが、実はこのテレビのリサーチだけを請け負っているリサーチ専門の会社があります。リサーチをするため多くの人を雇い、人海戦術で色んな情報・ネタを探し番組に貢献しています。

そんな会社もあるのに、なぜ個人の放送作家にリサーチの仕事がくるのか。

それは作家ならではの視点、切り口を求められているからです。先程、他番組とかぶっているネタは出せないという話をしましたが、同じネタでも見せ方を変えることで新しいネタ、既存のものとは違うネタとして見せることができます。

行列ができるお店として紹介された飲食店でも、その店主が面白いという事がわかれば、名物店主の店として取り上げることもできるのです。これらは放送作家個人の切り口や視点が入ることで生まれるネタだと思います。

昨今、ネットの普及によりテレビよりもネットという風が吹いているのを感じてはいますが、そんなネット先行の時代の中、制作陣は「テレビでしかできない、テレビならではの面白さ」を目指してもいます。その中で悪戦苦闘しながら頑張る若手放送作家もいるんだとテレビを見ながら感じていただければ幸いです。

武村圭佑
1986年生まれ 奈良県出身。
『ダウンタウンのごっつええ感じ』など数多くの番組を手掛けた放送作家が講師を務める『かわら長介放送作家魁塾』を卒業し、放送作家の道へ。大阪吉本のイベント構成を経て2014年拠点を東京に移す。現在はテレビ、ラジオの構成や芸人とのネタ作成を中心に活動中。