【ZOZOTOWNがソフトバンクグループのヤフー傘下に】ZOZO事業売却をめぐる前澤前社長の経営姿勢に疑問 - 大関暁夫
※この記事は2019年10月19日にBLOGOSで公開されたものです
ECサイト運営の風雲児、前澤友作氏率いるアパレル通販サイトZOZOTOWN(以下ZOZO)が、前澤氏個人の持ち株の大半を売却する形で孫正義氏率いるソフトバンク・グループのヤフー傘下に入ることが報じられ、物議を醸していました。
ネット上などで展開されている意見は賛否あるものの、今回の前澤氏の行動に批判的な意見で代表的なのは「事業の先行きが怪しくなったらから逃げた。経営者として無責任だ」「株価が下がって慌てて売却。結局のところ利益確保の売り逃げじゃないか」などというものです。
前澤氏は従業員への影響を真っ先に考えて動くべきだった
前澤氏のこれまでの「バスキアの絵画を123億円で購入」「月周回旅行を契約」「総額1億円のお年玉をプレゼント」等々の度重なる派手なパフォーマンスと、「株の売却総額は2400億円」と報じられたことで、やっかみ半分の意見も相当数あるのでしょう。
誤解の無いようにニュートラルな立場で申し上げておけば、今回の前澤氏の行動は事業売却という考え方によるM&Aの売り手であり、そのこと自体は正当な事業戦略のひとつとして責めを負うようなものではない、とは言えるでしょう。
しかしながら私から見た場合、マネジメント・モラルすなわち経営の姿勢には疑問を感じざるを得ません。特に問題視したいのは、今回の事業売却に際して、彼を信じ、彼を慕ってついてきた従業員たちのことを考えたのか、ということです。
現在の企業経営においてその根底で意識するべきSDGsや働き方改革の考え方に則るなら、企業経営はもはや株主利益一辺倒であるべきではなく、むしろ持続可能な目標達成を考え従業員の利益を優先する姿勢が求められてもいるからです。
ましてや自ら起業し、人を集め彼らの力を借りて業容を拡大してきた前澤氏は、ワンマン経営であるがゆえ経営権の譲渡に際しては、なおさら真っ先に経営権移行による従業員たちへの影響を考えるべきではないのかと。
すなわち今回の場合、例えばまず持ち株比率33%を越すところまでヤフーに株式を譲渡し、先方から経営陣を受け入れながら自らは社長職のまま共同経営体制をとりつつ、従業員にとって安定感のある経営権譲渡後の先行きが見えたところで全株を売却する等のやり方で、ことをすすめるべきだったのではないかと思うのです。
孫氏へ相談を持ちかけた流れはRIZAP再建を想起
今回の話が、前澤氏本人からソフトバンク・グループ総帥である孫正義氏に直接持ちかけられた話であったという点に、「おや、最近似たような話を聞いたぞ」と思い当たるものがありました。
以前このBLOGOSでも取り上げた個人指導トレーニングジム等経営のRIZAPの瀬戸健社長が、無謀なM&A戦略の失敗で苦境に立たされ、元カルビーCEOの松本晃氏に泣きついて共同経営者として招聘したあの一件です。
※ 「ライザップは子供経営から脱皮し、組織ダイエットにコミットできるのか」
瀬戸氏は御年41歳、松本氏は72歳。一方、今回のZOZO前澤氏は43歳、孫氏は62歳。松本氏や孫氏は、二人の若手経営者とはほぼ親子ほどの年の差と経験の差がある先輩経営者です。RIZAPの時に申し上げた「とても自力でこの窮地は乗り切れまいと、大人にヘルプを求め知り合いの叔父さんに『助けてください』と泣きついた」という構図は、今回も全く同じことのように映るのです。
新しい発想がウケて自らのビジネスモデルが大化けした子供経営者が、マネジメントのなんたるかも知らないうちにあれよあれよと大組織のトップに君臨。松本氏が「子供のおもちゃ箱」と称したRIZAPグループの買収戦略に対する比喩は、そのままZOZO前澤氏の行動にも当てはまります。ZOZOTOWN、高額絵画購入、宇宙旅行チケット購入、1億円のお年玉などは、まさに夢多き子供のお絵かきであったのかも、と思われるものでした。
そして両社長の子供経営は共に、イケイケの時は大量のイエスマンたちに支えられて急成長を遂げることができたものの、頓挫局面に相対すると子供の世界には相談相手がなく、経験豊富な知り合いの叔父さんにヘルプを求めた、と思えるのです。
松本氏の場合はプロ経営者なので、社内に入って一緒に立て直しに取り組んでくれましたが、孫氏の場合は最も野心的レベルの事業家であるがゆえに、「それならその壊れかけのおもちゃ、俺に売ってくれよ。自分で直して遊ぶから」という流れになったわけなのです。
「ZOZO社員の皆さん安心して」は誰からのメッセージか
話を冒頭に戻せば、何も疑うことなくガキ大将についてきて、知らぬ間に大人の親分の下に売り払われた子供たちは不憫です。前澤氏社長退任の翌日、突然ZOZOのホームページ上のカンパニーステートメントに、「いよいよ私たち社員が主役です」という異例のコメントが掲載されました。これは誰の意思で書き込んだメッセージであるのか。
掲載場所と内容から考えて、社員の意思でないことは確かです。最も考えられるのは、「ZOZO社員の皆さん安心して」と自身のSNSにも書き込んだヤフーの川邊健太郎社長。あるいは、置き去られ組を牽引する澤田宏太郎ZOZO新社長か。
いずれにせよ、ZOZO従業員の気持ちを察し、大量離脱を恐れてのメッセージなのではないでしょうか 。社員の気持ちを顧みることなく自己利益確保に走った子供経営者の尻拭いに、大人の経営が早速動き出したと読み取れるものです。
一方の前澤氏、社長のイスから降りた途端にしたことは自身のツイッターでの世論への反論。「これまでは上場企業の社長として言えないことがあったけど、今後はフェイク記事にはしっかりと反論していきます」とし、自身への「無責任経営」との批判に対して「失礼なことを言うなよ。ヤフーさんとの未来にかけたんだよ。経営判断。それが創業オーナーのできる最後の決断だよ。何も知らないくせに軽く言うなよ」と、必死の反論を展開しています。
ヤフーとの共同会見に立った前澤氏は、「43歳になってアタマも鈍っている。急いで新しい事業を興したい」と今後の抱負を語りました。私から氏の新しい門出に何か言葉を贈るとすれば、「43歳にもなったのですから、まずはもう少し大人にならないと、また不憫な社員たちをつくることになりますからご注意ください」といったところでしょうか。
同時に子供経営者が去ったZOZOには、ヤフー主導の大人経営の下でECサイトとしての復権と発展に期待したいところです。