境界性パーソナリティ障害とは?治療を受けるには何科を受診したら良い?

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さまざまな精神疾患が解明されていくなかで、「境界性パーソナリティ障害」という言葉を耳にすることがあります。

「境界性パーソナリティ障害ってどんな病気?」と詳しく知りたい方に向けて、境界性パーソナリティ障害の特徴や傾向について解説します。

受診する科や治療方法についても紹介するため、参考にしてみてください。

監修医師:
工藤 孝文(医師)

みやま市工藤内科 院長・糖尿病内科医・漢方医・統合医療医。福岡大学医学部を卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。現在は、福岡県みやま市の工藤内科にて、糖尿病内科・ダイエット外来・漢方治療を専門に、地域診療を行っている。NHK「ガッテン!」「あさイチ」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビ出演多数。著書は50冊以上におよび、Amazonベストセラー多数。YouTube「工藤孝文のかかりつけ医チャンネル」が現在人気を集めている。
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本肥満学会・日本東洋医学会・日本抗加齢医学会・日本女性医学学会・日本高血圧学会、日本甲状腺学会・日本遠隔医療学会・小児慢性疾病指定医。

境界性パーソナリティ障害とは?

境界性パーソナリティ障害とはどんな病気ですか?

境界性パーソナリティ障害とは、物の考え方に極端な偏りが見られるパーソナリティ障害のひとつです。パーソナリティ障害にはさまざまなタイプがありますが、境界性パーソナリティ障害はB群の感情的タイプに分類されます。

境界性パーソナリティ障害の方の根底にあるのが「孤独への恐れ」です。人に見捨てられたくないという思いから他者に優しく尽くす方が多いのが特徴ですが、相手が離れていったり自分が蔑ろにされていると感じたりしたときに敏感に反応します。

たとえば、約束を急にキャンセルされた場合などに怒りを発動します。相手が離れていくのではないかという不安からパニックとなり、自分は相手から拒絶されていると解釈してしまうのです。拒絶されたことに対する恐れから怒りをコントロールできなくなり、衝動的な行動・相手をつなぎとめておくための自傷行為に及ぶこともあります。

人格障害ともいわれているようですが、実際人格と関係があるのでしょうか?

境界性パーソナリティ障害は人格障害といわれることもありますが、性格が悪い・不道徳ということではありません。

境界性パーソナリティ障害は極端に偏った考え方や行動パターン全体を指すものです。多くの人と同じ反応ができないことで、まわりの人を困らせてしまうことがあると判断された場合にパーソナリティ障害となります。

「人格」と聞くと改善することが難しい障害と思われがちですが、性格の問題ではないため十分に改善が見込まれる病気です。

発症する明確な原因を知りたいのですが…

主な原因は遺伝子と幼児期の環境が大きく関わっているといわれています。生活の中でストレスに反応しやすい遺伝傾向を持っている方や、有症者の家族間で受け継がれていく可能性が高いです。

また幼児期に受けた虐待やネグレクト・親の過干渉が症状を引き起こすきっかけになることもあるといわれています。パーソナリティ障害の背景に発達障害が隠れている場合もあり、対人関係が円滑に築けない経験が積み重なることでパーソナリティの形成に影響を及ぼすことがあります。

いずれにしても発見が遅れると本人の苦しみが増し、まわりの方からの手助けが難しくなることもあるため早期発見が重要です。

境界性パーソナリティ障害の特徴や傾向

どんな症状がみられた場合に診断されますか?

境界性パーソナリティ障害は不安定な気分や移り気など、感情に関係する症状が出やすいのが特徴です。代表的な症状としては、恐れ・怒り・変わりやすさ・衝動的行為・自傷が挙げられます。

診断には9つの診断基準があり、このうち5項目に当てはまるようであれば境界性パーソナリティ障害と診断されます。たとえば人に見捨てられないように過剰な努力をする・感情の不安定さ・不適切な怒りなどです。ときに極度のストレスによって妄想的思考や幻覚などの症状も見られることがありますが、これらは一時的なため深刻にならなくてもよい場合がほとんどです。

症状のひとつに挙げられる自傷行為は相手をつなぎとめておくことを目的に行う場合がほとんどですが、深刻な状況になる自傷行為に対しては命に危険が及ばないような対策をする必要があります。

