レグミンの自律走行型農業ロボットが深谷ねぎの農薬散布で実用化 「NVIDIA Jetson AGX Xavier」搭載、高精度の自動運転を実現

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テクノロジーを活用した農作業の効率化を目指すスタートアップの株式会社レグミンが、自律走行型ロボットによる農薬散布サービスを開始した。このロボットは埼玉県深谷市で栽培されている名産品「深谷ねぎ」の農薬散布の自動化に使われている。このロボットには自律動作マシン向けのAIコンピュータボード「NVIDIA Jetson AGX Xavier」(Jetson Xavier)が搭載されていて、高精度の自動運転を実現している。スマート農業分野の省力化・自動化の最新事例として注目したい。
●農薬散布ロボットで60%異常の効率化を目指す
レグミンの農薬散布ロボットは1回の給水で300Lの農薬を散布することができる。今まで、人が動力噴霧機を用いて作業した場合、1ヘクタールあたり約400分かかっていたが、ロボットを導入することで約250分まで短縮できるという。さらに今年は複数台のロボットを同時運用することで、農薬散布サービスの実働時間を約150分に短縮することを目標としている。実現すれば60%以上の時間短縮となる。また、作業コストについても人が動力噴霧機を用いて作業した場合と比較し、1ヘクタールあたり45%のコスト削減を目指す。

●Jetson Xavierが自動運転機能を運用
レグミンの農薬散布ロボットにはカメラや地磁気センサー、GPS、温度センサーなど多数のセンサー類が搭載され、Jetson Xavierはそのすべてのセンサーから得られた情報を処理する頭脳として機能している。Xavierに搭載されたUbuntuを使い、GPSに加えてレーザーセンサーにより耕作地の地形を認識し、C++やPythonで記述したプログラムによりロボットは動作している。また、3次元の点群データをXavierで処理し、座標を得ることで畝(うね)の形状を認識し、くぼみなどに車輪を合わせることができる。この手法により誤差1〜2cmの高精度の自律走行を実現している(特許を取得)。

畝(うね)の形状を認識し、高精度の自律走行を実現(畝とは作物を植えつけたり種をまいたりするため、畑の土を細長く直線状に土を盛り上げた所のこと)
●農薬散布や防かび・除菌剤の散布は自動化が特に望まれる作業
レグミンが農薬散布ロボットの開発を目指したのは、農作業の中でも特に農薬散布における負担が大きいため。農薬は病害虫が発生したときに撒く殺虫剤だけでなく、防かび・除菌剤なども予備的に散布する場合もあり、年間を通じて20〜25種類にのぼる。小規模な耕作地が多い日本では大型の機械の導入が難しく、近隣への騒音の懸念もあるため、人による散布作業が中心であり、人件費が重くのしかかる。また、ホースの取り回しや暑い防護服の着用、農薬の吸入への懸念など、農家の身体的、心理的負担も大きく、ロボットによる自動化の余地がある、とレグミンの成勢氏は考えた。
●GPSだけでなく画像認識による補正が不可欠
しかし、 倉庫や農業ハウスのような一定の条件下で動かすのとは異なり、露地栽培では地面が土のため、でこぼこしていたり滑る場所もあり、自律走行をコントロールするのが難しく、実際に外で作業を行う農業用ロボットはこれまで実用化が困難とされてきた。自律走行を実現するための位置情報を取得するのはGPSが便利だが、精度が高くても衛星の位置や電波の干渉で誤差が出てしまうため、GPSだけでなく画像認識による補正が不可欠と成勢氏は感じるようになった。
●「GTC Japan」で自律走行するJetson搭載ロボットの光景から発想
そのような時期にNVIDIAが主催するAIカンファレンス「GTC Japan」に参加した成勢氏は、Jetson AGX Xavierを搭載したロボットがオフィスの中を自律走行するデモを見て、「Xavier ならば実際の農作業に貢献するロボットを実現できる」と直感し、その場でXavierを購入した。また、情報収集のためにNVIDIAのスタートアップ支援プログラムであるNVIDIA Inception Programにも参加することで、機械学習や画像認識に対する知見をより深めた。
「Xavierはシングルボードのコンピューティングプラットフォームであり、OpenCVの計算処理をエッジ側で行えるほか、ディープラーニングに必要なCUDAの処理にも対応しています。その使い勝手の良さから、これしか選択肢はありませんでした。」と成勢氏は述べている。
●追加の機能も今後搭載を検討、埼工大とも連携
レグミンは病害や虫害の早期検知の研究も進めているほか、埼玉工業大学をはじめとするNVIDIA DGX システムを所有する大学と連携し、機械学習を活用した共同研究にも取り組んでいる。最大で32TOPSの演算能力を持つJetson AGX Xavierモジュールはこのような研究成果を今後新たな機能としてロボットに搭載するための十分な余力を備えており、成勢氏がXavierを採用した理由のひとつでもある。
●サービスの対象や導入エリアを拡大予定、グローバル展開も視野に
農薬散布ロボットは畝の幅に合わせて動作できるようになっているため、他の農作物への応用も可能。レグミンはすでに新たな農薬散布サービスの受託対象として深谷市の特産物であるブロッコリーやキャベツを予定している。また、サービス展開地域を国内の他県だけでなく、今後はグローバル展開も視野に入れている。特に東南アジアは日本同様に小さい耕作地で作物を育てているケースが多く、レグミンの成勢氏は日本におけるサービスの適用が可能と見込んでいる。
レグミンは日本の食文化を守りたいという思いを持つ、成勢卓裕氏と野毛慶弘氏によって2018年に創業された。起業当初、静岡県で行った小松菜の栽培事業の知見を元に、埼玉県深谷市が実施する「DEEP VALLEY Agritech Award 2020」でロボットによる農薬散布サービスを提案し、最優秀賞を得たことをきっかけに、同市での活動をスタートした。
成勢氏は以下のように述べている。:

成勢卓裕氏
農業における人の作業負担の割合は大きく、AI をはじめとするテクノロジの導入は必須でしょう。人間が担う作業と機械によって自動化する作業は分けて考えることが重要です。天候に合わせた肥料の設計や育てる品種の決定といった分野は、人間の知識と経験が求められます。また、研究開発や販路開拓、マーケティングといった分野も人間が行う方が品質が上がります。すべてを機械に置き換えるのではなく、ユーザーのニーズを把握したうえで作業を細分化し、役割分担をすることで、効率化と品質の向上が実現できると考えています。


●NVIDIA GTC 2022でロボティクスについて学ぶ
NVIDIA Jetsonを活用した最先端のロボティクスや組み込みの技術については、3月21日から24日まで開催のバーチャルイベント「NVIDIA GTC 2022
」で最新情報を確認できる。基調講演では、創業者/CEOであるジェンスン フアン氏(Jensen Huang)が多数のニュースを発表すると見られている。また、AI、エッジ・コンピューティング、デジタルツインなどの分野で、世界トップレベルの研究者および業界のリーダーを含む約1,400人の講演者が900以上のセッションがおこなわる予定。参加登録は無料。GTC参加登録無料はこちらから