【NHK紅白歌合戦】ヒット曲のない70回目、令和初の「紅白」出場者 - 渡邉裕二
※この記事は2019年11月16日にBLOGOSで公開されたものです
大晦日の「紅白歌合戦」の出場者が14日、NHKから発表された。昨年の「紅白」を振り返ってみると、YouTubeで人気だった米津玄師が初出演したり、エンディングでは35年ぶりに東京・渋谷のNHKホールでの出演となったサザンオールスターズが、松任谷由実と〝共演〟するなどのハプニングもあったりと、生放送ならではの演出で平成最後の歌い納めに相応しいステージとなったことから、後半(後9~11時45分)の視聴率は、前年を1・9ポイントもアップする41・5%となり、2年ぶりに40%台を回復させた。
年間視聴率1位を獲得できるか
では、今年の「紅白」は?何と言っても70回目で、しかも〝令和初〟となる。さらに「東京五輪」前年の「紅白」だけに、失態は許されない。是が非でも盛り上げ、昨年並みの視聴率を維持し、「皆様のNHK」としても面目を保たなければならない。
「『紅白』は毎年、年間視聴率1位というのが指定席でしたからね。それが、今年は、NHKが大河ドラマ『いだてん』を休んでまで生中継したラグビーW杯の『日本対南アフリカ』が、平均視聴率で41・6%、瞬間最高では49・1%をマークしました。それを考えると昨年並みでの数字では微妙なのです。やはり42%を目指したいのではないでしょうか?」(放送関係者)。
というわけで、今年の出場者の顔ぶれはどうだろうか?
最多出場は五木ひろしで49回。続いて石川さゆりの42回である。五木には「今年が最後」なんて噂もあるが、本人としては50回まで続けたいところだろう。一方、石川は昨年、元BOØWYのギタリスト、布袋寅泰とのコラボで熱唱した「天城越え」の評価が高かったこともあって、まだまだ注目度も高い。
しかし、出場者の顔ぶれの中には、疑問符のつく歌手も多いことも確か。さらに、演歌の島津亜矢のように、出場は6回になるが、自身の持ち歌は歌わせてもらえず、もはや「カバー曲要員」になってしまっている歌手もいる。それでは歌唱力を評価されているだけで、世間で言われる〝紅白歌手〟としては、さすがにモチベーションは上がらないだろう。
初出場7組の顔ぶれ
それでは、今年の初出場はどうか?昨年出場した三代目 J SOUL BROTHERSや兄貴分のEXILEは、今年は福岡ヤフードームでのカウントダウン・コンサートに出演することから、「紅白」には出場せず、代わって7人組のGENERATIONS(ジャネレーションズ)が出場する。「兄貴分が身を引いて弟分を初出場させるというのも妙な選考基準」(音楽関係者)なんて声もあるが、ある意味で「紅白」の現状だろう。
他にジャニーズ事務所の7人組グループ「Kis-My-Ft2(キスマイフットツー)」や4人組バンド「Official髭男dism(オフィシャルヒゲダンリズム)、さらには俳優としても人気の菅田将暉や今年、グループ名を「けやき坂46」から改名した「日向坂46」、そしてアニメ歌手として出てきたLiS A(リサ)、4人組バンドのKing Gnu(キング・ヌー)など紅白合わせて7組。
NHKが出場者発表の際に配る資料によると、その出場歌手の選考は、
(1)今年の活躍
(2)世論の支持
(3)番組の企画・演出
の3点を基本に、総合的に判断しているという。ならば「世論の支持」とは一体何か?
NHKによれば、それはNHK放送世論調査所が実施する「紅白に出場してほしい歌手を男女各3組挙げて下さい」という〝世論調査〟だそうだ。要するに、その調査で出たデータが「世論からの支持」として扱われることになる。しかし、一方ではこんな意見もある。
「所属事務所が強ければ、テレビやラジオでの露出量も増えますから『今年の活躍』という部分でのポイントは上がることになります。しかも、それだけ露出の多い歌手は、露出に比例して支持も高まっていくのが一般的ですからね。結局はアーティスト・パワー以上に事務所のパワーということになります。
しかも、その基準というのはNHKの歌謡番組『うたコン』や『SONGS』への出演、さらには朝の連続テレビ小説の主題歌。早い話がNHKへの貢献度が最優先されていく。そうなると世間のヒット曲とは次元が違ってきてしまうのです。もちろん、昨年の米津玄師のようなケースもないわけではないでしょうけど…」(放送関係者)。
令和元年のヒット曲って?