他の病気の症状も発症する場合があると聞きます

境界性パーソナリティ障害の方の多くは、うつ病・不安症・心的外傷後ストレス障害・摂食障害・物質使用障害などを併発する場合があります。

境界性パーソナリティ障害によって対人関係などがうまくいかずにストレスとなり、他の病気を起こしてしまうことがあるのです。薬物やアルコールへの依存もその類のもので、衝動が抑えられなくなり人ではなく物に依存し始めてしまうこともあります。

依存症やうつ病など別の病気で病院を訪れたところ、実は境界性パーソナリティ障害が隠れていたというケースも珍しくありません。自分を責めるのではなく、まずは病気だと認識することが非常に大切です。

男女でなりやすさは違うのでしょうか?

米国の研究結果では女性の方が発症する確率が高いようです。米国の推定有症率は1.6%とされていますが、有症者の75%が女性という研究報告があります。

なかでも10代後半から20代の若い女性に多い病気ですが、30~40代の患者様も増えていて平均年齢が上がりつつあります。

境界性パーソナリティ障害の治療

治療を受けるには何科を受診したら良いですか?

精神科もしくは心療内科で診断ができます。

いきなり病院を受診することに抵抗がある方は「精神保健福祉センター・保健所」「こころの健康相談統一ダイヤル」などの相談窓口に相談するという方法もあります。

受診前にすべきことはありますか?

食事や睡眠などの生活習慣を整えて、アルコールを摂取する習慣がある方は控えることをおすすめします。アルコールは心のブレーキを緩めて衝動を抑える力が鈍くなる可能性があるからです。

自傷行為に及んだことがあるもしくは及ぶ危険性がある方は、家族やまわりの人に頼んで危険物を管理しておいてもらいましょう。

受診前に危険な状態になった場合の対処法を教えてください。

深刻な自傷行為や自殺未遂行為があった場合には、直ちに救急車を呼びましょう。

たとえば出血が止まらないような自傷行為や薬のまとめ飲みなどです。

衝動的にこのような行為に及びそうになったときには、相談できる人や機関があればすぐに相談しましょう。

どんな治療が必要になりますか?

精神療法が中心の治療となります。まずは自分の考え方や行動を自己認識するところから始めて、問題となる行動を理解します。

問題行動の対処を見つけて積み重ねていくことで改善が見込める病気です。精神療法を受けたからといってすぐに改善するものではなく、ゆっくりと紐をほどくようにして治療を続けていきます。

他の症状を併発している場合や医師が必要と判断した場合には、補助療法として薬物療法が適用される場合があります。

そうなんですね。治療の副作用はありますか?

境界性パーソナリティ障害で用いられる薬は主に気分を安定させる薬・抗精神病薬・抑うつ薬です。

抗精神病薬には体重増加や高血圧・血糖値の上昇がみられる場合があります。

抑うつ薬は初期に吐き気や下痢・頭痛などの症状が出ることがあります。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

境界性パーソナリティ障害を抱えている方は対人関係のトラブルが起きやすいため、仕事や学校生活を送ることに難しさを感じている場合があります。

衝動が抑えられずに怒りをぶつけたり衝動的な行動に走ったりした後に、罪悪感から自分を責めてしまう方もいます。罪悪感や自分を責める気持ちが病状をさらに悪化させることがあるため、注意が必要です。

「生きづらさ」を感じることがある方は1度専門科を受診してみることをおすすめします。

編集部まとめ


境界性パーソナリティ障害とは「孤独になりたくない」という恐れからくる怒りや衝動・精神の不安定さのことです。

人格障害といわれることもありますが、精神療法を続けていけば症状の改善が期待できます。

「境界性パーソナリティ障害を抱えている」と認識することで、治療への一歩が踏み出せるのかもしれません。

まずは精神科や心療内科などの専門家に相談をしてみましょう。

参考文献

境界性パーソナリティー障害ってどんな病気?|専門医が語る!境界性パーソナリティー障害

境界性パーソナリティ障害(BPD)|MSDマニュアル 家庭版

境界性パーソナリティ障害(BPD)|MSDマニュアル プロフェッショナル版