日本の技術・資本力がアジア・アフリカ地域を発展させる 開発途上国に注目するビジネスパーソン - BLOGOS編集部

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※この記事は2019年12月16日にBLOGOSで公開されたものです

世界には日本の資本力や技術力を駆使して活躍する若い世代が多くいる。国際協力機構(JICA)でシニアアドバイザー(ICT・イノベーション分野担当)を務める内藤智之さんに、ビジネスの可能性が注目されつつあるアフリカや、成長の途上で貧富の格差が表面化しているアジアなど、世界各地で活躍している日本人について寄稿いただいた。

日本は少子高齢化で、今後、国内市場の様々な面で「先細り」が懸念されています。そんななか、アジアやアフリカといった「ネクスト・マーケット」に目を向けるデジタル・ネイティブ世代(1976~1986年世代)の日本人が、世界で躍動しています。今年8月下旬に横浜で開催された「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」でも、2人の日本人が登壇して刺激的な発信を行いました。

「開発途上国でチャレンジする社会起業家」はなぜアグレッシブになるのか、彼ら/彼女らの視線の先には何があるのか。開発途上国を「リープフロッグ(かえる跳び)」させることに120%の情熱を24時間/365日注ぎ続けている2人の注目すべき日本人チャレンジャーを、紹介したいと思います。

美しく安価な義足を3Dプリンタで製造 世界の貧困層へ届ける:徳島泰(とくしま ゆたか)氏

JICA

義足づくりに3Dプリンタを活用することで、値段を従来の10分の1にまで抑えることに成功した徳島泰氏。東京とマニラを頻繁に往復しながら、世界的にも類を見ないデジタル義足製造会社を経営し、「安価で美しい」義足を世界の貧困層に届けています。

徳島氏の経歴は異色です。いわゆる工学部卒のITエンジニア出身ではなく、父親が経営していた製造業を大学を中退して手伝い、28歳で美大に再入学しました。卒業後は医療機器メーカーで製品デザイナーとして働き、2012年8月から2年4か月間、青年海外協力隊(JOCV)としてフィリピンの貧困地域ボホール島に駐在しました。

義足が必要でも買えず 障がいがあると定職にもつけない東南アジア貧困地帯の現実

地元企業に工業デザインの助言を行いながら、大学でデザインを教えるボランティア活動を行うなかで、徳島氏は貧困地域での障がい者問題を目の当たりにします。

ボホールを含むフィリピンでは、先天性・後天性問わず、貧困層で義手や義足を必要としている人が多くいました。調べてみると義肢装具はほとんどが輸入品であり、4~5千ドル(50万円前後)と貧困層の多くには手の届かない価格でした。日本のように補助金制度も整備されていません。

「NGOなどが無料で提供する機会もあるが、サイズや数量は全く足りていない。障がいがあると定職につけず、貧困は連鎖していく」。貧困地域でしか実感できない厳しい現実がそこにはありました。

徳島氏は日本での工業デザイナーとしての経験から、金型を必要とせずに迅速に試作が可能な3Dプリンタの利便性に着目していました。これを使って義肢装具を安く、そして一人一人の体形にきめ細かく合わせて美しく作成できないか。そんな思いを徐々に強めていきます。

JOCV派遣元である国際協力機構(JICA)のフィリピン事務所と粘り強く交渉し、2014年5月、ボホールにある州立大学の協力のもと「デジタル工房(ファブラボ)」を開設しました。

ファブラボとは、3Dプリンタなどのデジタル制御された工作機械を備えた工房であり、現在は世界中に1700か所以上あるとされています。ウェブや動画を介して設計図や製造方法が共有され、数値制御されたデジタル機器により加工することで、世界中で同じ精度の製品を作成することが可能となります。

徳島氏は、ファブラボの特徴を駆使して、膝下義足を必要とする貧困層に対して3Dプリンタで「安価で美しい」義足をプリント(抽出成形)することに成功しました。

片足を失くした人には、残っている方の足の外形を取り込んでデータを反転させて義足をデザインし、3Dプリンタを使って24時間程度で「プリント」します。製作過程にある取付と微調整の工程を人工知能(AI)に学習させることで、膝下義足を10分の1以下の値段(4万円程度)で提供することに成功しました。

AIを使うことで職人のいない地域での義足調整が可能に

徳島氏は帰国後、「3Dプリンタによる膝下義足製造」のビジネス化を自身の生業として選びました。徳島氏が2018年に設立したインスタリム株式会社の説明資料によると、義肢装具の需要は全世界で約1億人である一方、購入可能所得層はわずか10%(1千万人、既存市場規模は約1兆円)にとどまっており、逆説的には全世界の需要は約10兆円となります。

同社が特に比較優位性を発揮させているのは、「職人技を人工知能(AI)で代替させる」方法です。

一般的な義足製造においては、途中で義肢装具士による調整作業が必要となります。しかし、開発途上国に「職人」的な義肢装具士は限られています。このギャップを改善すべく、「義肢装具士の手技を学習したAI」を用いた技術を開発しています。

同社は現在、フィリピン国内での製造・販売実績を順調に伸ばしています。計画では、2022年以降にはアフリカなど「安価で精緻で容易に入手できる義足」を求めている人々がより多く存在する地域へ、事業を拡大していく計画を持っています。

