回転寿司評論家が超厳選! 2022年注目の回転寿司新店3軒

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人々が回転寿司に求めるものは多様化し、それに応えるような新店が登場している。今回は、回転寿司の存在意義を示している今年注目したい3店舗をご紹介!

そもそも回転寿司の存在意義とはなんだろうか? 回転寿司が誕生してから六十余年の月日が流れ、長らく「安く寿司が食べられる場所」として親しまれてきた回転寿司も急速に変革を遂げている。

人々が回転寿司に求めるものは実に多様化し、それに呼応するように従来の価値観とは異なる店が登場しているのだ。今回紹介するのは、そんな回転寿司の存在意義を示している、今年注目したい新店3店舗である。回転寿司の新たな「挑戦」を見届けていただきたい。

「廻転鮨 銀座おのでら本店」の「やま幸 本まぐろ三貫盛り」  写真:お店から

1.江戸前寿司をお手頃価格で!「廻転鮨 銀座おのでら本店」

昨年10月のオープン以来、回転寿司の常識をことごとく打ち破ってきた「銀座おのでら本店」。高級寿司店が手掛けた店として人気を誇っているが、この店から感じられるのは、寿司を握ることに「回転」も「立ち」も関係なく、行うべき仕事をきっちりと成し遂げれば人々の心を捉えることができる、ということだ。

「廻転鮨 銀座おのでら本店」外観
「廻転鮨 銀座おのでら本店」内観

寿司店が回転寿司業態に進出すること自体はそれほど珍しいことではないが、「銀座おのでら」がほかの回転寿司店と決定的に違うのは「江戸前寿司」へのこだわりである。

たとえば、回転寿司には欠かせない冷凍魚に関しては、高級回転寿司と言われる店でもその性質上、相当量を使わざるを得ない。しかしこちらでは、生での扱いが厳しいほんの一部の商品にしか冷凍魚は使用しておらず、基本本店で使用している魚と同じものを使い、仕込み方もまったく一緒だという。

なるほど、「銀座おのでら」はこれまでになかった江戸前寿司をリーズナブルに提供する回転寿司店を目指しているということか。回転寿司のメリットである手軽さは客だけの恩恵ではなく、店にとってもオペレーションの簡略化をはじめ、職人育成や食材調達など多大にある。だからこそ、各企業が回転寿司に魅力を感じ参入しているのだとも言える。

しかし「銀座おのでら」はそれらメリットをすべて捨てて、たった一点「来店のハードルが下がる」という回転寿司の看板力のみを利用することを選んだということだ。既存の回転寿司の概念では推し測れないのも当然だろう。

以下、「銀座おのでら」で江戸前の仕事を感じられる寿司を紹介したい。ちなみに、江戸前の寿司には煮切り醤油が塗られている。角の取れたまろやかな味わいの醤油で食べる寿司を堪能してほしい。

「自家製小肌」320円

回転寿司で仕込みを行っている数少ない寿司である小肌も「銀座おのでら」が手がけるとこうなってしまうのか、というくらいに唸らされる。こちらの小肌はキリッとした酢の味わいが印象に残り、つんと鼻を抜けていく余韻に心地よさを感じるほどで「これだよ、これ」と思わずひとりごちてしまう旨さ。「銀座おのでら」のブランド力がよくわかる一品だ。

「やま幸 本まぐろ大トロ」930円

日本一のマグロ仲卸との呼び声が高い「やま幸」から常時本マグロを仕入れることができるのは回転寿司では「銀座おのでら」しかないだろう。その意味でも店を代表する寿司であると言える。

今は大手チェーンでも本マグロの大トロが300円ほどで食べられるが、しっかりと熟成させたマグロの味わいは格別で、口の中で溶け出す脂の質が恐ろしく違うことに呆然とするかもしれない。「今まで食べていた本マグロの大トロはなんだったのか」と思ってしまうほどの味わいである。

「やま幸 本まぐろ赤身漬け」510円

回転寿司店の漬けネタは残念ながら江戸前の手順をいくつか省いていることが多く、油断すると漬けだれに漬け込んだだけの寿司になっているものも多い。「兄貴になった(古くなった)から漬けにして出すか」という意識なのだろうか、おいしいマグロの漬けを提供したいという志が表れた寿司に出会ったのは数えるほどしかない。

しっかりと仕事がされているこちらの漬けの味わいからは、マグロの持つ旨味の何たるかを感じることができる。ここのマグロ寿司はいわゆる「銀座の味」だ。

「自家製煮穴子」620円

「自家製煮穴子」の、何年も継ぎ足している煮汁で炊き上げた穴子のふっくら加減、ツメのコクは簡単に真似ができるものではない。特に既成のツメは添加物などの嫌な甘さが気になって仕方がなかったので、キレさえ感じるこの味わいにはなんともホッとする。是非とも食べていただきたい寿司である。

