神戸・中高生の常識「ファミリアのバッグ」知らんの? 子ども服ブランドのバッグが長年愛されている理由 - 清水かれん

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※この記事は2019年12月10日にBLOGOSで公開されたものです

子どもの頃からあたりまえのように接している食べ物や商品が別の地域では無名に等しいということがある。兵庫県・神戸市出身で約10年前に東京に上京した筆者の身にも同様のことが起きた。

ある日、会社の同僚と中高時代の制服について盛り上がっていたとき、話の流れで「どんなカバンを使っていた?」となった。この時点で神戸出身の女性なら思いつくバッグはたった一つだと思うのだが、そのバッグのことを筆者が話すと、「え? 何それ?初耳です」という反応が返ってきた。

私は思わず声に出した。

「ファミリアバッグ、知らんの??」

同僚と同じく、何それ?と感じているであろう読者の皆様にファミリアバッグの説明をすると、このバッグは神戸発祥の子ども服ブランド「ファミリア」が販売している、手提げのデニムバッグのことだ。

この会話の後、筆者は改めてこのバッグを知っているか周囲の人たちに尋ねてみたが、そこでも「ファミリア」は知っていても「ファミリアバッグ」となると知っている人がほぼいなくなることに驚いた。なぜなら、神戸での認知度はほぼ100%と言っても過言ではないからだ。なぜこんなにも認知度に差があるのだろうか?

青春を共にしてきたバッグの存在が知られていないことに驚いた私は、その理由を調べるべく神戸にある「ファミリア」本社に向かった。

「バッグはほぼご当地アイテム」に神戸人驚愕

「東京でファミリアバッグが知られていなくて…!なぜ…!」という鼻息の荒い取材依頼を快く迎えてくださった、「ファミリア」の広報・玉谷佳穂さんとデザイナー・一浦早夜香さんに話を聞いた。

ーー東京で「ファミリアバッグ」がほぼ知られていないことに驚いているのですが‥神戸では認知度100%で間違いないですよね

玉谷:ありがたいことに、多くの方に知っていただけていると思います。けれど、関西圏の中でも神戸と比べると大阪や京都では認知度はあまり高くありません。他の地域でも、もっと広まっていくといいなと思うのですが。

ーー具体的にどのような方が利用しているのでしょうか

玉谷:神戸では、幼稚園児から高校生まで、幅広い年代の学生さんに使用いただいています。一番売れるのは入園式・入学式の季節で、お子さんがいるお母さんが購入してくださっているケースが大半です。他にはお祖父様お祖母様や親戚の方がお祝いの品として贈る場合も多いですね。

また、街でデニムバッグを持っている女子中高生の方を多く見かけるからか、「学校指定なのですか?」とよくご質問をいただきますが、そうではありません。販売した当初から神戸の女子中高生に人気はあったそうで、それをいいなと思ってくださる新入学生の方が、私も、私もと、愛用してくださっているのが始まりで、いつのまにか広まり、多くの女子中高生の方に定番として愛用いただけるようになったのではと思っています。

ーー口コミで広まっていったのですね。「ファミリア」ブランド自体の認知度は高いと思うのですが、なぜバッグの認知度はあまり高くないのでしょうか

玉谷:ファミリアは坂野惇子をはじめとする4人の女性(田村江つ子、田村光子、村井ミヨ子)で1950年に創業され、今年で69年になります。主にベビー子ども服ブランドとして全国的に認知していただけていると考えています。また、NHK朝の連続テレビ小説で創業者のひとりである坂野惇子をヒロインモデルとした「べっぴんさん」が放送されたことで、より注目していただけるようになりました。

ファミリアは今回取り上げていただいたファミリアバッグ、もとい「デニムバッグ」は1957年に作られました。

ーー初期の商品なのですね。神戸出身の母が幼少期から使っていたというのも頷けます

玉谷:お祖母様からお母様、そしてお嬢様へと何世代にもわたって使っていただけているとお客様からお聞きすることもあり、嬉しく感じています。今では中高生の方にも多くご利用いただいているデニムバッグですが、はじめはピアノなどのお稽古へ行くときに持てるようにと、お稽古バッグとして発売されていたんです。

一浦:サイズが少し大きい、と言われることもあるのですが、元々お稽古バッグだったことからピアノ教材である「バイエル」が入る大きさになっています。楽譜を折り曲げずに入れることができるように、と作られたのでA4サイズよりも少し大きめなんです。

また、小さいお子さんが持って雑に扱っても破れたり、取っ手がちぎれたりすることがないように作られています。

デニムバッグは名前の通りデニム生地を使用しています。デニム生地の『綾織り』は縦糸と横糸が交互ではなく、一度交差した後に、一本とばしに織り込まれており、強度が弱いのが弱点でした。

そこで、縦糸と横糸が交互に織り込まれ、縦横の繊維ががっちりと組み合わさって織られた軽量で強い織り方である『平織り』を採用し、ファミリアのオリジナルのデニム風生地を開発しました。交互に織られていることで光の反射によりチェッカーフラッグのような模様に見えるのも特徴です。

更に、重い中身に耐えられるよう持ち手から底へ『綾テープ』をぐるりとバッグの内側に縫い付けており、強度を増しているんです。

ーー置き勉していた教科書を一気に持って帰っても破れなかったのには理由があったんですね

玉谷:弱くみられがちですが、強く、子どもの無茶な使い方にも耐えることができるんですよ。また、持ち手部分は片面が合皮で補強されていますが、毎日持っているとどうしても傷んでしまいますよね。なので、長く使っていただけるように修理サービスも承っています。

ーーそんな優しいサービスがあったなんて! ところで一つ疑問に思っていたのですが、取っ手の長さ…絶妙じゃないですか?

