※この記事は2007年10月18日にBLOGOSで公開されたものです

 私的録音録画補償金制度の見直しのために、文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」が9月の26日に行なった「第13回会合」での、文化庁著作権課、川瀬真氏の発言が、ネット上で問題視されている。

 INTERNET Watchが報じるところによると、川瀬氏は一部の新聞や雑誌で「YouTube」などの動画共有サイトの閲覧も著作権法第30条「私的使用のための複製」から除外され、違法になると報じられていることに対し、「視聴のみを目的とするストリーミング配信は一般にダウンロードを伴わないため、動画共有サイトを視聴するだけでは違法行為にはならないとする見解を示した」ということである。
 それに対して委員の一人であるIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏が、キャッシュとして保存されることも違法となるのかと質問したところ、川瀬氏が「それが複製にあたるかどうかの知識はない」と前置きをして答えたことから、ネットユーザーから「ストリーミングがダウンロードを伴わないなんてことはない。このような知識のない人間が、法改正を行なおうとするのはとんでもない。」と、批判の声が上がっている。

 ストリーミングというのは、ネット上からダウンロードしてきたデータを、すべてダウンロードし終わらなくても、暫時先頭から閲覧できるようにするための仕組みである。これによってユーザーはダウンロードの終了を待たなくても、動画や音声ファイルを視聴することができるようになり、時間の節約になる。
 その際にダウンロードされたデータはハードティスク上に「キャッシュ」という形で保存される。とはいっても、その中身は動画や音声ファイルそのものなので、それをコピーすることは簡単にできる。
 と、こうしたパソコンの基本的な知識を有しているネットユーザーの目には、川瀬氏の発言が無茶苦茶なものに映るのもあたりまえのことだ。

 しかし、この文脈で話し合われていることが「著作権法第30条
私的使用のための複製」の問題であることを考えれば、ここで使われているダウンロードという言葉は「(私的使用ではない)複製を目的としたダウンロード」という意味であると考えられる。
 その一方でキャッシュは、あくまでも「視聴の為の一時的蓄積としてのキャッシュ」であり、これを複製とするか否かは、これまでも繰り返して「複製」の定義の問題として著作権分科会内で話しあわれている。そして今のところは「RAMやキャッシュサーバーへの蓄積など(一時的蓄積)は、複製権の対象である「複製」ではない」と解釈されている。
 確かにここで使われた「ダウンロード」という言葉は、PCを利用するうえでの一般常識としてのダウンロードとは異なった意味で使われているが、私としては川瀬氏の発言は無知から出たものではないと考えるし、それに疑問を呈す津田氏の発言も当然のことのように思う。
 なんにせよ、こうした討論が表に上がってくるということは、委員会内においての議論が活発な証拠であり、けっして悪いことではなく、単純に反発するにはあたらないだろう。

 ただ、やはり最近の「著作権法改正のための議論」全般については、やはり著作権者の利益をむやみに拡大し、利用者の利便性を必要以上に損なう傾向が強い。特に地上波デジタル放送の録画複製に関する制限は、あまりにも馬鹿げている。
 今回の件は川瀬氏には気の毒だったと思うが、これを機に、ネットの世界にも深くかかわっている著作権問題全般について、問題意識を持つ人が増えてくれれば幸いである。


INTERNET Watch:「法改正後はYouTube見るだけで違法」は誤解、文化庁が見解示す
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/09/26/16991.html

プロフィール:
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。