「厳選うに二種食べ比べ」1,860円

赤酢の酢飯は米の粒感がしっかりと感じられ、ふんわりとした人肌の温もり。個人的には甘さが抑えられているのがうれしい。

こちらは北海道産のバフンウニとムラサキウニの食べ比べで、赤シャリとの相性の良さが際立つ。ウニの風味がしっかりと感じられ、心地よい余韻が残る。酢飯の存在感をより実感できる寿司である。

「手仕込みかんぴょう細巻」320円

かんぴょうまで店で仕込んでいたとは驚いた。職人さんに話を聞いたところ、とにかく「銀座おのでら」の総料理長である坂上暁史氏のやり方を徹底的に仕込まれ、厳しいチェックのもとに仕事を行っているとのこと。

筆者は〆にわさびをたっぷりと入れた「鉄砲」(わさびを入れたかんぴょう巻き)を食べるのが好きなのだが、もちろんこちらで使用されているのは本わさび。回転寿司では不人気寿司の上位に入るかんぴょう巻も、ここでは不動の〆寿司に君臨してもおかしくはない。

さて、これまでにも「そんなに高い寿司を食べるなら普通の寿司店に行くけど」「回す必要はあるのか?」と散々言われてきたが、普通の寿司店に行ってもこのレベルの寿司をこの値段では食べることはできないし、回転寿司という業態だからこそ来店しやすくなっていることは無視できない事実だ。

この店に来てとにかく驚いたのは若者が多いこと、そして高級回転寿司店の倍以上にもなりそうな客単価であるにもかかわらず、平日の午後でもひっきりなしに客が訪れていることだ。若者でなくても銀座の寿司店はハードルが高く、行ってはみたいけどその勇気がないという方にとって、この店の価値は絶大だ。そうか、江戸前寿司とはこういうものなのか、といつもの回転寿司との違いを実感できることだろう。


<店舗情報>
◆廻転鮨 銀座おのでら 本店
住所 : 東京都渋谷区神宮前5-1-6 イルパラッツィーノ表参道 1F
TEL : 050-5571-0781

2.地元食材のオリジナル寿司に注目「群馬いちもん金沢まいもん スマーク伊勢崎店」

「なぜこの発想がなかったのか!」と回転寿司の可能性を感じさせてくれる店が昨年10月群馬にオープンした。店の名前は「群馬いちもん金沢まいもん」。そう、「金沢まいもん寿司」が仕掛ける新業態の回転寿司店だ。

「群馬いちもん金沢まいもん」外観
「群馬いちもん金沢まいもん」内観

「群馬を握る まぐろ問屋いちもん」はマグロ問屋が経営する回転寿司店として20年以上、群馬の回転寿司を牽引してきた人気店であり、3年前に「金沢まいもん寿司」グループの傘下に入った。一方「金沢まいもん寿司」は日本の主要都市のみならず海外進出も果たし、今業界で最も勢いがある企業の一つになっている。

通常は元のブランド名のまま営業するか、親会社のブランドに変更するかのどちらかだが、なんと二つのブランド名を持った店舗で来るとは思いもよらなかった。店名に込められた思いを考えれば、真の意味での融合を目指していることがよくわかる。そしてこの融合は企業間にとどまらず商品にまで展開したことで、新たなご当地寿司が誕生することになった。

「そうか、回転寿司が行うべきご当地寿司のあり方とはこうだったのか」と気づかされた寿司を紹介したい。

「たむらや握り」380円

「群馬では知らない人がいない」とまで言われ、創業120年を超える老舗味噌漬け店「たむらや」とコラボした一品。

地元密着型の回転寿司店では地産地消に根ざして地元食材を使ったオリジナルの寿司の創作に取り組んでいることが多いが、これほど目から鱗が落ちたことはない。地元で有名な老舗の食材を使った寿司ならば、地元の方はもちろん、観光客にも大きなアピールになるし、何より文化の融合によるシナジーが期待できる。

こちらの寿司は真鯛と酢飯の間に「たむらや」一番人気の「みそ漬け大根」が挟み込んであり、大根のパリッとした心地よい歯応えと濃厚な味噌の旨味が素晴らしくマッチしている。近年、最も感心した寿司の一つである。

「大粒ブラックダイヤ」280円

創業60年ほどになる「下仁田納豆」は、昔ながらの手作りにこだわる高級納豆店として全国にも知れ渡っている。七輪による備長炭で暖をとり発酵させた納豆はふっくらとしており、一度食べたら忘れられないと評判である。

こちらは高級納豆「黒大粒豆納豆」を使用しており、ふっくらホクホクの食感と栗きんとんのような滑らかな味わいがたまらない。この納豆のポテンシャルを保つためにフリーズドライの醤油をトッピングしているところが工夫の表れ。ブラックダイヤと呼ぶにふさわしい黒豆納豆のインパクトが心に残る寿司だ。

