キスから始まった恋が1年で破綻。男が不満だったのは…【選ばれし女 vol.5】
ハイスペ男に”選ばれる女”は、一体何が違うのか？
「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」
と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。
彼の結婚の決め手は何だったのか――。
6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰？
▶前回：Case2：2017年の行野澪（23歳）
Case2（回答編）：2017年の桜井和真（30歳）
猫も杓子もInstagramが話題になっていた2017年。
グラフィックデザイナーの桜井和真がフォローしていたのは、仕事仲間が多かった。みんな自身の作品や告知をアップしていた。
グランドキャニオンを旅したとき、現地で知ったネイティブアメリカンの言い伝えをテキスト画像でアップすると、仲の良い友達に笑われた。
「なにこの、ポエム？」
その後、意地になってネイティブアメリカンの言い伝えをいくつもアップしてみたが、友人たちの反応はイマイチだった。
たまたま飲み会で知り合った女性が、和真と同じようにポエムを投稿して友人にからかわれた体験をしていたと聞いたときは、共感した。
彼女はリルケが好きらしい。和真も同じだ。
「ポエム仲間として、よろしく」
思わず握手した相手こそ、7つ下の行野澪。
彼女と出会ったのは、東京中で毎夜、星の数ほど開かれる凡庸な飲み会。
お互いそれっきり連絡をとっていなかったので、もう二度と会うことはないと思っていたが、1ヶ月後、自宅テラスで行われたBBQで、和真は澪の姿を発見する。
その日、酔って饒舌になった和真の話を、澪は熱心に聞いていた。
解散後、澪からLINEが届く。
『和真さんともっと話したいです。ゴハンに連れてってもらえませんか？』
キッカケを作ったのは澪だった。しかし和真は…
声量も表情も控えめな澪は、息をのむような派手系の美人ではないが、清楚な見た目で男受けはいいのだろう。
ミスキャンパスにエントリーされたのも、よく理解できる。
将来の夢は可愛いお嫁さんなんて言うタイプだな、と思っていたらBBQで本当にそっくり同じ発言をしていて、和真は笑ってしまった。
そのことを思い出しながらLINEを返す。
『澪さんは“魚が好き”って言ってましたよね？海鮮が美味しいイタリアンを知っているので、そこに行きますか？』
『ぜひ♪』
1時間ほどしてから澪から返信が来る。
とはいえ、お互い友人として会うという認識だった。
「男同士で2人きりで会うことはデートとは言わないのに、男女が2人きり会うとデートって呼ぶのっておかしいと思う」という和真の発言に対して、澪がうんうんと頷いて聞いていたから。
2人きりで会ううちに
初めて2人きりで会ってみると、大勢でいるときは無口だった澪がよく喋るので、和真は面食らった。
特に、過去に和真が手掛けた仕事について、あれこれ尋ねてきた。
しかし、質問の内容がそれも浅い。作品の名前を列挙するだけで、それ以上深い質問をしてこない。
― ああ、どれもネットで“予習”してきたな。
澪は大学を卒業したばかりで商社の一般職。和真とは働いている業界も違いすぎるし、年齢も7つ離れている。
話が合わない可能性もあるから、和真が話しやすい内容を事前に考えてきてくれたのだろう。
そんな澪が懸命に背伸びする姿が、和真には可愛く見えた。
「澪さんとは話が合うから楽しいです」
帰り際に伝える。
純粋な“話が合う楽しさ”で言えば、玲奈が上回るが、澪の健気さに応えたいと和真は思ったのだ。
それから何度も和真は澪と2人きりで食事をした。
「澪に会いたい」という積極的な感情はとくになかったが、健気な彼女から誘われると断れなかったというのが本心だ。
だが、2人きりで会うようになってから3ヶ月が経ったころ…。
『ル ブション オガサワラ』の大皿料理で腹を満たしたあとに訪れた2軒目のバーで、2人の関係は変化する。
カウンター席で、密着するような距離感で澪は言った…。
「私たち、よく2人きりで会ってますけど、これってデートですか？」
「えっ…」
そう言われて和真は自分の気持ちを見つめ直した。
玲奈から同じような質問をされたとき、和真ははっきりと「この人とは友達だ」と思った。
