IKEA風料理を振る舞う彼女にウンザリして、つい…
「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね？」
そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。
彼女たちは若さにおごらず、 日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。
男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。
でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。
▶前回：ロブションで迎える30歳の誕生日ディナー。なのに男にプロポーズされない女のNG行為とは
Vol.3 楓、29歳。結婚するなら料理上手な女性がいいよね？
「俊平くん、おかえり！遅かったね」
私は、リビングのドアが開くのと同時に顔をあげる。
彼氏の俊平は私より3つ年上。32歳の若さで大手美容クリニックの副院長を任されている、自慢の彼氏だ。
「ただいま！楓もまだ食べてないなら、シャワーは後の方がいいかな？」
「うん。今ちょうど出来上がったところなの！手、洗ってきて」
テーブルセッティングをしながら、私はルンルン気分で答える。まるで新婚夫婦のようなやりとりに、思わずニヤついてしまう。
同棲して半年になるが、夕食はほとんど自炊で、担当は私。
決して俊平にお願いされたわけではなく、私が料理好きなので自然とそうなった。
私は会社員で日中働いているが、17時半には終わるから時間は十分にあるし、毎日料理することは、全く苦ではなくむしろ趣味に近い。
Instagramに毎日料理をアップしていて英語でも投稿に説明を入れるようにした途端、日本人以外からの“いいね”が一気に増えた。
それが嬉しくて、最近は様々な国の料理に挑戦している。
「今日も品数がすごいなぁ。いただきます！…ん？これは…炊き込みご飯？」
「知らないの？ビリヤニだよ。インド料理！スパイスもこだわりの一品なのです、どう？」
私は、俊平の顔を可愛くのぞき込んだ。
彼氏の俊平に結婚をさらに意識してもらうために、楓が計画したこと
「うん、食べたことない味だけど、スパイスがかなり効いてていいね」
「よかった〜〜！」
Instagramでの反応も相まって、作ってみたいものに次々とチャレンジしていたら、なんだか多国籍料理になってしまった。
だけど、俊平が喜んでくれて思わずほっとする。
それに俊平に女性のタイプを聞いたとき、『家庭的な女性』と言っていた。だから、容姿に気を使うだけでなく、料理上手であることも必須項目だろう。
― そう、毎日彼のためにキッチンに立つことは、間違いなく、結婚につながると確信している。…俊平は、いつ結婚の話をしてくれるのだろうか？
◆
後日、夕食後に、私は俊平にある提案をした。
「ねぇ俊平、今度ホームパーティーしない？お互いの友達呼んでさ！」
私たちの関係がなかなか次のステップに進まないので、友人の力も借りて俊平に結婚を意識してもらおう。そうひらめいたのだ。
「いいけど、誰呼ぶの？」
そう聞かれ、料理が得意そうではない友達の顔を思い浮かべる。
そして瞬時に、私に憧れてくれているユキが適任だと判断した。彼女なら、私の料理も褒めちぎってくれるに違いない。
なぜなら、最速で結婚するための私の最大のアピールポイントは、俊平のために腕を磨いてきた手作り料理だからだ。
確かユキは独身で彼氏もいなかったはず。できれば俊平の友達もフリーの人が良い。
そのことを俊平に伝えると快諾してくれ、早速、翌週の週末にホームパーティーを開催できることになった。
「楽しみだね！何作ろうかな〜」
「簡単なものでいいよ。たまには楓もゆっくりお酒飲んだりしたらいいじゃん」
俊平に相槌を打ちながらも、私の頭の中は当日何を作るかでいっぱいだった。
