「あなたの息子とはご無沙汰です！」孫の催促をしてくる姑に、驚愕の真実を伝えたら… 【夫と私とサチ子 vol.12】
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―？
◆これまでのあらすじ
将暉と依然としてレスが続く春乃。カウンセリングを受けることを提案するも、将暉から拒否されたので、サチ子に相談しようとしていて…。
Vol.12 レスの悩みを姑に打ち明けたら・・・
1月上旬の土曜日。
私は、義母のサチ子と2人で赤坂の日枝神社を訪れている。
サチ子から「子どもを授かれるように祈願しに行きましょう」と誘われたのだ。
「今年こそきっと授かれるわよ、ね？春乃さん？」
参拝を終えて、授与所で子授矢を購入したサチ子が話しかけてくる。毛皮のコートに身を包んでいる彼女は、いつもに増して迫力がある。
「だといいんですが…」
「春乃さんは、1度きちんと不妊治療専門のお医者さまに診てもらうべきだと思って、お友達におすすめのクリニックを聞いてきたのよ」
― 何で、子どもができない原因が私にあるって決めつけるのよ。
病院に行くのが“将暉と私”ではなく、あくまで“春乃さん”であることに、一瞬イラッとする。
でも今日は、サチ子にレスのことを告げる覚悟でやってきたのだ。
「お義母さま、子どものことでお話したいことがあります」
「やだ、なに〜？」
「ここではお話しにくいので、場所を変えましょう。このあと一緒にランチしませんか？」
「いいわね！」
突然サチ子は、ウキウキし始める。
私は、彼女を連れて足早に赤坂Bizタワーにある『ざくろ』へと向かった。
とうとう、義母にレスのことを切り出した春乃。サチ子の反応は・・・？
「春乃さんの話って、もしかしておめでたかしら〜？」
店に着いてオーダーを終えると、サチ子は、期待に満ちた表情で問いかけてきた。
― それで浮き足立っていたわけね、本当にプラス思考なんだから…。
これから告げる話がサチ子の期待とは真逆であることに、申し訳なさを感じるが、気持ちを奮い立たせた。
「実は、将暉さんとはずっとレスです。なので、子どもはできようがないんです」
「えっ、どういう意味？」
サチ子は、困惑した表情を浮かべている。
「結婚式の少し後から、将暉さんに夜は拒絶されるようになってしまって。もう半年以上、手も繋いでいません。ずっと黙っていて申し訳ありません」
頭を下げたタイミングで、オーダーした名物の牛ロースバタ焼きが運ばれてきたので、話は一旦中断となった。
このあと「春乃さんに魅力がないせいだ」と怒られるかもしれない、と思うと緊張感が走る。
「夫から拒まれてるなんて、恥ずかしいじゃない。人に言えなくて当然よ」
スタッフが去ったあと、サチ子が放った率直な言葉に、傷口に塩を塗りこまれた気分になる。
「もちろん、恥ずかしい気持ちもありました。でも、それ以上に、将暉さんのプライドを傷つけたくなかったし、お義母さまをがっかりさせたくなかったんです」
「春乃さんなりに気を使ってくださってたのね。それで、まあくんは何て？」
「はっきりとは言いませんが、心理的なことが要因していると。それで、専門家のカウンセリングを提案したんですが、絶対に嫌だと断られました」
「なるほど…」と言いながら、真剣な様子で私の話に耳を傾けているサチ子。
そして、彼女は意外な言葉を発した。
「カウンセリングに行こうとしないのは、問題を直視しないほうが、楽だからよ。まあくんの悪い癖ね
「えっ？」
「まあくんはね、とっても優秀だけど、昔から楽な道に逃げる子なの。大学受験なんて最たる例ね」
将暉は、彼の父親の出身大学である東京大学への進学を希望していたが、高校3年の夏の模試の結果がふるわないと、いとも簡単に諦めたという。
「亡き義母は、まあくんは、当然将来は東大に進学すると思っていたの。だから、『挑戦もしないで逃げ出すなんて、サチ子さんの育て方が悪いんだ』って、散々罵られたわ」
「そんなことがあったんですね」
サチ子が、やたら私の学歴を悪く言ってくるのが引っかかっていたが、将暉の祖母から受けた心の傷がそうさせたのかもしれないと思った。
「でも、いい夫婦関係を築くことから逃げ出すなんて、許されないことよ」
「それでこれから私は、どうしたらいいと思いますか？」
少し考えたあと、サチ子は、力強く言った。
「まあくんは頑固なところがあるから、春乃さんの提案を一度断っている以上、あなたが何を言っても聞かないと思うの。私が、何とかしてみせるわ」
「いや、でも、私がお義母さまに話したことを知ったら、将暉さんが何ていうか…」
「大丈夫、任せて！私は、デキる女だから」
そう言った瞬間、サチ子は、スマホを手に取り将暉にLINEのメッセージを作り始めた。
彼女が力を貸してくれることになったのは、嬉しいことだが、急な展開に戸惑いもある。
でも、今はサチ子を信じるしかない。
私は、祈るような気持ちで、将暉にLINEする彼女を見つめていた。
サチ子が将暉を呼び出し、レスのことを追求したら・・・
◆
翌日。
「母さんから2人で昼飯を食べようって言われた」と、将暉が11時頃家を出て行ってから、3時間が経過した。
私は、ドキドキしながら将暉が帰ってくるのを待っている。
気持ちを落ち着けようと、デロンギのエスプレッソマシーンでコーヒーを入れていると、サチ子からLINEが入った。
『任務完了！カウンセリングを受けるって言ってたわよ』というメッセージに、ウィンクの顔文字が添えられている。
どういう経緯で将暉がカウンセリングを受けることに納得したのか、彼は怒っていないだろうか。
色々聞きたくて、サチ子に電話してみるが、繋がらない。
「ただいま」
結局、サチ子と連絡がとれないまま、将暉が帰宅した。
なんて言葉をかけようかと考えていると、先に彼が、口を開いた。
「母さんに俺らのこと話してんだんだね。いきなりレスの話を切り出されて、驚いたわ」
「ごめんなさい。言わないでって、言われてたのに…」
すると将暉は、穏やかな口調で言った。
「母さんからこっぴどく怒られたよ。今までごめんな、カウンセリングにはちゃんと行くから安心して」
期待していた言葉のはずが、母親がでてきた途端の言動の変わりっぷりに、やや戸惑いを感じる。それでも、嬉しい気持ちのほうが勝る。
「将暉、ありがとう。嬉しいよ！」
「じゃあこの話はここまでね。少し早いけど、夕飯に散歩がてら三茶の『東京餃子楼』に行かない？」
将暉が、テンション高めに誘ってくる。餃子は、私の大好物だ。
「いいね、行こう。準備するね」
将暉の本心はよくわからないが、私は、心の重荷を少しだけ下ろせた気がした。
▶前回：結婚1年目“夜を拒む理由”を夫に問い詰めたら。男の返事に思わず妻が…
▶1話目はこちら：プロポーズの直後、彼のスマホに1通のLINEが。慌てた男が口にした衝撃の告白
▶Next：4月11日 月曜更新予定
次週、カウンセリングを受け始めた将暉に、変化の兆しが…！？
