※この記事は2007年12月04日にBLOGOSで公開されたものです

 12月2日に行われたロシア国家院(下院)選挙では、プーチン大統領を名簿第一位に載せた与党・統一ロシアが総議席の3分の2以上を獲得する見通しである。今回の選挙から、一人区が廃止され、全国比例代表区のみになった。しかも、小党乱立を防ぐために総得票の7%を下回る政党は議席を獲得することができない。今回、このハードルを越えることができるのは、統一ロシア、自由民主党、公正なロシア、共産党の4党だけになりそうである。この中で、野党的傾向をもつのは共産党だ。親欧米、改革派系の右派勢力連合、ヤブロコは2%程度と伸び悩んでいる。

 投票率は60%を超える見込みである。これは、ロシアの現状では、かなり高い投票率と見てよい。ロシア人の選挙に関する見方は、欧米と異なる。「悪い政党」、「とても悪い政党」、「とんでもない政党」の間で、どれかを選択せよと問われているので、「とても悪い政党」と「とんでもない政党」を民意によって排除するのが選挙であるとロシア人は腹の中で考えている。従って、プーチン与党の統一ロシアに対する支持も消極的支持なのである。

 今回の国家院選挙は、来年3月に行われる大統領選挙の予行演習としての性格を帯びていた。統一ロシアが圧勝したことで、プーチンが指名する次期大統領候補が、大統領選挙で当選する可能性が著しく高まった。統一ロシアは、12月17日頃に党大会を開く予定であるが、ここでプーチンが次期大統領候補を指名するとの観測がモスクワでは強い。

 仮に誰が次期大統領になろうともプーチンの影響力は残る。プーチンと側近グループは、「プーチン20年王朝」の建設を真剣に考えている。2012年の大統領選挙にプーチンが立候補し、二期連続当選を果たすというシナリオだ。そうなると実質的にプーチンは2000年から2020年までの20年間、権力の座にいることになる。

 プーチンが強力な権力を打ち立てようとする今こそが北方領土解決のチャンスだ。アフガニスタンから中央アジアに浸透するイスラーム原理主義過激派を阻止する戦略的提携を日露が強めるのだ。特にタジキスタンにおける日露協力は大きな意味をもつ。このような対テロ国際協力と北方領土問題の解決を組み合わせた戦略的思考が現在の日本外交に求められている。(2007年12月3日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。


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本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