外資仕込みの金融知識で社会課題を解決 マネー中心の米系投資銀行出身の異例の日本人:武藤康平(むとう こうへい)氏

JICA

マネー中心資本主義社会の代弁者「米系投資銀行」元社員である武藤康平氏が昨年、180度異なるビジネス環境のアフリカを中心とする開発途上国を舞台に金融アドヴァイザリーやファンドマネジメントを行う組織を、30歳前後の仲間だけで立ち上げました。その話を聞いた時、「日本人では初めてのモデルではないか」と斬新さを感じずにいられませんでした。

筆者が武藤氏に共通の知人を介して初めて出会ったのは、2017年5月、出張先のルワンダでした。投資銀行出身者にありがちなギラギラ感を全く感じさず、とても真摯に物事に対面している印象を抱きました。

翌年、彼は、モルガン・スタンレーで蓄えた知見を駆使し、同業他行や戦略コンサルタントを含めた国際金融エキスパート仲間を伴って、ビジネスを通じて社会課題解決に挑むダブル・フェザー・パートナーズ社(DFP)を立ち上げました。

DFPは、アフリカの普遍的な社会課題にチャレンジするスタートアップや中堅企業の資金調達や経営支援などのほか、アフリカ進出を目論む日本企業などに対する投資候補先の紹介や投資・買収先企業の事業拡大などを支援する、投資銀行におけるアドヴァイザリー業務の専門家集団です。

現地スタートアップへの資金提供を通じて、日本企業に対して一次情報の提供と投資先との戦略的事業連携の機会を提供するための第1号ファンドも最近設置しています。

ビジネスの安定的収益が難しいアフリカ地域での挑戦

一般論として、アフリカなど低開発地域でのアドヴァイザリー業務は、独特な現地商習慣なども相まって様々なカントリーリスクがあり、ビジネスとして安定的な収益を見込むのは必ずしも容易ではないと考えられます。

しかし、趣味で航空パイロット資格も取得している武藤氏の考え方は、常に大局的かつ俯瞰的です。

「アフリカは54か国もあるうえ、社会課題は複雑なため、一社でカバーできる範囲は自ずと限られる」

ひとつの有望企業に対する支援を、自身が全てコントロールする発想は毛頭ありません。アフリカという大きな世界観の中で、同じ志を持つ仲間と積極的に繋がりあい、最終的に巨大なエコシステムとして「戦略的連携」を実現するという理想をイメージしているのです。

大局的な志を抱いている武藤氏のもとには、世界中から共感を持った同志が集まり続けています。米国トップ大学院で学んだアフリカ国籍の元国際機関スタッフ、英国トップMBAを修めた元援助機関職員等々、専門家集団の厚みは増し続けています。

DFPの活動拠点も、すでに日本とアフリカ5か国に根を下ろしていますが、将来的にはこれに欧州を加えて3地域拠点が有機的に連携し、アフリカの成長を支えていく構想を持っています。

武藤氏は仲間とともに、アフリカで急増するスタートアップ企業からの様々な段階における資金調達や経営支援、日本企業のアフリカ事業戦略策定支援において、ひとつひとつオーダーメードで対応しています。一方で、多様な関係者と横断的に連携することで、54か国をひとつの市場として捉えつつ、各国の商習慣に根差した包括的な経営支援をワンストップで提供するスタイルを目指しています。

この大胆かつフレキシブルな構想力に、武藤氏の外資系金融での国際経験とパイロットとしての俯瞰力が、少なからず作用しているのは間違いないでしょう。

「特別ではない」日本人たちが開発途上国の貧困をなくしていく

今回ご紹介した2人の日本人は、会ってみると、「特別ではない」普通の若者であることに気付きます。

一方、彼らに共通する「特別」なことをあえて挙げるのならば、「自身が心揺さぶられたこと」に対して、その解を見つけるために他人や既存の組織に依存することなく、自分が「運転席(Driver’s Seat)」に座ることを選択した点です。

開発途上国の社会課題を解決しながらも自身がしっかり生活していくためにビジネス化してマネタイズすることを真剣に考え、実践しています。そこには、前任者や前例はありません。しかし、彼ら2人は自分の可能性を信じて、パイオニアとしての努力を惜しみません。

このような「ネクスト・マーケット」に果敢に挑む日本の社会起業家が、今後もっと増え、その結果として開発途上国の経済発展が促進されて貧困が無くなっていくと筆者は心から信じていますし、彼らパイオニアに続いてどんどん出現している予備軍の方々を見ていると、それは過信ではないことがよくわかります。

内藤智之(ないとう ともゆき)


独立行政法人国際協力機構(JICA) 国際協力専門員/シニアアドバイザー(ICT・イノベーション分野)
民間企業勤務後、JICAにて運輸交通・情報通信課長、計画課長、外務省開発政策上級専門員(出向)。世界銀行東アジア大洋州地域局マネージャーを経て現職。

世界経済フォーラム「Internet for All」グローバル運営委員会メンバー
総務省「デジタル変革時代のICTグローバル戦略懇談会」国際戦略WG構成員
Global Development Learning Networkアジア太平洋地域統括委員会委員
単著「インドネシア投資・進出ガイド」(中央経済社、2014年)
共著「国際貢献とSDGsの実現」(朝倉書店、2019年)
論文「ICTと国際開発」(『国際開発研究』第26巻第2号、2017年)ほか
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得満期退学。