「赤城牛ミスジ握り」580円

日本有数の肉用牛一貫経営牧場(子牛の誕生から出荷までを手がける)として60年の歴史を持つ「鳥山畜産食品」の赤城牛は、赤身の旨みを極めた肉として知られている。中でも希少部位のミスジは旨味成分でアミノ酸を多く含み、やわらかくきめ細かな肉質が特徴であり、これを淡雪塩という米粉を使った塩で仕上げている。とても口溶けが良く、肉の上に雪が降ったような視覚効果も与えてくれる。

「群馬の赤城牛か……この味わいとともに覚えておこう」という気持ちになる人は多いのではないか。

「名物いちもん巻」680円

全国のうずらの20%を飼育している「高崎クエイル」は、餌からこだわり抜いた鶏卵を上回る栄養価のたまごを生産している。この卵黄を醤油漬けにしているのがこの寿司のポイント。自家製ネギトロの中巻寿司とのカップリングで、とろけるような卵黄の濃厚な味わいがさらに引き出されている。

「塩麹で漬け込んだバイ貝炙り」580円

ご存じ、北陸が誇る史上最強の貝の一角「バイ貝」を、450年以上の歴史を持つ群馬が誇る老舗中の老舗「糀屋」の塩糀でいただくという、この店のコンセプトを体現した一皿。まいもん寿司で使用している「能登塩」を原料とし、「糀屋」の技術力でオリジナルの塩糀を開発したというのだから、これ以上のコラボ寿司はないだろう。

その塩糀にバイ貝を漬け込むとこれがなんともまぁ良い香りで、旨味が凝縮された糀にクラクラとするくらいだ。それに負けないバイ貝の味わいもなんとも鮮烈。まさに北陸と群馬が融合した新ご当地コラボ寿司である。

コラボ寿司を実現するにあたり、各企業に出向き寿司や食材への思いをぶつけ、ご理解いただき、協力してもらえることになったと聞いた。

これまでご当地寿司とはその土地の名物食材を使った寿司だとばかり思っていたが、名物企業の商品もまたご当地寿司になり得ることをこの店は示してくれた。それはありそうでなかった発想であり、大手チェーンに圧倒されて疲弊している地域密着型回転寿司店の未来を創造するものであると思っている。「金沢まいもん寿司」が本気で群馬に根差そうと考えに考え抜いたからこそ誕生した寿司であり、その尽力に心から敬意を表したい。

群馬のいち「もん」、金沢のまい「もん」。「もん」つながりの両寿司店の文化融合により生まれたこの寿司たちが、業界に不動の価値観をもたらすまでにそう時間はかからないはずだ。


<店舗情報>
◆群馬いちもん 金沢まいもん スマーク伊勢崎店
住所 : 群馬県伊勢崎市西小保方町368 スマーク伊勢崎 1F
TEL : 050-5570-8774

3.史上初! 回転寿司店が造る日本酒「独楽寿司 町田木曽店」

昨年11月に回転寿司激戦区の町田街道沿いにオープンした「独楽寿司」の最新店。海をイメージしたマリンブルーが映える水族館のような店舗になっている。

「独楽寿司 町田木曽店」 の外観

さて、新しい試みをし続けるという点で「独楽寿司」はその名の通り、独創的な取り組みを楽しくチャレンジしている回転寿司店である。

これまでにも、店内の釣り堀や業界初の「500円飲み放題」などメガヒット企画のほか、店で使用している米の生産地とコラボし、お互いの地元で寿司や米の販売を行うなど生産者支援活動も行ってきた。

ランチの「上にぎり」(みそ汁付き) 1,000円  出典:pureberryさん

しかし、昨今のコロナ禍により独楽寿司専用に作ってもらっている長野県筑北地区生産の天日干し米が余るようになってしまい、これをなんとかしたいと思い考えついたのが今回の奇策。なんとこの米を使った日本酒を造ろうというのだ。

コシヒカリは酒造好適米ではないのだが、米の個性が出るように精米歩合70%にし、酵母も飲みやすさを考えて「1801酵母」を使用したという。協力したのは長野県諏訪市の酒造「舞姫」。オール長野による史上初の回転寿司店が造る日本酒が誕生することになったわけだ。

「独楽 純米酒」180ml 528円

仕込んでから1ヶ月、完成したのがこちら。お店曰く「非常に出来が良く、こちらが狙った食中酒としておいしい純米酒に仕上がりました。余った米を無駄にすることなく、新しくおいしい純米酒に生まれ変わらせることができてホッとしています」

酒好きが集まる回転寿司店としての自負がある店だからこその取り組みは、回転寿司の可能性をさらに広げてくれるものとなった。常識にとらわれないチャレンジこそ、未来型の回転寿司店を創っていくことだろう。

「独楽寿司」のチャレンジからは目が離せない!


<店舗情報>
◆独楽寿司 町田木曽店
住所 : 東京都町田市木曽東1-49-16
TEL : 042-851-7272

※価格はすべて税込です。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

文・写真:米川伸生

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