※この記事は2007年10月23日にBLOGOSで公開されたものです

 10月15日から北京で開かれていた中国共産党第17回大会が21日、今後5年間、中国を指導するエリートとなる中央委員204名と中央委員候補167名を選出し、閉幕した。

 中国における共産党が占める位置は、日本やアメリカにおける与党とは根本的に異なる。政党を英語でパーティー(political party)と言うことからも明らかなように、政党は社会の利害を部分的に代表する存在である。そして、複数の政党が国会で討議し、妥協することで、国民の利害の均衡点を見出すというのが議会制民主主義の「ゲームのルール」だ。しかし、中国共産党は日本やアメリカの政党とはまったく異なる機能を果たしている。共産党が国家そのものなのである。

 こういう中国の独自の政治文化は、外交にも現れている。靖国問題や中国における反日ナショナリズムの高揚をどう抑えるかなどという重要問題については、中国外交部(外務省)といくら議論をしても、大きな効果は期待できない。中国共産党中央対外連絡部(中連部)にきちんとした問題意識を持たせ、共産党から外交部に指令を出させなくては、中国の外交政策を変化させることはできないのである。

 中国共産党大会について、日本のマスコミでは、曽慶紅国家副主席(68歳)が中央委員から外れ、胡錦涛体制が一層強化されたという人事面の報道が目立つ。しかし、これらの人事は規定方針を踏襲したもので、特にサプライズはなかった。むしろ、「科学的発展観」を盛り込んだ共産党の新規約が採択されたことが重要である。中国のような大国家を維持するためには国家統合のイデオロギーが必要である。科学的発展観は、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想と齟齬を来さないように注意しつつ、21世紀の中国に新たな国家神話を構築する試みであると筆者は見ている。中国共産党の説明によれば、科学的発展観の骨子は以下の通りである。

<科学的発展観はわが国の現代化建設を導く全く新しい理念である。その基本的内容は二つで、一は全面的な発展、二は協調のとれた持続可能な発展というものである。全面的発展とは、経済、社会、政治、文化、生態環境など各方面の発展に着目すること。協調とは、各方面の発展が互いに結びつき、互いに促進しあい、良性的連動性を持つこと。持続可能な発展とは、当面の発展における必要性を考慮し、現在の人々の基本的必要を満たすとともに、将来の発展の必要性をも考慮し、後の世代のためにも考えることである。

科学的発展観の中核は人間本位であり、中国共産党の第16期中央委員会第3回全体会議(佐藤註 2003年10月)で採択された『中国共産党中央の社会主義市場経済体制の健全化に関するいくつかの問題についての決定』の中で初めてはっきりと提出されたものである。(2007年10月15日、人民日報日本語版http://j.peopledaily.com.cn/2007/10/15/jp20071015_78065.html)>

 要するに中国が一つの生命体として、発展していくという考え方だ。この背後には社会ダービニズム的発想があると筆者は見ている。社会ダービニズムとは、適者生存の法則に従って、強者だけが生き残っていくという発想だ。この考え方で中国が進むと、冷戦後の唯一の超大国で、自由と民主主義という正しい理念が全世界で勝利するという、社会ダービニズムをもつアメリカと必然的に対決することになる。対決のシナリオをきちんとシミュレーションする必要があると、中国共産党大会の結果を見て痛感した。(2007年10月22日脱稿)
 

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
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本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。