「地球は地球人で守れ」円谷英二がウルトラマンに込めた人類へのメッセージ - 毒蝮三太夫
※この記事は2019年10月21日にBLOGOSで公開されたものです
台風19号、河川の氾濫が関東甲信越から東北にかけてあんなに広範囲になるとはな。堤防の決壊が47河川で66ヶ所だってね。暴風よりも暴水、堤防が決壊して冠水が起きる背景には、やはり何かしらの理由があるってことを改めて知らされたよ。そして人間の歴史は治水対策の歴史でもあるんだって。とにかく全国で被害に遭われ方々が一日も早く元の生活に戻れるよう願うばかりだ。
いい季節だったはずのラグビーW杯を襲った台風19号
そのさなかにラグビーW杯、中止になった試合もあった。俺ね、台風19号が来るまではラグビーW杯がこのシーズンに開催されて、選手も戦いやすいだろうし、観客も見やすいし、いい季節に開催したなって感心してたんだ。やっぱりスポーツは秋が一番、スポーツの秋だなと。
だって、もし8月の猛暑に開催して、あんな激しいプレーでぶつかりあったら選手の寿命が縮むよ。真夏に開催される東京オリンピックが不安だから、余計にラグビーはいい季節にやってるなって感じてたんだ。
ところが10月のこんな時期にあんな大きな台風が来ちゃう。もはやどんな季節だろうと異常気象はついて回るんだって思い直したよ。原因は地球温暖化だろ。海水の温度が高くなって台風が大きくなりやすくなってるんだろ。深刻だな。
地球温暖化ってことで言うと俺も実感があるよ。俺さ、ずっと続けてるラジオ「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」が1969年10月6日のスタートだから、この10月にちょうどまる50年を迎えたんだ。第1回目の放送が確か板橋の工場からの中継だったんだけど、今でも50年前のその時の様子を覚えてるよ。あのね、10月って今みたいに暖かくなかった、もっと寒かった。
俺の服装もさ、タートルネックにツイードの背広、フラノのズボン、どれも厚めの生地だった。マイクを持つ手も震えてたな。ま、それは緊張であがってたのもあったけどね。
あと、この時期は日蓮宗のお会式(えしき)っていうのがあるんだよ。日蓮聖人のご命日の法要行事だ。10月の11日から13日あたりで池上本門寺や堀之内のお祖師様(妙法寺)で行われるんだ。俺も池上本門寺のお会式によく行ってた。夜に万灯を持ってぞろぞろ練り歩いたりしてね。やっぱり寒かったよ。
自分自身の記憶を振り返ったって昔の10月上旬はもっと寒かった。それがあからさまにあったかくなってる。先日、熊本で落語会があってゲストに呼ばれたんだ。10月だってのに舞台で汗びっしょりかいちゃった。なんでこんな時期に汗かいてんだろって思ったよ。やけに暑いなって。俺は温度に敏感だよ。だってマムシは変温動物だからね、アハハハ。この温暖化、笑いごとじゃないよな。
大人の負の遺産に「許さない」 グレタさんのパワー
先月、国連の気候行動サミットがあったよね。スウェーデンから来た16歳の少女グレタさんが怒りに満ちたスピーチをして、世界中から注目を集めた。これまで地球温暖化に対して決定的な対策を取ってこなかった大人達を相手に、「あなた方は私たちを裏切っています。しかし、若者たちはあなた方の裏切りに気付き始めています。未来の世代の目は、あなた方に向けられています。もしあなた方が私たちを裏切ることを選ぶなら、私は言います。『あなたたちを絶対に許さない』」って。
先進国の大人達が積み上げてきた負の遺産を、私たち若い世代に押しつけるな、それは許さない、グレタさんはそう言ってる。グレタさんは北欧の人だから、温暖化でフィヨルドがどんどん溶け出しているのなんかも身近に感じてるんだろうな。それにしても世界を巻き込んだ彼女のパワーはすごかったな。あの16歳の感性とパワーを10年後20年後も保ち続けてほしいね。