玉谷:中高生が持つには絶妙な長さですよね。

ーー肩にかけるには短いし、手で持つには長すぎる…。けれど、お嬢様持ちをするにはぴったり。お嬢様持ちを促す‥それが狙いだったのでしょうか?

一浦:確かにお嬢様持ちをしてしまいますが…不正解。正解は、小学校低学年の子どもが机の横にあるカバンかけにデニムバッグをかけた際に床につかない長さにすると、この長さになった、でした(笑)。

子どものために…創業者の想いが詰まったバッグ

ーーこだわりが詰まったデニムバッグ。その中でも 特に大切にしている箇所はどこですか

一浦:女の子や男の子、くまさんや犬やウサギ、果物など一点一点フェルトでアップリケを縫っているのですが…

ーーこれ手縫いだったんですか!?

一浦:そうなんです(笑)ファミリアの代表的なチェック柄の生地を絵柄のバッグや洋服に使用することがあるのですが、この作業が一番時間を要します。1日に作れる枚数が少なく、どうしても生産数が少なくなってしまっています。

大切にしている箇所は、「目の表情」です。バッグのそれぞれの絵に物語があり、女の子や男の子が動物と共にいる絵では、それぞれ目が合っていて、まるでお話ししているかのように表現し、絵の登場人物が単体の場合は、持ち主である子どもと目が合うようにしています。

そうすることで、子どもたちは想像をふくらませて、絵を楽しむことができるんです。そういった面でも、「目」というのは最も気をつけて作業をする箇所ですね。目の傾きが少し変わっただけでかわいさがすごく変わるので、一番神経を使います。

ーー学生時代、同じ絵柄を持っている友達とどちらのカバンがかわいいか言い争っていました

玉谷:それぞれ顔が違うのもかわいいですよね。現在デニムバッグはインターネットからの販売が主になってしまったので、ご自身でどの商品がいいか選ぶことはできないのですが、店頭に並んでいた頃はじ~~~と見比べてどの商品にするか悩む方も多かったです。

ーーコレクターの方もいらっしゃいますもんね

玉谷:ありがたいことに、集めてくださっているお客様もいます。手作業で作っているので、生産数が少なくすぐに完売してしまうのですが…。

ーー過去の絵柄を見ると、少し時代によって絵の雰囲気が違いますよね。デザインをする際、気をつけている箇所はありますか

一浦:絵に登場する女の子や男の子は幼稚園~小学生低学年くらいの子どもをイメージしているのですが、昔の絵柄の方が少し幼く描かれているかもしれませんね。絵の雰囲気も現代と少しリンクしているのですが、メルヘンな雰囲気は失われないようにしています。現実過ぎない、は重要かもしれません。

子どもの服装も少しお嬢様・お坊ちゃまルックです。けれど、昔ならこんな派手な青色は使わないなというような配色をして、少し現代の雰囲気を取り入れたりして楽しんでいます(笑)

他に、子どもがかわいい!と思う絵、というのを大切にしています。なので、複雑なものでなく、見てすぐにかわいい!と思ってもらえるようなものを心がけています。

これはデニムバッグだけではなく、ファミリアの商品全体で言えることなのですが、創業時より「お母さんの気持ちになってものづくりをしましょう」という愛情品質をコンセプトに変わらぬ丁寧なものづくりを続け、子どものことを一番に考えています。そこに、時代に合わせたデザインを組み合わせることによって、進化できるようにと思っています。

玉谷:自分の子どもに着せる・持たせるつもりでものづくりをしなさいという教えがあるので、流行しているからこのデザイン、とするのではなく、その時代の子どもたちを一番に考えてそれぞれ作られてきたと思います。

取材を終えて

ファミリアの商品と共に育ってきた人は、「学生の頃に使っていたものを自分の子どもにも使ってほしい」と言っているのをよく耳にする。筆者も両親がファミリアと共に大きくなり、筆者もファミリアの商品と共に成長した。そして今、子どもができたときに利用したいブランドはファミリアだと思っている。

こうやって世代を超えてそれぞれが同じ想いを抱くのは、創業時から変わらぬ「子どものために」というファミリアの想いが商品に詰まっているからではないか。

洋服やおもちゃに比べて、長い期間使用するファミリアバッグ=デニムバッグには、ファミリアのそんな想いが詰まっており、バッグと共に学生時代を過ごしていたというのがなんだか誇らしく、新しく思い出ができたようだった。