【佐藤優の眼光紙背】第13回:2007年国際情勢の回顧 - 佐藤優
※この記事は2007年12月25日にBLOGOSで公開されたものです
2007年の国際情勢を回顧して、筆者が気づいた最大の特徴は、各国が自らの国益を露骨に表面に出す帝国主義外交の性格が顕著になったことだ。これは、19世紀末から20世紀初頭の古典的帝国主義外交が反復しているとの印象を受ける。帝国主義外交は、各国の露骨なエゴを外交交渉で調整し、勢力均衡を図ることが基本形であるが、外交交渉で妥協が得られない場合には、戦争という形態で問題を解決することもある。どうもこういう物騒な国際関係の「ゲームのルール」が定着しかけている。このような状況を端的に示しているのが、2007年9月6日のシリア空爆である。事実関係として、イスラエルがシリアの施設を空爆したことは明らかだったが、それが何の施設であったかについては、イスラエル、シリアはもとよりアメリカも完全に沈黙を守っている。一部の北朝鮮の技術協力を得て建設されたシリアの核施設が破壊されたとの報道がなされた。もっとも守秘義務の縛りをかけてアメリカ議会の一部議員に、アメリカ政府は相当踏み込んだブリーフィング(事情説明)をしている。筆者のところには、断片情報しか入ってきていないが、シリアの核施設をイスラエルが空爆で破壊したというのは、真相からそう離れていないと思う。
この事件以後、アメリカが「棲み分け外交」を強化している。つまり、シリア、イランには、戦争も辞さずとのシグナルを送り、核開発を断念させる。これに対して、北朝鮮に対しては、「イラン、シリアに対して核技術を移転しないならば、金正日体制が継続することを保障する」という取り引きを持ちかけている。
イランが核武装することになれば、イスラエルとの間で戦端が開かれ、それが第三次世界大戦になることをアメリカは本気で心配している。10月17日、ホワイトハウスの記者会見で、ブッシュ米大統領が「第三次世界大戦を回避するために、イランが核兵器製造技術を入手する事態を阻止することを考えなければならない」と述べたことは、レトリック(言葉遊び)ではない。アメリカは本気で中東発の第三次世界大戦を心配しているのだ。
アメリカが外交が極端な中東重視路線を明確したのに対し、ロシアは旧ソ連諸国におけるロシアの影響力を一層拡大している。ロシアがイランとの原子力協力を深めているのも、アメリカに対してイラン問題でもつことができるカードを増やしたいからである。ロシアのプーチン大統領は、イスラーム原理主義者のアフマディネジャード・イラン大統領を信頼していない。従って、対米交渉上必要となれば、いつでもイランを切り捨てる。イランもそのことは十分理解した上で、ロシアカードを利用している。
中国は、共産党第17回全国大会で、規約に「科学的発展観」を新に盛り込み、帝国主義的な影響力拡大の準備をしている。
そのような状況で、日本政府は時代の転換を見抜くことができず、的確な外交戦略を組み立てることができなかったというのが、残念ながら2007年の日本が置かれた状況だった。(2007年12月24日脱稿)
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。