その一方で、小泉進次郎さんも我が国の環境大臣として国連で発言してたね。「気候変動のような大問題に取り組むことは楽しく、クールでセクシーなことでしょう」って、浮ついたふうに聞こえることを言ってマスコミから突きあげをくらってたな。ここで言ってたクールでセクシーって「かっこよく、わくわくする」とかって意味なんだろ。どうあれ多くの注目を集める進次郎さんのパワーも大したもんだよ。
だけど進次郎さん、大臣になったことで色んな忖度を背負ってる感じがしたね。理想と現実の間でさ、今までは理想に近い側から発言できたけど、大臣になって現実の側に立たされちゃったからね。
進次郎節がポエムだっていいじゃない
進次郎さんにはさ、どうか今までどおりでいてほしいって俺は願ってる。大臣になって手足を縛られたような発言でなく、党内に対しても異議を申し立てたり、国民の温度を救い上げて言うべきことを言う、そんな進次郎節をこれからも聞かせてくれって願ってるんだ。そういう進次郎さんでなきゃ面白くないよ。
最近は進次郎さんのことを、発言に具体的な中身がない、まるで「詩人」だ、なんて揶揄する声もあるけど、いいんだよ詩人でも。だってさ、国会議員の中で、この人の発言を聞きたいって思わせる人、他にどれだけいる? 発言が気になる、発言を聞きたい、進次郎さんはそういう数少ない政治家の一人なんだ。言葉に魅力がある証だよ。
だけど、先日国会が始まった途端にずいぶんと腰が引けてたな。相手が辻元清美さんだったからな。辻元さんにつかまってあれこれ質問攻めされてさ、進次郎さんは「私は環境大臣なので」とか「議員個人ではなく現在は内閣の一員なので」なんて前置きして、答えを避ける場面が続いてたよ。なんだかずっと安倍さんの顔色を伺ってるような感じだった。
ああいう調子を続けてたらちょっと心配だな。安倍さんの顔色を気にして、言いたいことを言えなくなった進次郎さんだと魅力半減だよ。進次郎さんには大臣になる前の進次郎スタイルを貫いてほしい。そうしてまたいつか国連に行ってさ、そこでお父さんの小泉純一郎さんみたいに、「地球温暖化に賛成か反対か、反対するのは抵抗勢力だ!」なんて威勢のいいこと言ってほしいよ。
あとさ、河川の堤防強化は国土交通省の管轄だけど、進次郎さん、環境大臣なんだしこんなこと言ってもいいんじゃないの? 「河川の氾濫に賛成か反対か、反対するのは堤防勢力だ!」なんてね。全国の堤防の強化を押し進めるのに、いいスローガンになるかもしれないよ。
地球規模で抱く危機感 ウルトラマンシリーズの思想
地球温暖化のことを思うに人間社会ってさ、文明の進化と引き換えに、段々と地球を壊していってるよな。それで言うと、地球規模で危機感を抱いて、人間が人間の手で地球をどうにかしなきゃいけないっていうのは、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などウルトラシリーズを作った円谷英二さんの思想でもあるんだ。俺はウルトラマンのアラシ隊員であり、ウルトラセブンのフルハシ隊員として、円谷さんの信念を身近に感じてきた一人だからね。
半世紀も前に円谷さんは、地球に危機が訪れると宇宙からウルトラマンのようなヒーローが現れて地球を救う物語を描いたけど、その物語の裏には、ウルトラマンが来て地球を救うというのは作り話であり、現実にはありえないフィクションだぞ、ファンタジーだぞ、っていう主張が込められているんだ。
円谷さんはゴジラも創った。昭和29年(1954年)、米国はビキニ環礁で水爆の実験を行った。核兵器の開発に暴走する人間へのアンチテーゼであり、水爆実験による被爆者としてゴジラは生みだされたんだ。
昨今ハリウッドで製作されるゴジラはキャラクターがひとり歩きしてるみたいだけど、その原点は核兵器開発や環境破壊に対するアンチテーゼの象徴だ。円谷さんがウルトラシリーズやゴジラなどの作品に込めた思いは「地球は地球人で守れ」ってこと。
この円谷英二さんの思いをね、地球温暖化に立ち向かわないといけない現代に、改めて見直したいよ。
(取材構成:松田健次)