※この記事は2019年10月22日にBLOGOSで公開されたものです

来年の東京五輪に暗雲が立ち込めている。

まずひとつはNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」である。もはや断末魔の様相を呈している。

ラグビーの裏で歴代最低視聴率を更新

10月13日の放送では平均視聴率が大河歴代最低を更新する3.7%(ビデオリサーチ調べ=関東地区)となったのだ。

同ドラマは、東京五輪の前年ということで「近代オリンピック」をテーマに、鬼才・宮藤官九郎のオリジナル脚本で挑んだものだった。制作スタッフは宮藤を含め朝の連続テレビ小説「あまちゃん」のスタッフ陣で臨んだのも当初は話題のひとつになっていたのだが…。

「確かに、この放送日(13日)は裏で『ラグビーW杯 日本対スコットランド』(日本テレビ)があり、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日)も2時間半スペシャルとして放送していました。とはいっても、NHKの金看板・大河ドラマですからね。まさかとは思っていましたが、もはや視聴率的には危険水域を超えてしまった感じでした」(放送関係者)

結果、「ラグビーW杯」の視聴率は39.2%で、日本が勝利を決めた時の瞬間最高視聴率は53.7%という驚異的な数字を叩き出した。ただ、そういった中でも「ポツンと一軒家」は16.4%を獲得していたのだが…。

それだけではない。フジテレビ「バレーボール2019男子 日本×イラン」は5.9%で、TBS「UTAGE!」も5.5%。ついでに、あのテレビ東京で放送していた「THEカラオケ・バトルスペシャル」でさえ4.2%だったことを考えると、もはや「いだてん」は問答無用の〝独り負け〟だったことになる。

クドカンの挑戦は視聴者不在

戦国時代や幕末が定番の大河ドラマとしては〝挑戦〟だっただろう。視聴者の中には「クドカンらしい見事な展開」とか「見続けていると面白い」と高く評価する声があったというが、さすがに3.7%では「その評価に実態はない」と言われても仕方ない。

実際には、〝語り〟でも登場するビートたけしの声が聞き取りにくいとか、内容の展開が目まぐるしくてわかりにくい…といった視聴者も多いと聞く。

スペシャル・ドラマだったらよかったかもしれないが、日曜日のゴールデンタイムに1年間かけて放送する――大河ドラマの企画では無理があったということになる。

例えば、朝のテレビ小説というのは、一人の女性の生き様を追うような企画が基本である。前作の「なつぞら」のヒロインは広瀬すずだったが、本来、朝ドラの場合は、色のついていない無名の新人女優を起用すべきだろうと思っていた。「あまちゃん」ののん(能年玲奈)なんかは、そういった一人だったと思うし、それが朝ドラの魅力だと思うが、脚本家も制作スタッフも視聴率を気にすると、そうも言っていられないのかもしれない。

それに対して、大河ドラマは「日曜の夜」という時間のドラマだけに、わかりやすいものでなければ視聴者に受け入れられない。そうなると戦国時代、それも一人の英雄を扱ったものというのは受け入れやすい。大河ドラマには「幕末もの」も多いが、基本的に幕末というのは登場人物も多く、一人の英雄の物語にならないだけに、大河ドラマの企画としては難易度が高い。それは「いだてん」にも言えることだろう。制作者のチャレンジ精神は認めるが、視聴者不在のチャレンジは絵に描いた餅になる。

N国党に目をつけられる?

しかし、大河ドラマの場合は1本の制作費が1億数千万円というだけに、ここまで数字が悪いと、さすがに「皆様のNHK」としては頭が痛い。朝ドラと大河、それに年末の「紅白」は、NHKにとっては受信料を取るための〝貴重なエサ〟になっているからだ。その一角が崩れたことになるだけに大ごとである。

苦肉の策として、急遽、20日にNHK-BSで放送する予定だったラグビーW杯準々決勝「日本×南アフリカ」を、総合テレビに移して「いだてん」を休止することになった。

その結果、日本は敗戦したとはいえ、41.6%という今年になって最高の視聴率を叩き出した。NHKの思惑は当たったことになる?

「一部には、NHKを敵対視している〝N国党〟対策なんていう声もありました。同党はNHKの予算はもちろんですが、大河ドラマの制作費に注目していますからね。とにかく党首の立花孝志氏の動向が気になっているはず。彼は参院埼玉選挙区補欠選挙(27日投開票)の候補者になっていますが、当選が危ぶまれるようになり、今度は神奈川県海老名市の市長選挙(11月3日告示、10日投開票)に出馬すると言い出しました。彼の場合は〝N国党〟の宣伝になると思ったら手段を選ばずにNHKを追及する可能性があります。ホリエモン(堀江貴文氏)まで仲間に引き込んだりしているわけですからね。さしあたり大河の視聴率について突っ込まれない対策を取ったと思います」(放送関係者)。

さらに、「五輪」をテーマにした大河ドラマがボロボロになっている一方で、1年を切った「東京五輪」までもが連鎖的に苦境に立たされている。何と、ここにきて国際オリンピック委員会(IOC)が、〝暑さ対策〟とやらで、五輪の花形競技であるマラソン、そして競歩を「札幌で開催したらどうか」なんて言い出した。東京都の小池百合子知事は「涼しいところと言うなら、北方領土でやったらどうか」なんて発言していたが、それでは売り言葉に買い言葉。IOCの札幌開催案は「決定事項」なのだろう。

「すでに、札幌での開催に向けてホテルや施設の確保は出来ていますよ」と関係者は言うが、「IOCが、そこまで〝アスリート・ファースト〟を唱えるなら、開催期間を遅らせて秋にしたってよかった」なんて皮肉も言いたくなる。

アスリートより米テレビ・NBCファースト

「五輪の大スポンサーは、米国のNBCです。すでに14年のソチ冬季五輪から夏冬10大会を日本円にして約1兆3000億円という巨額な放送権料で買っています。その米国では国民的競技であるアメリカンフットボールが秋に開幕してしまう。要は、7~8月が米国のスポーツコンテンツの空白期間なのです」(放送記者)。

つまり、〝アスリート・ファースト〟なんて単なる建前、IOCの掲げる「近代オリンピック」というのは、〝NBCファースト〟なのである。

それにしても、新国立競技場まで造っておいて、暑さ対策では300億円という多額の予算を費やし、いざ〝本番〟となったら、選手の意見すら聞かずに、IOCの事情だけで要の競技を札幌に持って行かれてしまったというのでは、あまりにも情けないのではないか。

大河も五輪も「視聴率が全て」であることは確かであるが、ここまで来ると、東京五輪を扱うのは〝鬼門〟と言うしかない。