ところが、不思議と澪に対しては、「好きだな」と感じたのだ。
「最初はデートとは思ってなかったよ、でも、今はデートだと思ってる」
バーを出ると澪が和真にキスをせがんできた。
「もうデートは終わりなのに、和真さんはキスもしてくれないんですか？」
和真は断れない質問に弱い。
「まいったな」
照れながらも澪と唇を重ねたとき「彼女のことが好きなんだ」と確信した。
男女関係になったものの、意外なことがネックになっていく・・・
交際が始まるが…
和真は前妻と離婚を経験し、二度と結婚しないと決めていた。
「俺は澪さんが思っているほど『大人』じゃなくて、結婚には向いていないタイプの人間なんだ。だから付き合っても結婚はできない」
それでも良ければ、と前置きして和真は告白した。
澪は満面の笑みで頷く。
その笑顔を見て、和真はさらに彼女を愛しく思った。
が、付き合い始めると澪は引っかかる発言が増えていく。
「和真さん、考えすぎですよ」
最初は、二度と結婚しないという和真のスタンスについて、澪は「考えすぎですよ」と伝えてきた。
その後は、受容できない仕事相手の態度や社会情勢などに和真が何かコメントするたびに、澪は「考えすぎ」と言ってくる。
「澪さんって、俺のことを面倒くさい男だと思っている？」
一度、真正面から聞いてみた。
「そんなこと思ってないよ！」
澪は慌てた素振りで否定するだけだった。
彼女といると話が進展しないのだ。
時が過ぎていくほどに、和真は物足りなさを感じるようになる。
交際前に会っていたころから今に至るまで、澪に対して居心地の悪さを感じたことはない。
だから「会話」は続く。ノンストレスだ。しかし「対話」がないことが気になっていた。
― もし同じ話を玲奈としていたら…。もっと色んな意見の応酬になって、新しい発見があるかもしれないのに…。
比べてはいけないと思いつつ、刺激的な対話ができた玲奈を、どうしても思い出してしまうのだ。
悩んだ末、和真は正直に伝えることにした。年は変わり、2018年になっていた。
「友達のように遠慮なく、忌憚のない意見を言ってほしい」
澪は、和真に嫌われたくないばかりに無難なことしか言わない。
ネットで集めた付け焼き刃の知識で和真と初めて飲んだときから、澪は何も変わっていない。結果、対話が深まらない。
「もし君と刺激的な対話ができれば、ある人のことを思い出すこともなくなると思うんだ。そういう意味で今後は、君とは恋人としてだけでなく友達としても交際を続けたいと思っている」
玲奈の名前こそ出さなかったが、和真は丁寧に想いを伝えた。
伝えたつもりだった。
「私と友達に戻りたいってこと？」
澪は顔面蒼白になっていた。
「誤解してほしくないのは、これは別れ話じゃないんだ」
和真は訂正するが、澪の耳には届かない。
「私以外に気になる女の人がいるってこと？」
「そうじゃないんだ」
和真は即座に否定し、あらためて想いを伝える。
だが澪は聞いてくれない。
「その人のことを思い出すって言うなら、そういうことでしょ？」
澪は涙を堪えた表情で言う。
「他に気になる女性がいるんだ…」
澪はもう一度、自らに言い聞かすように、呟いた。
和真は「そうじゃない。それは誤解だ」と思ったが、言い返す気力を失い、無言で返した。
― 澪さんと、ついに話が通じなくなった…。
和真は澪との間に横たわる問題を解決するため「友達のような対話がしたい」と提案したが、澪はそれを別れ話だと思い込んだ。
どれだけ懇切丁寧に説明しても、澪の耳には届かない。
男性が論理的になればなるほど、女性は感情的になる。
世の中にごまんといるカップルのすれ違いが、まさか自分たちの身に起こるとは、和真は予想だにしていなかった。
同時に自分の思慮の浅さに愕然とする。
― 俺の言い方が間違ってたんだ…。俺が悪かったんだ…。
予想外の自分の愚かさ。
その後、何度か澪と話し合いの場を設けたが、どれだけ説明しても和真の本心が澪に伝わることはなかった。
◆
こうして澪との関係は終わった。
しかし2018年も半ばを過ぎると、ふたたび彼女との未来が切り開かれるのだが…この時点の和真は想像もしていなかった。
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2018年に出会った女性は、最初は仕事相手だったけれど…