ヒット曲ということでは、今年の音楽業界は、これまでにないほどの不作の年だった。初登場が決まった小中学生ユニットのFoorin(フーリン)は、米津がプロデュースした楽曲「パプリカ」を歌っているが、それとて、おそらく大多数が「あ、そう」程度の認識に違いない。「NHKは、音楽配信も重要な選考基準にしていると言いますが、ここ数年の傾向としてはヒット曲以前に、年代を通して聴きたいような曲がない時代になってしまったんですよ。そこでサブスクリプション(定額音楽配信サービス)ということになりますが、サブスクなどの場合は作品に偏りもあるし、配信を許可していないアーティストもいますからね。万全なデータになるとは言い切れないのではないでしょうか」(音楽記者)。
確かに、今年を振り返ってみるとヒット曲が思い浮かばない人が多いに違いない。それこそ何年か後に「令和元年を代表する曲は?」なんて聞かれ、楽曲が流れてきたとしてもピンとこないだろう。もはや「歌は世につれ、世は歌につれ」なんて言事(ことわざ)は〝死語〟になってしまった。
良くも悪くもシンガーソングライターばかりが目立ち、職人としての作詞家、作曲家が減少したことも一因だ。例えば、阿久悠さんや筒美京平さんのようなヒットメーカーが出てこなくなったことが大きな影響をもたらしていることは確かだろう。
「結局は、出場者というのはNHKが出したい歌手、出てほしい歌手を選んでいるだけ。かつては国民的音楽番組としての評価もあったでしょうが、今や単なる年末歌謡番組に過ぎません。民放各局の裏番組も企画を出し合えば、高視聴率番組が出来るはずですが、おそらく年末年始で手を抜いているんでしょうね」。
ちなみに、発表された「紅白」の出場者は、紅組が21組で白組が20組。数が合わないのは、今回の発表とは別に4~5組前後の〝隠し玉〟を用意しているからだ。今後、タイミングを見ながら「特別枠」「企画枠」などと称して年末の本番に向けて小出しにしていくはずである。
既に没後30年を迎えた美空ひばりさんをAIで蘇らせるという企画が発表されているが、他にも今年、デビュー25周年を迎えたロックグループのGLAYが20年ぶりに出演するという情報や「出演はない」とするスピッツ、さらには、ベストアルバムを発売した竹内まりやも予想されている。「竹内まりやの場合は、バックのギター演奏で夫の山下達郎も出てくる可能性もあり、出演となれば話題は大きいでしょうね」(事情通)。
また、矢沢永吉や海外アーティストとして130億円を超える興行収入で話題となった映画「ボヘミアン・ラプソティ」のクイーンなども挙がっている。
SMAP一夜限りの再結成はあるか
しかし、最大の隠し玉として考えられるのは、16年に解散したSMAPの一夜限りの再結成だろう。「今年、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長が亡くなったことも大きいでしょう。当然、ジャニーズの企画は盛り込まれているはずですが、一方ではSMAPのメンバーの一人だった木村拓哉もソロデビューしましたからね。昨年はサザンオールスターズで盛り上がりましたが、今年は一夜限りのSMAP再結成ということで出演する案は出ているはずです。NHKとしては東京五輪を前にSMAPと嵐を絡めたいところでしょう」(音楽関係者)。
司会は紅組・綾瀬はるか、白組は嵐の櫻井翔に決まり既に発表されている。いずれにしても、あの「グラミー賞」ですら61回というのに、70回目を迎える「紅白」というのは世界でも類を見ない番組であることだけは確か。
だが、その一方で「歌合戦」と銘打ちながら、これといったヒット曲もない中では、もはやコンセプト自体を見直す時期に来ている。
…とは言いつつ今回も、70年分のナツメロを盛り込み、歌合戦というよりバラエティ色を前面に出して4時間25分の〝年末番組〟になるに違いない。