※この記事は2019年11月08日にBLOGOSで公開されたものです

家電量販店のノジマが、経営再建中のスルガ銀行(以下スルガ)創業家の全持ち株を買い取ることが発表されました。これにより、スルガは不正融資に走った諸悪の根源とされる創業家一族経営から完全脱却することとなり、再建に向けた大前提と言われる大きな課題がひとつクリアされる形となります。

スルガの脱創業家一族経営に関しては、大きく2つのポイントがあると言われてきました。ひとつは創業家の持ち株を誰が買い取るのかという問題であり、もうひとつは創業家とその関連企業がスルガ銀行から借り返済が滞っている、融資金約450億円の回収問題です。

前者に関しては前述のとおり、現経営陣が慎重にことを進めながら、今般ノジマが一括で譲り受けるということでとりあえず決着。後者に関しては、やはり現経営陣が粘り強く創業家と折衝を重ね、創業家関連企業が所有する日本橋の同行東京支店ビルを売却し、株式売却資金と合わせ返済原資に充てるということで合意したといいます。

このように、表面上は一件落着といった感じに映る今回の一連の流れですが、果たしてこれでスルガの経営正常化ははかれるのでしょうか。

同業者にもそっぽ向かれる"スルガ銀支援"

ノジマは今回の株式買取でスルガの筆頭株主となり、銀行免許を持った企業を実質傘下に置くことで、クレジットカードビジネスの共同プラットフォーム化や、既に傘下に置いているインターネット接続プロバイダーのニフティや、携帯電話販売大手ITXと連動しつつ、ノジマ本体が持つ200以上のリアル店舗も活用して、フィンテック絡みでの新時代の銀行業務に打って出るのが狙いと言われています。

しかし、その前に大きく立ちはだかるのが、創業家の無謀な経営で増え続けた総額約1兆円を超えると言われる不動産関連不適切融資問題です。かぼちゃの馬車事件を発端として設立された第三者委員会調査により大量の不適切融資案件が明らかになり、同行の不良債権比率は17年以前の4%台から18年9月に10%、19年3月には14%を超えるにまで膨らみました。

こうしている間にも延滞債権はなお増加を続けており、18年度決算段階で貸倒引当金1363億円を計上して赤字決算に転落した財務は、引当金が膨らんで泥沼化することもまだ十分考えられます。

筆頭株主としてスルガへの持分法適用子会社化も検討していると伝えられるノジマが、真っ先に取り組むべきは、不動産関連融資に代わるストックビジネスの収益源をつくることへの舵取りです。しかしながら基本的に物販業のノジマに、長期融資というストックビジネスに関してどれほどのノウハウがあるのか、いささか疑問視されるところであります。

そもそもノジマは昨年4.89%のスルガ株を市場から取得し、声高にスルガ支援の名乗りを上げていました。しかしこの段階で金融庁は、銀行の不良債権問題の解決にはストックビジネスとしての銀行業務を知り尽くした同業の銀行でなければ難しいと考え、ノジマの創業家株式買取には難色を示したといいます。

一方で、優良地銀で経営地盤がスルガとダブる静岡銀行や横浜銀行からは、スルガ支援をあっさり断られ、スーパー地銀を標榜するりそな銀行からもソッポを向かれてしまうのです。

困った金融庁は、公的資金の返済がいまだに完結していない新生銀行に白羽の矢を立て、説得に当たったわけですが、新生銀行がOKしたのは業務提携止まり。どこまで膨らむのか見当もつかないスルガの不良債権予備軍を目の当たりにしては、どこの銀行も出資を尻込みするのは当たり前の話なのです。

★「スルガ銀行『新生銀行と提携』報道の腐敗臭漂う裏事情」
https://blogos.com/article/379521/

” 金融素人“ノジマもまた同族経営企業

結局、銀行ではスルガ支援を受け入れるところはなく、残ったのは地銀支援の連合化による「第四のメガバンク構想」をぶち上げたSBIホールディングスと、ノジマでした。

島根銀行支援に名乗り上げたSBI証券には、金融庁は銀行がダメなら証券でもとメディアを通じてスルガ支援容認をリークしますが、「経営合理性を重視して、株価の高いところはやらない(SBI北尾吉孝CEO)」とメディアのインタビューを通じてやんわり断られてしまったのです。

結局最後まで残ったのは、金融素人集団のノジマのみ。それでも金融庁は、まずはスルガの再建に向けては何より創業家色の一掃を最優先すべきということで、今回のノジマによる創業家株の買取を渋々認めた、という流れが透けて見えてきます。

金融業務ノウハウ不足以外にも、ノジマがスルガの再建を主導する不安要素はあります。それはノジマもまた同族企業であり、ガバナンスが十分に効いているとは言い難いという点です。それを象徴する出来事が、今年3月に報道されました。

ノジマのオーナー社長である野島廣司社長が、グループ約2000人の社員が閲覧出来るイントラネット上で、関連会社幹部を名指しで「使い物にならない」などと罵倒し退職に追い込んだという、事実ならば明らかなパワハラ事件です。

同社広報は事実関係を認めながらも社長を擁護する発言をし、ノジマホールディングスは、東証一部上場企業として指名委員会が存在しながら全く音無の構えでスルーしました。オーナーの強権ゆえに、ガバナンスが機能していないと言えそうな出来事です。

ノジマにスルガ銀再建を託す金融庁の判断に不安も

ノジマは創業家二代目の廣司氏が社長を務め、御子息で40歳の三代目亮司氏がナンバー2の副社長で最重要関連会社ニフティの社長を兼務する、正真正銘の同族支配企業です。

結局のところ、上記のようなパワハラ問題がお咎めなしにまかり通ってしまうのも創業家の強力な一極支配が存在しているからです。 スルガが同じく創業家岡野一族の強力な一極支配によって迷走、不正融資がまかり通る組織風土を醸成して、大量の不良債権を生んだ構図と、あまりにも似ているとは言えないでしょうか。

オーナー家同族経営を粛清することが目的のオーナー家株式売却でありながら、その売り先が同じく、トップのパワハラがまかり通る一極支配の同族経営では、結局元の木阿弥となりはしないのか。慎重に慎重を重ねる金融庁が、そんなことをやすやすと見過ごすはずがありません。では、なぜノジマなのか。

金融庁はこの問題では、森信親前長官が「地銀の手本経営者」とまで持ち上げてしまった岡野一族支配を一日も早くゼロクリアしたい、その一念で早期の岡野一族の退場を強く望んでいました。

しかしながら銀行、証券に逃げられ、藁をもつかむ思いでノジマに頼ったと考えるのが正しいように思えるのです。場当たり的にノジマが、スルガ再建策メインステージへ登場することが、果たして吉と出るか凶と出るのか。金融機関に身を置いた立場からは、不安の方が圧倒的に大きいとみています。