10回デートしてもキスもなし。煮え切らない男をその気にさせた“女の一言”とは
ハイスペ男に”選ばれる女”は、一体何が違うのか？
「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」
と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。
彼の結婚の決め手は何だったのか――。
6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰？
▶前回：Case1（回答編）：2016年の桜井和真（29歳）
Case2：2017年の行野澪（23歳）
2017年、老いも若きも男も女もInstagramに夢中だ。
中央大学を卒業し、商社の一般職に就いた行野澪（ゆきのみお）の周囲も、“インスタ映え”を意識した日常を過ごしている。
しかし、自分の日常をさらすというのがどうにも性に合わなくて、何枚か風景写真など投稿しただけで閲覧専用となった。
「自分の好きなものをアップしてみたら？」
友人にそう言われて、澪は学生のころから大好きだったリルケの詩をスクショして投稿したら、友人からは冷笑された。
「なにこれポエム？文学少女キャラ作ってんの？」
「いいね！」はしてくるくせに、リアルでは誰も理解してくれなかった。
が、とある飲み会で澪に共感してくれる男性がいた。
「ははは。俺もリルケ好きですよ」
彼の名前は桜井和真。7つ年上の30歳。
やや長めの前髪をセンターパートにしていた和真は、アーティスティックな雰囲気が漂っている。
澪が勤める商社にいる体育会系あがりの男性社員たちとは、真逆の空気をまとっている。
「ポエム仲間として、よろしく」
和真に笑いながら握手を求められ、反射的に手が動いた。
彼の手に触れたとき「あ、好きになりそう」と澪は思った。
しかし、和真がバツイチだと知った澪は…
飲み会が終わって…
飲み会の帰り道、澪は「桜井和真」についてネット検索した。
グラフィックデザイナーとして学生時代にブレイクし、現在は起業家としても活躍している、という記事を見つける。
― ふ〜ん。知らなかったけど、すごい人なんだ。
ググっただけなのに、電車を降りるころには、和真のことが気になり始めていた。大学の同級生と別れて以来およそ2年ぶりの感情だった。
しかし、帰宅早々、事態は急変する。
ソファにうずくまって検索を続けていると、和真の友人らしきSNSに「和真！離婚おめでとう！」というコメントを発見したのだ。
― バツイチの男の人は、やっぱり無理かな。恋愛している自分が想像できない…。
澪はどういうわけか失恋した気分になった。気を取り直すためにシャワー浴びることにする。
シャワーから出ると、飲み会に来ていた和真以外の男性が3人から「デートしよう」という趣旨のLINEが届いていた。
深いため息と本音が漏れる。
「は〜あ…。興味ない人からモテてもな…」
3人全員に、澪は社交辞令的な返信をしたあと、気づくと「桜井和真」についてまた検索を始めていた。
◆
澪は高校生の頃まで、いつも図書室で本を読んでいる“陰キャ”だったので、この世を謳歌する“陽キャ”をまぶしく見てきた。
しかし、大学2年のとき、なかば強引にミスキャンパスにエントリーさせられたき「もしかして私って、かわいい部類に入るのかも」と気づいた。
ちょうどそのころから、澪は男性からデートに誘われることが多くなった。
同じミスキャンパスの候補に選ばれた女性たちは、女子アナになりたい、ハイスペ男を捕まえてリッチになりたいなど上昇志向の人が多かったので、澪みたいに引っ込み思案でガツガツしていないタイプは珍しかった。
逆にそのギャップがいいという男性からよくモテたのだ。
社会人になると、澪はさらにモテた。
多くの男性は、澪のことを女として、そして恋人候補として見てくるので彼女は疲れていた。
― なんで男と女って、恋人関係に“なる”か“ならない”か、の2択しかないの？
そんな澪に、和真の言葉が刺さることになる。
和真の自宅テラスにて
澪が和真と出会った飲み会から1ヶ月後。
あの場にいた男女8人のメンバーに、さらに数人ほどが加わり、休日の昼間から和真の自宅テラスにてBBQが行われた。
デートに誘ってきた例の3人の男性からは積極的に話しかけられたが、澪は、さりげなくかわしていた。
和真も含め数人で恋愛トークになったとき、彼が言った。
「男同士で2人きりで会うことはデートとは言わないのに、男女が2人きりで会うとデートって呼ぶのっておかしいと思うんだよな」
男と女の間にあるのは恋愛感情や性欲だけではない。友情だってある。それが和真の主張だった。
「男と女でも、まずは人と人として接したいんだ」
「それは、和真がモテるから言えるんだよ」
男性の1人が茶々を入れる。
