有名インスタグラマー美女に、御曹司が思わずドキっとしてしまい…【好きって言わせたい！vol.9】
同じ会社、同じ部署。そこで働く、27歳・同い年の美女ふたり。
世渡り上手のあざとい女子と、真面目過ぎて融通が利かない女子。
彼女たちは見た目から性格、そして行動まで、何もかもが“正反対”なのだ。
そんなふたりが恋に落ちたのは、同じ会社のイケメン次期社長！？
美女ふたりからアプローチを受ける御曹司は、一体どちらの女性を選ぶのか。
◆これまでのあらすじ
紗良と七瀬、大手製菓会社の広報部で働くふたりから、思いを寄せられる御曹司・英琉。バレンタインのお礼としてふたりとそれぞれ過ごすが、同僚として距離感が大切と思いサッと身を引く。そこへ、部長から呼び出しがかかる3人だが…。
Vol.9 3人で過ごす、最後の1ヶ月
広報部での研修も残すところあと1ヶ月となった、3月下旬のある日。
紗良と七瀬、僕の3人は、ロンドン発祥のイタリアンレストラン『リナストアズ表参道』に来ていた。
ピスタチオグリーンの看板や外観が涼しげで、パッと目をひくこの店は、海外のカフェのような雰囲気が僕の好みだ。
近くを通りかかるたびに、いつか行ってみたいと思っていた。なので、紗良がランチミーティングの場所にこの店を提案してくれたのは幸運だった。
嬉々として店内に入った僕は、迷うことなくロンドン店人気No.1の「フレッシュトリュフとバターを使ったタリオリーニ」を注文する。
すると、僕の料理が最初にテーブルに運ばれてきたので、全員のメニューがそろうまで、視覚と嗅覚で楽しむことにした。
やっと、ふたりのメニューもそろい、トリュフとバターが香る平打ちパスタを口に運ぼうとしたとき。七瀬のひと言が、その場にピリッとした緊張感を漂わせた。
「これから仕事のやり取りがスムーズにできるように、3人のグループLINEを作りますね。私が招待します」
それに対して、「えっ…？」と声をもらしたのは紗良だった。
七瀬と自分がLINEでつながっていることを口外されて、少し気まずくなった僕は、目尻を指先でかく。そんな僕の様子に気づいた七瀬もまた、かすかに動揺して視線が泳いでいる。
そうしている間にも、パスタの上に乗ったトリュフからはどんどん香りが飛んでいく。
「と、取りあえず食べましょう！」
右隣りからは紗良、正面からは七瀬の視線を感じながら、僕は何げないふうを装って食事を済ませた。
― この3人で、これから1ヶ月過ごすのか…。
部長から呼び出された日。
僕は、こんなふうに気を揉む日が続くことになるなんて、想像もしていなかったのだった。
3人が急接近！これから始まるのは…？
「一ノ瀬さん、それと、村上さんと長谷川さんもちょっといいかな？」
僕たちが部長から呼び出されたのは、ホワイトデーの翌週。
ふたりの女性にバレンタインのお礼を済ませた僕は、彼女たちと距離が近くなりすぎたことを反省し、仕事上での最低限の関わりだけを徹底していたところだった。
― このタイミングで、このふたりとの呼び出しって何だろう？
胸にかすかなザワつきを覚えながら、部長の話に耳を傾ける。
そんな僕の心配をよそに、話の内容は4月に会社の公式Instagramをリニューアルするので、3人に運営を任せたいというものだった。
既存のInstagramは稼働していることにはしているが、フォロワーは1万人強。
せっかく新商品が発売になっても、ただ何となく写真が載せられているだけだし、その写真も『いいね』をしたくなるかといったら微妙なものだった。お世辞にも、映えてはいない。
広報部に来てから、バレンタインデーとホワイトデーに企画ものの動画制作を経験した僕は、自分が編集作業が好きだということに気づいていた。
撮影した動画に音楽をつけたり、文字を入れたりするのが楽しい。そこで、このInstagramも何とかしたいとひそかに思っていたのだった。
「ぜひ、担当させてください！」
僕がこう答えると、紗良と七瀬も二つ返事で引き受けた。
ここまでは、よかったのだ。
「ねえ、長谷川さ〜ん！この投稿だと、文章が硬すぎて『いいね』が少ないんですけどお！ほらっ、見てっ」
「そう？村上さんの投稿は、ちょっとカジュアルすぎると思うんだけど」
4月になると、僕らは通常業務の合間を縫ってミーティングをするようになった。
内容はInstagramの投稿を今後、どうするかについてだ。
基本的には、1日1回の写真の投稿。撮影は僕が行い、紗良と七瀬が文章を考えて、日替わりで投稿している。
目標は、4月中にフォロワー3万人達成。なのだが…なかなか成果が上がらずにいると、紗良と七瀬の小競り合いが目立つようになった。
そもそも、紗良はパステルカラーの背景や小物を使い、写真に書き込む文字はかわいらしい丸ゴシック体を好む。一方で七瀬は、白や黒、グレーといったモノトーンがベースで、文字はすっきりとした明朝体を使う。
おかげで、投稿は可愛らしい日と、クールな日が1日置きにやってきて、統一感がまったくないのだ。
ふたりもそれをわかっているのだが…お互いにこだわりがあるようで譲らない。
「村上さん、これは会社の公式Instagramなんだから、言葉遣いはもっと丁寧でなくちゃ」
「だからあ、それだとみんな読む気がしないじゃないっ！SNSは、ちょっと軽いくらいでいいんだってえ。ね？一ノ瀬さんはどう思いますっ？」
― ふたりのちょうど中間くらいのニュアンスがいいんじゃないか…なんて言ったら、睨まれそうだな。
そう思った僕は、こんな提案をした。
