安倍首相が批判される「桜を見る会問題」野党はどこまで追及できるか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗
※この記事は2019年11月26日にBLOGOSで公開されたものです
毎年春に歴代の首相が開催してきた「桜を見る会」が問題となっている。安倍首相の後援会関係者が数多く招待されていたことが判明し、「本来の趣旨を逸脱しており、公的行事が私物化されているのではないか」という批判が起きている。この問題をどのように見ているのか、田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】参加者数は開催要項の「2倍近く」に膨張
野党やマスコミの批判を受け、菅官房長官は11月中旬、来年の開催は中止すると発表した。これはつまり、政府自身が「問題あり」と認めたということだ。桜を見る会は、戦後まもない1952年に始まった行事で、ほぼ毎年、東京の新宿御苑で開催されてきた。初回の主催者は吉田茂首相。サンフランシスコ講和条約を記念して開かれた。最初の参加者は約1000人だった。
安倍政権の前の民主党政権のときも開催された。2010年には、鳩山由紀夫首相が主催した。ただ、11年は東日本大震災のために中止、翌12年も北朝鮮のミサイル問題に対処するため中止となった。その後、第2次安倍政権が発足してからは毎年実施されている。
桜を見る会で問題となるのは、誰を招待するか、招待者の人数はどれくらいの規模か、という点である。
開催要項によると、招待者は、皇族、元皇族、各国大使、衆参両院の正副議長、最高裁長官、閣僚、国会議員、事務次官および局長の一部、都道府県知事および議長の一部、その他、各界の代表等と定められ、その人数は約1万人とされている。
最後が、各界の代表「等」とあいまいな表現となっていることから、明示的に列挙されていない芸能人やスポーツ選手も実際には招待されていた。また、報道関係者も招かれている。さらに、安倍内閣のもとでは、与党である自民公明両党の後援会関係者も数多く招待されていた。
その結果、招待者の人数は年を追うごとに増えていき、2019年の参加者は1万8200人に達した。つまり、開催要項の1万人の2倍近くまで膨れ上がっているわけだ。
それに応じて支出も増加した。予算は約1800万円とされているのに、2019年は約5500万円と、3倍以上に増えている。これらは全部、国民の税金から支出される。
野党は「安倍首相が税金を私物化しているのではないか」と厳しく追及している。中心になっているのは共産党で、念入りに調査して問題にした。
野党は「後援会活動そのものだ」と批判
野党がとりわけ問題視しているのは、桜を見る会の前夜にホテルニューオータニで、安倍首相の後援者たち850人を招いたパーティーを開いていることだ。事実上、桜を見る会とセットになっていると言える。この850人は、開催要項が定める「各界の代表等」に含まれないはずだ。野党は「後援会活動そのものだ」と批判している。それに対して、安倍首相は記者会見を開き、20分以上にわたって説明した。そこで安倍首相は、ホテルニューオータニで850人の夕食会を開いたことを認めた。しかし、1人あたり5000円を参加者に払ってもらっていて、安倍事務所からは出費がないので問題ないと主張した。
ところが、ホテルニューオータニの夕食会は通常1万1000円だとされる。5000円というのは安すぎる。その差額は安倍事務所が出しているのではないかという疑問がある。安倍首相は「大多数が宿泊客であるという事情も考慮してホテル側が金額を設定した」と説明するが、不自然だ。野党は「根拠がない」として、ホテルニューオータニの収支報告書を提出することを求めている。
11月20日の参議院本会議では、安倍首相がこの問題について答弁し、安倍事務所による招待者推薦に自ら関与していたことを認めた。野党はさらに攻め立てようとしている。
それにしても、なぜ、こんなことが起きたのか。桜を見る会の招待者数は開催要項の2倍近く、予算は3倍以上に膨れ上がった。その原因はどこにあるのか。
自民党の幹部たち数人にこの問題を聞いたところ、みな深刻に捉えていた。第2次安倍政権が7年に及び、関係者の神経が緩みすぎているのではないかという声が多かった。本来ならば、安倍事務所がしっかりチェックしないといけないのに、そうなっていない。
安倍首相は森友・加計問題で厳しく追及されながらも逃げ切った。それに比べれば大したことはないと考えているのではないか。
それでも落ちない「内閣支持率」
今回の問題を受け、いくつかの新聞が世論調査を実施した。ところが、安倍内閣の支持率は思いのほか落ちていない。読売新聞の調査では、内閣支持率は49%。1カ月ほど前の調査に比べ、6ポイントの下落にとどまっている。朝日新聞の調査をみると、内閣支持率は44%で、前回よりも1ポイントしか落ちていない。
野党は安倍政権への逆風を期待したが、実際はそよ風が吹いた程度である。この状況をどう考えればいいのか。
おそらく国民の多くは「与党はけしからん」と思いつつ、野党に政権を担わせる気がないのだろう。野党を信用していないのだ。また、自民党内を見渡しても、安倍首相に匹敵する後継者がいないと見ているのだろう。
かつては自民党の内部に反主流派、非主流派がいて、現政権に問題が生じると党内で論争が起きた。岸信介、田中角栄、福田赳夫、大平正芳、宮澤喜一といった歴代の首相は、野党との戦いに敗れたわけではなく、党内の反主流派との争いに負けて、その座を追われたのだ。
しかし、国政選挙が小選挙区制を中心にした制度に代わり、自民党の議員たちは党の公認を得ることが最重要課題となった。党執行部の顔色をうかがうことが何よりも優先するようになり、自民党議員の多くが党総裁である安倍首相のイエスマンになってしまった。
そんな政治をどう考えればいいのか。自民党の幹部も危機感を持っている。こんな状況で、野党はどこまで安倍首相を追及できるだろうか。