「でも…なんか、もったいないよ。男女じゃなければ大親友になれたかもしれないのにって思う」
酔って饒舌になった和真を、澪はかわいいと思った。
そして、和真の言葉が澪の心に刺さると同時に、彼に対して親近感が湧いた。
― 和真さんも、私と同じ悩みを抱えてるんだ。
その日の夜、澪は勇気を振り絞って和真にLINEした。
『和真さんともっと話したいです。ゴハンに連れてってもらえませんか？』
自分から男性を誘ったのは、このときが初めてだった。
『澪さんは“魚が好き”って言ってましたよね？海鮮が美味しいイタリアンを知っているので、そこに行きますか？』
嬉しい気持ちで即レスしたかったが、ぐっとこらえて、1時間ほど空けてから『ぜひ♪』と返した。
その後、思わぬ形で関係が発展する2人・・・
2人きりで会ううちに
和真は売れっ子のデザイナーで起業家だ。一般職のOLとは話が合わないかもしれない。そう思った澪は、会う前に彼自身のことや彼の仕事内容についてネットで予習をした。
努力の甲斐あって、和真は「澪さんとは話が合うから楽しいです」と言ってくれたので、澪は安堵した。
澪の方が7歳も年下にもかかわらず、和真が“澪さん”とさん付けで呼ぶところが、丁寧に扱われている感じがして、好きだった。
「また一緒にゴハンに行ってくれますか？」
帰り際の澪の発言に、和真は笑顔でうなずく。
「もちろん」
それから何度も澪は和真と食事に行った。3ヶ月の間に10回。スマホのカレンダーに会えた日を記しているので正確な数字だ。
和真と一緒にいると楽しかったし、澪はどんどん彼のことを好きになった。
澪は、和真のSNSやフォロー先から女の影をチェックした。彼の発言の端々からも推察した。そして、確信する。
― 今、和真さんと仲良くしている女は、私だけ！
ある夜、2軒目に訪れた渋谷のバーで、慣れないウイスキーを飲みすぎたせいか、澪は口が滑る。
「私たち、よく2人で会ってますけど、これってデートですか？」
「えっ…！？」
和真が驚いた表情で、澪を見る。その瞬間、澪は一気に酔いがさめた。
― 失敗した！
男女が2人きりで会うことすべてをデートと呼ぶことに、和真は違和感を表明していた。
だから澪は「女として見てくれなくても、いい」と恋心を隠して、和真と会っていた。
しかし、酔いに任せた発言がその努力を水の泡にしてしまった。澪は今すぐにバーを出て帰りたくなる。
澪にとっては長い沈黙のあと、和真が口を開いた。
「たしかに最初はデートとは思ってなかったよ」
「えっ」
「でも、今はデートだと思ってる」
澪は体がカーッと熱くなるのを感じる。ふたたびアルコールが体内を巡ったのかもしれない。
舞い上がった気持ちのままバーを出た澪は、気持ちが大胆になっていた。タクシーを拾うまでの間、和真に自分から迫る。
「もうデートは終わりなのに、和真さんはキスもしてくれないんですか？」
これまでの澪をデートに誘ってきた男性は、たいてい帰り際にキスを迫ってきたのに、和真はそんなそぶりを見せないので彼の気持ちを確かめたくなったのだ。
和真は驚いた顔で固まっている。
しかし、次の瞬間、彼は照れたように笑い、澪に寄り添った。
「まいったな」
2人はビルの陰でキスをした。
交際が始まる
その日はキスで終わったが、次に会った時、澪は和真から告白された。
「キスしてわかった。俺、澪さんのことが好きです」
澪は天にも昇る思いだった。
当然次に来る言葉は「付き合ってください」だろうと思い、心の準備をしていたら意外な言葉だった。
「でも…、伝えておきたいことがあって」と前置きして和真が告げる。
「俺、バツイチで、もう結婚はしなくていいと思ってる。そんな俺でも良ければ、付き合ってくれませんか？」
澪は、和真は正直な人だ思うと同時に、妙な自信もあった。
― そう言っているのは最初だけだよ、きっと。
もう結婚しないと誓っていたバツイチ男性が、いつの間にか再婚している事例は多い。ネット記事やSNSでもよく見る。
「もちろんです。私でよければ、和真さんの彼女にしてください」
好きになったら、バツイチかどうかなんて澪には関係なくなっていた。
◆
和真との交際は1年以上続いた。
最高の日々だった。澪は毎日幸せだったし、何の不満もなかった。
しかし2018年。
突然、和真から別れ話を切り出される。
「澪さんとは友達に戻りたいと思ってる」
“結婚”に前進するどころか、“友達”に後退するなんて…。
泣き喚きたい気持ちを必死に押し隠し、澪は努めて冷静に理由を尋ねた。
「他に気になる女性がいるんだ」
その瞬間、澪の頭は真っ白になった。
自分の何が良くなかったのか、想像もできない。
― どうして和真さんは私を選んでくれないの！？
答えは聞けないまま、澪と和真の関係は終わった。
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和真の真意。別れ話に対する、男女の“絶望的な溝”とは。