「ふたりのそれぞれの良さを生かして、3投稿ごとに交代するのはどうでしょう？スマホでもパソコンでも、Instagramって3投稿が横1列に並ぶじゃないですか。なので、1列ごとに感じが変わるのは、逆にアリかなと」
こうして、紗良と七瀬がチクチクと言い合うことは少なくなったのだった。
しかし、4月半ばになっても社のInstagramのフォロワーが大きく増えることはなく、僕らはふたたび部長に呼び出された。
「ちょっと、いいかな？明日なんだけど…」
フォロワーが一向に増えない…部長から切り出されたこととは？
「明日なんだけど、別の打ち合わせで有名なインスタグラマーさんに来てもらうことになっているんだ。ちょっと時間をもらったから、3人ともいろいろと教えてもらうといいよ」
部長が言うには、営業部がそのインスタグラマーと一緒になって、新商品のプロモーション企画を練っているらしい。
僕は、そのインスタグラマーのアカウントを教えてもらうと、早速チェックしてみた。
そこには、ケーキや焼き菓子、菓子パンなどの写真が収まりよく並んでいた。セピアがかったフィルターには、クラシックな雰囲気とこなれ感がある。
ポイントを押さえた簡潔な文章は、主観が控えめ。それなのに、投稿しているものの魅力がよく伝わってくる。
― フォロワー10万人か。確かに、素敵なアカウントだよな。一体、どんな人が投稿しているんだろう。
フード系インスタグラマー“natsuko”は、食べ物以外の投稿を一切しない。本名や年齢、顔、その他一切の個人情報については、非公開だ。
知ることができないと、余計に気になる。
僕は、翌日のnatsukoとの打ち合わせを待ち遠しく感じた。
◆
次の日。
「natsukoです。よろしくお願いします」
広報部へやって来た彼女を一目見て、僕は息を飲んだ。
― えっ…？彼女がnatsukoさん？由衣に…ちょっと似てるな。
natsukoは、吸い込まれそうなほどの透き通る白い肌をしていた。さらさらとしたセミロングの黒髪を緩く巻いていて、ロイヤルブルーのニットが良く似合う。
「御社のInstagramを拝見させていただきました。私なりに気になったところをまとめてきました」
会議室に場所を移して、僕ら3人とnatsukoが向かい合うかたちで座ると、彼女は自分が使っているアプリや加工方法などを惜しげもなく教えてくれた。
「なるほど！勉強になります。僕は、natsukoさんのこの桜のロールケーキの投稿が好きなんですけど、これって背景に置いてあるのは造花ですか？」
「はい！それは、ホームセンターで買った作り物なんです。買ったものをそのまま使用せずに、自分で少しアレンジしてから使っています」
僕が、natsukoからよく行くという店舗の情報を聞いていると、紗良が会話に加わった。
「natsukoさんっ、すご〜い♡さすが、人気インスタグラマーさんですねっ！あ、インフルエンサーさんっていうんでしたっけ？ちなみに普段って、インスタ以外にどんなことをされてるんですかあ？」
これは、ちょっと失礼な質問なのではと、ヒヤヒヤしながらnatsukoの方に視線を向ける。
「ありがとうございます。普段は、グルメサイトに寄稿したり、旅先で食べたもののレポートを書いたり、ライターの仕事をしているんですよ。何か、食べることばっかりですけど」
natsukoは気を悪くするどころか楽しそうに、いま気に入っている発酵食カフェの話をした。
それにしても、インスタグラマーとライターとは、彼女は流行への感度が高い人なのだろう。
僕は、この日の午前中に撮影した投稿用の写真を彼女に見てもらおうと、カメラを手に取る。ディスプレイを覗き込む彼女と、距離がグッと近づく。
― ん？何だろう、この匂い。
natsukoからは、甘くて香ばしい匂いがした。
「そうだ！今朝、自宅で焼いてきたフィナンシェがあるので、あとで召し上がってください。これ、砂糖を減らして甘酒を使ってるんですよ」
「へえ、甘酒ですか。健康に良さそうですね。ありがとうございます」
七瀬が受け取った白とグレーのストライプのボックスの中には、個別に包装されたフィナンシェがぎっしりと詰まっている。お店で買ってきたもののようにクオリティが高かった。
こうして、わずか1時間の打ち合わせが終わる。
好きなことを生き生きと語るnatsukoは、とても魅力的だった。
「natsukoさん。よかったら、またいろいろと教えてください。今日は、ありがとうございました！」
「私でよければ、ぜひ。では、失礼します」
帰り際、natsukoと会社のInstagramとで相互フォローをすると、フォロワーが一気に100人も増えた。
僕は、ホクホクとした気持ちでデスクへと戻ったのだが、今度は七瀬の言葉に肝を冷やすことになった。
「そういえば一ノ瀬さんって、Instagramやってますか？どんな投稿をしているのか、見てみたいです」
ここのところ、七瀬は攻めの姿勢だ。
「やってますが、やってないですね」
僕は、七瀬そして紗良と一定の距離を保つために、こんな中途半端な返事をしてしまった。
「あっ…？そうなんですね…。わかりました」
こうして、七瀬は大人しく引き下がってくれた。
だが、Instagramがきっかけでまさかあんなことになるとは…。この時の英琉は、思いもよらなかったのだった。
▶前回：初デートは意外な“あの場所”！？真面目女子のお礼LINEで、御曹司がそっけない態度を取ったワケ
▶1話目はこちら：容姿と性格が真逆の美女ふたり。そこに御曹司が配属されて…？
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