「彼と結婚するために…！」手料理に執念を燃やす楓。肝心の俊平は？
「おじゃましま〜す」
週末。俊平の友達の幸太郎が元気よく挨拶してきた。
「楓、久しぶり。お誘いありがとう」
ユキもほぼ同時に到着した。
◆
「じゃじゃーん！私、最近は北欧の料理にハマっていて。今日はスウェーデンにしてみました」
私は、サーモンマリネ、マッシュポテトを添えたミートボール、アンチョビのポテトグラタン、ケバブピザをテーブルに次々と並べていく。
「おぉ、なんかIKEAみたい！すごいですね」
幸太郎が目を丸くしている。私は、俊平をチラッと確認するが、嬉しそうに微笑んでいる。
「本当すご〜い！昔から料理好きだったもんね。私なんてお肉焼いて野菜炒めて…とかだよ。恥ずかしい」
ユキも予想通りしっかり褒めてくれた。
「いやいや、そういう料理が男は好きよ」
俊平が言う。私の友達へのフォローも欠かさないところは、さすが私の彼氏だ。
幸太郎が持ってきてくれた赤ワインはミートボールとの相性がよく、会話も弾み、ユキが買ってきたハーブスのミルクレープをみんなで食べて会はお開きとなった。
― きっと俊平は、料理上手な彼女のありがたみを再確認し、結婚を意識するわね。
「ねぇ、私こうやってずっと俊平にゴハン作り続けていたいな」
「はは。嬉しいけど、そんなに無理しなくていいよ。そうだ！来週のどこかで近所にできた焼肉に行こうよ」
「それならお肉買ってきて家で焼く？オリジナルの下味つけてあげるよ！」
「それもいいけど、たまには外食しない？」
― それって、私の手料理に飽きたってこと？
そう思ったが、久しく外食もしていないし、渋々了解する。
楓との結婚を考えられなかった理由〜俊平の場合〜
「あのさ、お前の彼女の友達、ユキちゃんだったよね？」
仕事終わりに、同じクリニックで働いている幸太郎が白衣を脱ぎながら尋ねてきた。
「そうだけど。なに、気に入った？普通の子って感じだったけど」
「そこがいいんじゃん！なんか毎日味噌汁作ってくれそうだし」
幸太郎は楓の友達のユキに興味を持ったようだ。
言われてみれば、ずっとにこにこしながら聞き役に回り、楓や俺たちのことも褒めてくれた。
それに、味噌汁を作りそうな、いい意味で家庭的な雰囲気があったことを思い出す。
「それよりお前さ、楓ちゃんと結婚する気あんの？IKEA風料理で、“私いい妻になります”アピールすごかったじゃん」
幸太郎に冗談交じりにからかわれ、俺は楓の手料理のことを相談することにした。
彼女が毎日夕飯を作ってくれるのは、もちろんありがたい。しかし、最近は食べたい料理がほとんど出てこないということ。
それと、自分では料理上手だと思っているようだが、色んなスパイスが効いた多国籍な料理はイマイチ味が好みではない、ということを。
この2点は、俺の中で大きな問題で、幸太郎も同情してくれた。
「でもまったくメシ作らない女より全然いいけどな」
「いや、そんな女性とは俺はそもそも付き合わないわ」
「まぁ、それもそうか」
母親が作ってくれたような家庭料理を、好みの味付けで食べたいというのが男心。
色々作ってくれるのは嬉しいが、世界中の料理が食べたいということではないのだ。
それならば素材や調味料、例えば出汁や醤油、味噌などにこだわってほしいと思ってしまう。
楓が毎日頑張ってくれているのはわかるし、この点以外は好きなので今すぐ別れるつもりはないが、結婚となると考えてしまうのが本音だ。
「たまにはサクッと行くか？」
「行く。おばんざいみたいなのをつまみにして、飲めるとこがいいな」
楓に会食だと嘘の連絡をして、幸太郎とクリニックを出た。
俺が今思っていることを伝えて、もしも楓と険悪になるのなら…。別れた方がいいのかもしれない。
きっと楓の手料理をもっと喜んでくれる男性はいるだろうから。
▶前回：ロブションで迎える30歳の誕生日ディナー。なのに男にプロポーズされない女のNG行為とは
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